大義名分
翌朝はいつも通りに目が覚める。
最近は寝る時間も早く、完全に日の出前に起きるのが習慣になってしまった。
何もする事もない為、いつも通り朝の散歩に出掛ける。
静寂な森を歩いていると、工房のある場所の方から音が聴こえてきた……気になったので周囲を警戒しながらそっちの方へ向かう。
工房の近くに来ると、入り口から出てくるドワーフ達の姿を見つけた。
既に屈強な男達が大量の汗をかき、疲れた様子でその場に座り込んでいた。
その中にザガも居た……休憩しているドワーフ達の方に向かい、声を掛ける。
「みんなおはよう。
朝早くからお疲れの様で……」
「これはジン殿、おはようございます。
お早い起床ですな」
「最近はこの時間に起きてしまうのが習慣になってしまって困ってるんだ……健康的ではあるんだろうけど。
ところで、こんな朝っぱらから仕事してくれているのか?」
もしかすると、俺達が頼んだ装備品の残りを仕上げる為に仕事していくれているのかと思った……
今後、この村を1度出て行かなければいけないから、それを仕上げてくれているのかと……
「それもあるんですが、これから移動する為の台車なども造っておこうと思ってですな」
「なるほどな……確かに移動の為には必要だもんな。
しかし、えらく早い時間から頑張ってんな」
「昨日は皆、自宅で少し仮眠をとった後からやっていますから」
「深夜からぶっ続けでやってるのか!?」
「そうです……一刻も早く危険から遠ざかりたい気持ちは皆同じでして……ジン殿が帰った後に集まって相談した結果、皆でやろうとなったのですじゃ」
「そうか……そんな中に、俺らのまで造ってもらって申し訳ない」
「それとこれとは別の事です。
恩はしっかりとお返しせねば、我ら一族の恥……しかも、これからも助けてもらわなければならんとなれば尚更の事で」
この村に来てと言うか、ザガの対応を見ているとドワーフのイメージがだいぶ違う気がする……
豪快で大酒飲みで短気……それが俺の思っていた勝手なイメージだ。
しかし、実際は律儀の一言だ……こんなに義理堅い人に会ったのは、元の世界を含めてもいないだろう。
「ザガ……いや、ザガさんありがとう」
「ジン殿、ワシにさんなど付けづとも……」
「俺への恩はしっかりと返してもらった……これ以上の仕事は俺が頼む立場だよ。
だから、ダークエルフの領土に行ってからもお世話になると思うから、これからはよろしくお願いします」
「ワシはまだまだ返せたとは思う程の事は出来ていないと思っておりますが……お気持ちは承りました。
こちらこそよろしくお願い致します」
再び2人で顔を見合わせ瞬間に、お互い笑がこぼれた。
彼等とはずっと良い関係でやっていけそうだ……
「ところで、息子には会いましたかな?」
「いや、まだだけど……ここに居るのか?」
「ここには来させませんでした。
昨日しっかり考えてもらうように、今日の仕事は手伝わせておりません……家でぐっすり休んでいる事はないでしょうから、行って聞いてあげて下さい」
「そうか、じゃあ行ってくる。
あんまり無茶して身体壊さないようにな」
ザガと別れ、村へと向かった。
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ザガの家へと着き、ドアをノックする。
奥から足音が聴こえる……足音がドアの前で止まり、ノブが回された。
開いたドアの隙間からバズの顔が出てきた。
「ジンさんか……入ってくれ」
「朝早くからすまないな。
ザガさんと会って、起きてるだろうからって聞いたから」
「そうか、父さんが……まぁ腰掛けて話そうや」
中に入り、2人とも椅子に掛けた。
バズはまだ悩んでいるのか、暗い表情だった……
「昨日の話しな……まだ迷ってる部分があるんだ。
その事であんたに聞いておかなきゃいけねぇ事がある」
「なんだ?」
「なぜ必要なんだ?
それがなくちゃなんねぇのか?」
「そうだな、必要だ……なくてはならないだろうな。
現状数で劣ってしまっているダークエルフ達が勝つにはそれなりの物がいる」
「それは武器って事か?」
「半分正解だ。
敵を圧倒する為の武器も必要だが、皆が死なない防具が1番必要だと思っている。
いくら敵を殺せる武器があっても、それを使う者が死んでしまっては何にもならないんだ。
結果、戦争には勝ちましたが一族のほとんどが死んでしまいましたじゃあ、逃亡した方が絶対マシだ」
「被害を最小限に抑えて勝つ…か」
「むしろ誰も傷付いて欲しくない……だ」
「その為にはそれを造れる技術を持った者が必要と」
「そういう事だな」
「なるほどな……それじゃあ、その為に家族と離れ離れになって悲しむ者がいるとしてもか?」
「逆に聞こう……全種族に危害を加える可能性のある人間族に、対抗する為の戦力を整えているダークエルフ達が負けてしまった場合。
ドワーフ達はなんの被害もなく、これまで通り暮らせると?」
「俺が悩んでんのは小せぇ事だってぇ言うのか?」
「違うな、これも人間による被害って事だよ。
奴らが何もせずに、他種族と仲良く生存をしてくれていれば、そんな事も起きなかったって事だ」
「こじつけじゃねぇか……」
「全ては戦争の為の大義名分さ……俺は俺の為に事を進めなきゃいけないけど、その為に犠牲は仕方が無いとは思っていない。
だけど、それを成す為には使える物は全て使いたい……その事に賛同してくれるのであればな」
誰も傷つかずに戦争を終わらせる事なんか出来やしないだろう……俺の考えに賛同して協力してもらえば戦争に巻き込まれるのは間違いない。
だけど、人間達が他種族に攻撃を始めたずっと昔から、全種族は戦争に巻き込まれているんだ。
今起きるか、今後いつ起きるかは判らないが必ず起こる事象だ。
「俺が協力すれば戦争は終わりに近づくのか?」
「そうなる様にするさ」
「言い切れねぇよな……
だけど、救ってもらったんだ……オイラも救ってやんねぇとな。
お前さんに付いて行こうじゃないか」
「ありがとうな……じゃあ、これからよろしく頼む」
「こちらこそだってんだ」
バズが出した手をしっかりと握った……
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