生後1週間、ボディーランゲージの進化
吾輩はスライムである。名前はまだない。
――なんてね。
冒頭でお察しの通り、私はスライムに転生した元日本人である。
といっても、前世の記憶は曖昧だけど。
本日で無事、生後1週間!
多分最弱の魔物であろうスライムへの転生だけに、快挙と言ってもいいのではないだろうか。
何故か魔王扱いをされて強い魔物たちに守られているので当然といえば当然かもしれないが、その状況も安全とは言い切れないものなのだ。
何せ自分より圧倒的に強い数多くの魔物に囲まれてるために、相手にその気はなくてもうっかり殺されかねないのだ。
何故かスライムボディーに誘惑された吸血王に抱きつぶされそうになったり、巨大なドラゴンにうっかり踏まれそうになったり――命の危機を感じた回数は…………うん、忘れよう。
私を危険に晒した魔物たちは遠ざけられたが、それでもまたいつどんなうっかりがあるかわからない。
某ゲームと違い、目も口もない(何故か見えはするけど、声は出せません)スライムボディでは、こちらの意志を伝えることすらままならず、なかなかにスリリングな一週間だったのだ。
いつ死んでもおかしくないこの状況を改善するため、ここ数日私はボディーランゲージに磨きをかけてきた。
数日前までは、真ん丸ボディーを少し伸ばしたり、曲げたりするくらいしかできなかったが、生後1週間の私は一味違う。
うにょーん。
うにょにょーん。
私の真ん丸ボディーから細長い触手を2本伸ばしてみる。
やっと触手を2本伸ばして、完璧とは言えないまでもある程度自由に操れるようになったのだ。
関節がないから、人間だったころの腕の動きとは大分異なるけど、こうして触手を腕のように使えば、ボディーランゲージの表現の幅は確実に広がるはずだ。
万歳のつもりで両触手を上に伸ばしてみる。
まっすぐに伸ばしたつもりが、先端が重力に負けて垂れてしまっているあたり、まだ制御が完璧とは言えない。
骨がないせいか、体の中心から離れれば離れるほどまっすぐ伸ばすのは難しいのだ。
より完璧を目指し、まっすぐを目指して触手に力を籠める。
まっすぐ、まっすぐ……あれ?
おかしい。まっすぐのつもりが、先端がくねくねと波状になってしまった。
何がいけなかったのかと考えていると、何やら周囲がざわついていることに気づいた。
あまり気にすると精神が保たないので、できるだけ周囲を気にしないようにしているのだが、私の周りには常に私を見守る複数の魔物たちがいるのだ。
「魔王様が天に向かって何やら交信をなされているぞ。」
「交信?いや、あれは雨乞いではないか?」
「雨乞い?なるほど、最近雨が降っていないな。魔王様のあのお体の見事な潤いを保つために、雨を必要とされているのだろうか?」
交信でも雨乞いでもなく、ただの万歳の練習だというのに大真面目に論議を交わす魔物たちに、私は否定のため両触手をブンブン振った。
「おお!魔王様の主張が激しくなられた!」
「至急、魔王様のために雨の手配を!!」
「すぐに、水龍を呼べ!」
……事態が悪化したようだ。
ボディーランゲージの練習方法はちょっと考え直さないとだめかもしれない。
がっくり落とす肩もないのだ――種族的にね!
名前:まだない(生後1週間)
職業:魔王
種族:スライム
Lv.1
HP 3/3
MP 3/3
【スキル】
ボディーランゲージLv.2 ※触手表現が可能に。しかし、まだまだ通じない。
吸血王は、力加減の練習中。
踏みつぶし未遂のドラゴンは、小型化の練習中。
ほかのうっかり魔物も、それぞれ魔王を危険に晒さないため色々練習中です。