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魔王様Lv.1  作者: 9BO
3/7

生後10日のマルとバツ


 万歳誤解事件から3日がたった。

 水龍の力によって魔王城周辺は三日三晩の集中豪雨に襲われ、お城の中もなんだか湿気でじっとりしている。


 1メートル先すら見えなくなるほどの豪雨って――水龍は張り切って降らせすぎだと思う。

 こんな状態を続けて大丈夫なのだろうかと疑問に思うが、それを伝えることもできず、私はお世話係のゴブリンに体を拭いてもらっていた。


 別に拭いてもらわなくても汚れたりはしないみたいなのだが、存外これが気持ちよいのだ。

 体を拭くタオルを濡らすのに、ポーションを使っているらしいので、その影響なのかもしれないが。

 

 むふーんっ。気持ちいいわぁ。


 気持ちよさのあまり体をふるふると揺らしていると、一体のリビングメイルが近づいて来た。


「魔王様。そろそろ豪雨によって近隣の地形に影響が出ており、このままでは我々魔物(モンスター)の生態系にも被害が及びかねません。そろそろ雨を降らせることをやめてもよろしいでしょうか?」


 リビングメイルは他にも何体か見ているけど、その中でも一番強そうな禍々し漆黒の鎧を着ている一体だ。

 いや、鎧の中身はないから、着ているという表現はおかしいか。


 私は両触手を伸ばし、マルを作るように先端をくっつけて見せた。

 ――「いいよー」という意思表示だ。


 私のボディーランゲージでも、良いか悪いかぐらいは何とか伝えられるのだ。

 ここ三日の試行錯誤で、マルとバツだけはなんとか通じることが判明している。

 え?他?……全滅でした。下手に動かない方がいいと悟ったよ、うん。


「ありがとうございます!」


 鎧なので表情はないが、うれしそうなのは声色でわかる。


 私もうれしい。

 だって、別に雨を望んでなんかないし、度を越えた豪雨にいい加減止めたかったけど全然通じないし――むしろ早く誰かに、この提案をしてほしかったのだ。

 肯定だけならできるからね。


 とういうわけで、ありがとうリビングメイル君!


 感謝を込めて触手を伸ばし、その兜を撫で撫でする。


 するとリビングメイルは硬直――ただの動かない鎧と化し、周囲の魔物(モンスター)たちが騒めいた。


 うむ。やっぱりこうなるか。

 なんとなく予想はしていたので、驚きはなく、撫で続ける。

 兜の凹凸のあたりが汚れていたから、綺麗にするつもりで念入りにだ。

 こういう汚れはスライム的には食べ物のようなものだ。

 味覚がないので美味しいわけではないが、こうしたものが体に触れると習性なのか消化を始めてしまう。

 まあ、綺麗にもなるし、栄養にもなるようなので一石二鳥。

 強くはないが、スライムはとってもクリーンな魔物である。


「きいぃぃっ!なんて羨ましいの!」

「俺も魔王様に撫でられたいぞ!」


 周囲が大分煩くなってきたし、兜の汚れも取れたので触手を引っ込める。

 高位魔族(ハイ・モンスター)の地団駄で、魔王城の床が軋んでいるから、これ以上は危険だ。


 とっても弱いし、言葉を発するわけでもないのに、魔王というだけで何故だか魔物(モンスター)たちは私のことが大好きすぎる。

 謎の魔王人気のせいで、私に触れたくて触れたくてたまらないらしいが、私が弱すぎるが故に、強い魔物(モンスター)ほどうっかり殺しかねないため私には触れられない――ゴブリンが世話係に落ち着いているのもそのためだ。

 そこで、私をうっかり殺しかけないくらいの強さがある魔物(モンスター)は、私と触れ合う場合は身動き禁止――すべては魔王様の成すがままにというのが、ルールになったらしい。


 私が離れたことで、リビングメイル君もぎくしゃくと動き出した。

 うん、彼(?)も私を瞬殺できちゃうからね。身動き禁止の対象なのだ。


「あ、ありがとうございます魔王様!もうこの兜は洗いません!」


 いや、洗ってよ。

 たとえ汚れが食事になろうと、不衛生な魔物(モンスター)に囲まれての生活なんて御免だ。

 元日本人の感性がそれを許さない。

 そんな思いを込めて、思いっきり両触手でバツを作った。


 それを見た魔物(モンスター)たちの目がギラリと光った。


「よし、私が洗ってやるぞ!」

「いえここは、私が!」

「何を言うか、この俺だ!」


 ……いらない争いを生んだかもしれない。

 リビングメイル君が自分で洗ってくれれば、それでよかったんだけどな。

 遠い目を……――する目はないんだ、種族的にね。



名前:まだない(生後10日)

職業:魔王

種族:スライム

Lv.1

HP 3/3

MP 3/3

【スキル】

ボディーランゲージLv.3 ※触手表現にて、肯定と否定だけは何とか通じる



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