楽しい同居生活
目覚めた時、裕子は僕の横で可愛い顔をして小さな寝息をたてていた。それに見惚れていた僕は彼女のあまりの美しさについつい触れたくなって、頬を撫でていた。
「う、んんーっ……」
「ごめん、起きちゃった?」
僕の指先の感覚が伝わったのか、裕子は目を覚ましてしまった。彼女はまだ眠いのか、しきりに目を擦っている。よく考えてみれば、それも当然至極のことだ。昨日、というか昨晩から今朝の明け方にかけて、僕達はずっと愛の営みを行っていたのだから。
特に昨日は凄かった。普段の裕子からは想像もできないような大胆さで迫ってきて、僕の愛を求めていた。いつもとは違ったシチュエーションに僕も異常に興奮して、それは激しい行為になったのだ。そう考えると裕子が眠たそうにしているのも無理はない。僕だって幾分かは疲れも残っているし、何とも言えないダルさを感じていた。
「おはよう。昨日はスゴかったね?」
僕がからかうように言うと、彼女は顔を真っ赤にして、
「もう、恥ずかしい……」
とうつむき加減につぶやいた。その様子がまた非常に艶かしくて、僕は思わずその口唇にキスをした。段々と元気になってきた僕は夢中で愛しい裕子の口中を貪り吸った。
「ん、んんっ…!もう……、朝からそんなにしちゃダメよ!そろそろ政俊さんと孝子も起きる頃だし…」
裕子は僕を自分の口唇から引き離し、自分達以外にもこの家に人間がいることをこちらに思い起こさせた。
「そうだった。二人も昨晩は愛し合ったんだろうな。想像するだけで可笑しくなってくるよ」
「コラ!冷やかし気分でそんなこと言ったらダメよ!私達だって同じようなことしているんだから」
僕が別の寝室で寝ている二人のことをちゃかすと、途端に裕子に叱られた。裕子はこの真面目な所が長所でも短所でもある。意外に融通がきかないが、愛する者には一途に尽くしてくれる、そんな女性だ。
その時、少し離れた所から物音が聞こえた。
「どうやら二人が起きてきたみたいね。私達も起きましょう。私は朝食の支度をしなくっちゃ」
「うん。僕も学校あるし」
昨夜の頑張りは何のその。僕は元気一杯に立ち上がった。僕達二人はベッドから出て、リビングの方へ向かった。
「おはよう」
予想通りリビングには政俊と孝子が起きてきていて、朝の挨拶を交わしてきた。彼ら二人も僕らのように疲れた顔つきをしていた。昨日の夜、相当激しかったんだろう。
「裕子、早く飯にしてくれ。会社遅刻しちゃうよ」
政俊が偉そうに言う。飯を作る役目は裕子の仕事なので仕様がないのだが、もう少し優しく言ってやって欲しいものだ。裕子が
「はい」
と返事をすると台所へ向かって行ったのに対して、政俊自身はまだ眠そうにダラダラと床に寝転がっている。僕はそんな政俊を呆れた目で見ながらも、誰も読んでいない新聞に手を伸ばそうとした。すると
「ねえねえ、昨日はどうだったの?」
新聞を見ようとした僕に孝子が話し掛けてきた。この女はとても好奇心が強い。余程、僕と裕子の昨夜の行為が気になったと見える。
「どうって、お前達と一緒だろう」
「ちょっと、それどういう意味よ!私達、別にやましいことはしていないわよ」
「じゃあ僕達だってそうさ。一緒ってのはそういう意味だ」
「あのね私達は真剣に愛し合ったの。そっちとは大違いですよーだ!」
「何だよ、その嫌味な言い草は!それじゃあ僕達は不真面目に愛し合っていたとでも言うのかい?」
「ええそうよ。あんたなんか包茎のくせして、ちゃんとしたSEXができる訳がないわ。それも真性じゃないの!」
僕は事実を突かれてカチンときた。
「何いっ。そっちなんか一度も生理もきてないのに、一丁前に大人振るんじゃない!」
「何ですって!言ったわね!」
「やるか!」
「望むところよ!」
「こらこら、下らないことで朝から喧嘩してるんじゃない」
争いの腰を折ったのは政俊の一言だった。
「そうよ、朝御飯できたから、みんなテーブルについてちょうだい」
いい匂いをさせて台所の方から裕子が顔を見せた。お盆に焼きたてのパンやサラダを載せて食事用のテーブルに運んでくる。そんな様子を見ていたら喧嘩どころではなく、僕も孝子も言い争いを辞めて、テーブルに向かって椅子に腰掛けた。
「いただきます!」
皆が手を合わせて料理をいただく。やっぱり裕子の作った料理は美味しい。さっきまで口論していた孝子も、グータラしていた政俊も黙々と食べている。
「本当に二人は喧嘩してばかりね」
「もう少し仲良くした方がいいな」
裕子と政俊が僕と孝子に軽い批判を述べた。わかっているけど孝子の奴、生意気なんだ。
朝食を終えると皆が忙しなく動きだした。裕子と政俊は会社仕事、僕と孝子は学校だ。歯を磨いてから、大便をしにトイレへ駆け込む。それを終えると二階にある自分の部屋に行って、今日の時間割りを確かめて、教科書の類をカバンに入れる。孝子もおよそ僕と同じような行動をしていた。政俊はスーツを着てネクタイを首に締めると、慌てて玄関を飛び出していった。急がないと電車に乗り遅れるらしい。
「おーい、急がなくていいのかなー?」
僕の部屋に裕子の声が響いてきた。僕が遅刻しそうな様子なので、心配して声を掛けてきたのだ。そんな人の心配をする前に自分の支度を済ませればいいのに、その辺りが彼女の優しい心遣いなのだろう。
「私、先に行くわよ」
ぐずぐずとしている僕を見て、孝子がお先にとばかりに玄関から駆け出して行った。それから5分もすると、持っていく物の確認が終わり、僕もようやく準備完了して玄関に降り立った。
「ハンカチ・鼻紙は持った?」
裕子が優しい口調で尋ねてくる。
「うん。大丈夫だよ」
「気をつけていってらっしゃい。車には注意しなさいよ」
「はーい」
裕子に見送られて、僕は玄関から駆け出した。遅刻すれすれの時間だった。
しばらく走ると孝子の姿が見えた。僕は追い付くと肩をポンと叩いた。
「遅かったわね」
「ああ。危なかった。もうすぐで遅刻するところだった」
「昨日、相当やり過ぎたからよ」
「また、お前はそういうことばっかり言う。本当にマセたガキだな」
「何よ、お兄ちゃんだってまだ8才じゃない。私と3つしか違わないのよ」
「まあ、そうだけどさあ。ところでお前、お父さんにどのくらい調教されてんだ?」
「うふふ。それは秘密……。お兄ちゃんだってお母さんと激しいエッチしてるんでしょ」
「ま、まあな。おい、誰にも言うなよ!」
「当たり前じゃない。こんなことしてるのはウチだけよ。でもみんな可哀相よね、あんな楽しくて気持ちいいこと知らないなんて」
「ああそうだな。僕達は幸せだなあ……」
僕と孝子は会話をしつつ、母校である谷富士小学校の方へ歩いていった。