生後3日のコミュニケーション
ゴブリン、スケルトン、ゴーレム、ドラゴンetc.
そんな見るからに魔物とわかる、いかにもな魔物たち。そして一見人のように見える高位魔族たちが、恍惚とした眼差しを私に向ける。
慣れたけど、ビビる。
いや、それも仕方ないよね?
何せ人なら誰でもビビるだろう魔物の群れの中心にいるのだから。
思わず体が恐怖にぷるぷると震えるが、今の私は人ではない。
前世では、ここではない世界で人であった記憶を持っているが、今は私も魔物の一種であり、魔物たちが私に危害を加えることはないということは、ここ数日で理解している。
震える私を見つめる魔物たちの眼差しは、好意的だ。
あたたかなというレベルを超えて熱すぎるまでの眼差しに及び腰になるが――いや、今の体に腰なんてないから比喩表現ですよ。
彼らが私にこうも熱い視線を向けるのは、今の私が『魔王』であるかららしい。
「魔王様。」
そう私に呼びかけたのは、人のように見える高位魔族の中でも群を抜いて美しい容姿を持つ吸血王だ。
闇色の髪と瞳をした人では持ちえないほどの美貌の持ち主である彼に、うっとりと見つめられるのを直視すると、全身がしびれるような衝撃があるので、視線はちょっとずらしておく。
前世の自分だったら、一目で虜にされて正気を失いそうだが、性別のない種族に生まれたおかげか魅了されることはない。
はっきり言って、魔物に――それも魔王になったとはいえ、私の戦闘力は高くない。
吸血王なら、呼吸より簡単に私を一撃で葬り去れるだろう。
高くないというのはかなり見栄を張った表現で、実のところここにいる魔物はの中で私は最弱だと思う。低級とされるゴブリンですら、私より強いと思うのだ――魔王なのに。
つくづく疑問なのだけど、本当に私は魔王なのだろうか?
実は生後3日ほどの私はあまりよく事態を把握していないのだ。
何かよくわからないうちに、色々な魔物が集まってきて私を魔王と呼び出したのである。
自己紹介はその時にしてもらったが、発声器官を持たない私は言葉を話すことができないので一方通行だ。
本当に私が魔王のか、そろそろどうにかして問いただしたいところだが、声は出せない。
仕方がないので、疑問を示すために首を傾ける――ことも、首がないためできない。
まったくもって、不便な体だ。
前世の私的に、首も腰もない今の役立たずな丸々としたダメダメボディは恥ずかしいのだが、別に肥満ではなく種族特性なので仕方がない。
仕方がないので、丸みを帯びたぽっちゃりボディをうみょーんと伸ばし、先っちょを傾けてみた。首も腰もないけれど、伸縮性には優れた体なのだ。
これは、「魔王様。」という呼びかけに対し、「私のこと?私が魔王なの?」と首を傾けてみせたつもりだ。
これが今の私――スライムの体でできる、唯一の対話手段――ボディーランゲージだ。
どうだ!と期待を込めて、吸血王に視線を向けると――彼は口元を手で覆って震えていた。
これがどういう反応なのか理解できずに、さらに先端を傾けると、吸血王は耐えきれないというように崩れ落ちた。
「魔王様っ、そんなセクシーポーズで私を誘惑しないでください!」
…………通じてなさすぎて、涙が――出ないけどね!種族的に!
名前:まだない(生後3日)
職業:魔王
種族:スライム
Lv.1
HP 2/3
MP 3/3
【スキル】
ボディーランゲージLv.1 ※残念ながら通じないレベル
「魔王様っ、そんなセクシーポーズで私を誘惑しないでください!」
魔王様は予想外過ぎる反応にショックを受けた!
1のダメージ!
※気づかないうちに魔王様、ダメージ受けてます。鑑定能力はないので気づきません。