道に落ちたパンを喰って我々は賛美歌を歌う
登場人物
党員
老獪な百姓娘
ハチョネロス達
若者達
墓場の支配人
[開幕]
====テーマが歌われる====
**ハチョネロス達**
現世利益!!
現世利益!!
====若者、舞台の左側より入場====
**党員**
地上の楽園はもう間近だ!!
いよいよ我々の革命により、
古き腐った頸木が破壊され、
新しい夜明けが訪れるのだ。
現世利益という疫病に染まった稲は
摘まなければならない。
その為には必要な素材を集めねばならん。
従来、考えれば無理なものでも、
新しき方法で必ずや全てのネジやゼンマイをここに並べてみせよう!!
そして何百年の愚行の清算は明日なのだ!!
**若者達**
そーだ!! 明日だ!!
**党員**
我々は今こそ団結して一つとなる!!
快楽は日和見であり、
もはや目を閉じる事は愚行なのだ!!
====右側の舞台袖より、
無作法な足どりで、
百姓娘が登場====
**老獪な百姓娘**
なんだか、ジャコバンの息子共が、
とんでもない事を始めようってんだな。
エンティエロ・デ・ボケロンの祝日というこの日に。
だが、あんな連中、いい気になって、
生きて死ぬ歌を歌う奴らと
何ら違いはないのさ。
一時的に盛り上がりはするが、
痛みを知らないものだから、
あまり辛抱強い事はできまい。
22年と26年の連中が解決できなかった課題を
自分達が何とかできると思っているのだから
幸いな奴らだ。
====若者達の一人が百姓娘に気づく====
**党員**
どうか、あなたも参加してください!!
なぜ、あなた方はいつも
遠巻きに見ているだけなのでしょうか?
なぜ、自分の自由を自ら戦い、
勝ち取ろうと思わないのでしょうか?
**老獪な百姓娘**
それはおまえ達のように
私達が賢くないからだよ坊や達。
戦う牙も爪も我々は、畑を耕す事の為だけに
研いできてしまったのだ。
それを今更、鋤や鍬を土にでなく、
魂にふれって言ったって、
我々には酷というものだ。
私達はアポセンタドールじゃないんだから。
それに家族でもいれば、
誰かの靴でもなめようという気持ちが
起こらんでもない。
**党員**
僕達が賢いだなんて、
そんな一日中喋って、
失う事ばかり怯えているような連中を表現する言葉で
私達の事を言わないで下さい!!
あなたは老いてしまったのだ!!
**老獪な百姓娘**
待て待て。
お前達は何をそんなに急いでいるのだ?
何百年の愚行を清算しようという
勇敢で思慮深いお前達が、
準備にかけた時間はまだ数年ではないか!!
どんな事でも一つの物を熟成させる為には、
それはもう気の遠くなるような時間をかけねばならんのだ。
一体、何をそんなにあせっているのだ?
さぁ、こちらで共に一杯やろう!! 共に語ろう!!
まぁ、つまり、
地上の楽園を楽しもうじゃないか。
**党員**
ご婦人。
なんとも、お言葉ですが、
そんなものは、日和見どもの作った呪いではないですか!!
そんなものに身を委ねてしまったが最後、
どこまでも引きずり込まれて、
愚民と同じ道を辿ってしまうのです。
さぁ!! 同志達は、今か今かと我々の指揮を待っているのです!!
これが胸高まらずにいられましょうか!!
**老獪な百姓娘**
例えば、酒も飲み、芝居を見る。
絵画を鑑賞し、美味い物には賞賛を送る。
それを呪いというのか?
身を委ねてしまって、なぜ、引きずられるのだ?
それはお前達が弱いからだ。
弱いゆえにあせるのだ。
なぜなら、自分達の作った木馬が
それこそ勇ましく勇猛に見えはするものの、
どこまで丈夫な物なのか皆目、自信がもてないからだ。
お前達はデラルテ喜劇という
偉大で奥深い芸能を作ろうとしているのに、
それを三日で成そうというのか?
町の大道芸人が始めた、いやはや、ただの見世物小屋が、
一つの芸能に育つまでに
どれ程の時間が必要だったかをお前達は知らないのだ。
**党員**
作りは頑丈!! 決して壊れる事はありません!!
我らに快楽など不要です!!
現世利益が今の世の腐敗を生んだのなら、
そういった快楽の毒に身を委ねない我らこそが、
永遠に壊れない軸を作る事ができるのです。
**老獪な百姓娘**
なるほど、確かに頑丈にできてはいるね。
しっかりとしたその乗り物こそ、
永遠に壊れないものなのかもしれない。
だが、その乗り物に乗り込む者達は?
永遠の精神と永遠の命を持っているわけでもないのに?
だから、その乗り物は今まで誰にも動かせなかったのだ。
操縦する者もいたにはいたが、
いつだって乗り込む者だけがいなくなり、
その遺物だけが今もここに残されているのだ。
時間をかけよ。若者よ。
本当にお前達に強い本物の意思があって、
何者にも揺らがない魂があるのなら!!
そうそう、この仕事には、もう少しだけ時間がかかるよ。
**党員**
それは一体、どの位だと言うのです?
明日でないのなら、
一体、どの位、眠らないで
待てばいいというのです!?
**老獪な百姓娘**
少なく見積もってもあと三百年くらいだね。
いやはや、少なく見積もってだよ。
今のアンタらじゃ、
カレピーノの辞書どころか、
夕食のパエリャすら作れないよ。
**党員**
三百年だって!? なんと!!
冗談じゃない!!
それでは我々の命が尽きてしまうではないですか!!
これだけ心血を注ぎ、快楽を捨て去り、
全てを犠牲にした我らが、
その作った乗り物が動く所を見れないというのか!?
そんな馬鹿な事があってたまるものか!!
我々は行く!! 明日、経つ!!
この命が尽きようとも、
勇敢な心を持って土に帰る事ができるのなら、
それ程の名誉はないのだ!!
死は恐ろしい!!
それは老いて堕落し腐敗した己を見る事だからだ!!
そんなものを見た日には私は気が狂ってしまうだろう。
だから散りたいのだ。早く散りたい!!
高潔な魂を持ったまま。
それがどんなに愚かしい行為だと、
本当はわかっていたのだとしても!!
====若者、舞台の左側へ退場====
**老獪な百姓娘**
誰が止められるというのか?
死に喜び勇んで向かう、
ああいった連中を。
あの手の連中を止める術があるというのなら、
キリストは、
火に自らの身体を喜んで捧げた
異教徒達も止められたろう。
あるいは奴らには、例のなんとやらという
女神が必要なのさ。
結局は、愚かしい程に一途で、傲慢な正義を以ってしても、
求めるものは「現世利益」に他ならぬ。
**墓場の支配人**
右に生く者も、左に生く者も、日和見も、
結局、最後まで生き抜いてみればどうってことはない。
同じ道だったという事に気づくのだ。
それは愚かしくて、悲しい抒情詩でもあり、
そう、つまりはそれが生きるって事だ。
ある意味においては生きるという事が勝者なのだ。
道に落ちたパンを食って我々は賛美歌を歌う。
ああ、つまりは気高いという事だね。
====テーマが歌われる====
**ハチョネロス達**
現世利益!!
現世利益!!