タニア
外で朝を迎え、ラスと共に中へと戻った。
皆は既に起きており、朝食の準備を始めていた。
「おはようございます。
ジン殿昨日はゆっくり眠れましたかな?」
ザガが話し掛けてきた。
やはり同じ年寄り同士、朝の目覚めは早かった様で、スッキリとした顔をしている。
「昨日はゆっくりと休ませてもらったよ。
ザガもえらく良い朝を迎えられたようでなによりだ」
「それもこれもジン殿のお陰でですじゃ……助けてもらわなければ、今日も強制的な労働を強いられていたのですから」
「でも、ドラゴン素材の加工で今日も労働をお願いしなければいけないのは気が引けるがな……」
「いえいえ、我々が返せるものと言ったらそれくらいしかないもので……それで、加工の仕方に提案があると言われていらっしゃったのを、今日はお聞きしましょう」
「朝食が終わったら工房で話しをしようか、すでに腹が減って仕方がないんだ」
「これはすいません。
では、朝食後に工房でですな」
用意されていたテーブルへと腰掛け、朝食を頂く。
ドワーフ達の朝はこってりした物を食べている様で、肉がたらふく並んでいた。
どれもこれもが美味しかったが、食べ過ぎの所為で胃がもたれてしまっていた……
朝食を終え、ザガと共に工房へと向かった。
素材は大量にあるが、自分専用で1枚欲しい物があったので、それを造ってもらえる様にお願いした。
それと一緒に武器を2つ提案させてもらった。
後はドワーフ達に任せて防具をメインに造ってもらう様にお願いした。
「解りました。
ジン殿がご提案された品が出来上がるまでに1日を要しますが大丈夫ですかな?」
「なるだけ急いで欲しいけど、昨日の今日でそんなに厚かましい事は言えないからな。
とりあえず、出来上がるまで待つよ」
「気にかけて頂きありがとうございます。
ですが、これは急ぎで仕上げさせてもらいますぞ。
我々の気持ちとして努力させて頂きます」
「ありがとうな、それと後でウィリアム様とも話して欲しいんだけど良いかな?」
「構いませんぞ……では早速取り掛かります故、しばらくお待ち下さい……」
ザガは工場の奥へと入って行った。
ドワーフの性格はもっと豪快なイメージだったんだけど、意外と律儀な感じだ……まだ、ロロとザガとしか話しをしていないからだろうか?
工房を後にし、一旦村へと引き返そうとするとタニアが外で立って待っていた。
「どうしたんだ?」
「お願いがあります」
「俺に出来る事だったら良いぞ」
「サンドラ様から言われていたんですが……1度私と立ち合ってくれませんか?」
出たよ……サンドラ様から引き継がれた戦闘狂が……
「サンドラ様はなんだって?」
「ジンと1度立ち合ってみろと、理由は立ち合えば解ると言われましたが、昨日の戦闘を見て自らが触発されてしまいました」
「サンドラ様から言われたけど、自分の意思で戦いたくなったと?」
「その通りです。
お願いをきいて頂けますか?」
時間もあるし、彼女の本当の実力を知る為には最適だと思った。
「良いぞ、でも手加減してくれよ……」
魔族の立合いは殺されそうになるイメージだから怖い……
「ここじゃあなんだから、ちょっと奥に行こうか」
場所を移動し、タニアとの距離をとる。
「では、よろしくお願いします」
タニアは構えて戦闘準備を完了するが、俺は構え自体ないからただつっ立っている。
「よろしいんですか?始めますよ」
「構わないぞ……」
タニアは一気に飛び出してくる。
小手調べといった感じで、魔法を使ってくる気配はない。
素手での接近戦を主体としているタニアの攻撃は、戦闘の距離が近く手数が多い。
捌くよりは、上手く距離を置く様に立ち回る様にしないと追いつかない……
回避しながら移動を繰り返して相手のペースにならない様に戦っていると、タニアの足元から魔法の発動を感じた。
気づいた時には俺の目の前にいて、掌底を腹部目掛けて放っている。
急いで飛び退き回避するが、既に次の攻撃を開始している……右足で俺の側頭部を狙って攻撃してくる。
なんとかスウェーで避けるが、蹴り上げた右足を残して飛び上がり、再度魔法を発動させて踵落としを鎖骨目掛けて落とす。
回避では間に合わない為、ふくらはぎを叩き、踵落としをずらす事に成功する……
「やりますね……サンドラ様が立ち合ってみろと言われるのが解ります。
ですが、攻撃しないと永遠と後手に回りますよ」
解っているんだが、仲間と思っている者を攻撃するのは抵抗がある……
だけど、本気できてくれるのならば失礼なのか?
「解った……攻撃させてもらうよ。
上手く加減出来ないから、勘弁な」
言った瞬間にタニアへと接近、細かくシンプルに左で拳を放つ。
タニアは最小限の動きで拳を避けると左足で俺の足を狙う……魔力の発動はない…それならと、その足目掛けて脚力を強化し蹴っていく。
タニアもそれに気付くが止めようとしない……
衝突する寸前で足を引き、ローを躱す為に軽くジャンプ。
引いた足をタニアの腹部目掛けて突き出す。
上手くフェイントにかかってしまったタニアは、急ぎ蹴りをガードするが、加減の解らない蹴りは容赦なくタニアを吹っ飛ばし、後方の大木へと背中から激突した。
「大丈夫か?
すまない、やり過ぎた……」
「だ…いじょう……ぶです……
それ…に……まだ……終わって……ません!」
タニアは大木から一気に駆け寄る。
何度も足から魔法の発動を確認出来る……射程距離手前で右腕に魔法を発動させる。
昨日やったあの掌底を放つつもりだ……さすがに防具を着ていない俺が喰らえば大怪我間違いなしだ。
正面から掌底を放っていたタニアが眼前から消える。
体を地面ギリギリまで落として俺の横にいるのを見つける……既に掌底を脇腹目掛けて突き出している。
急いでタニアの手首を握り、寸前で止める事には成功……だけど、次は逆の手で背中を目掛けて突き出している。
避けようがない……それなら握った腕を……
力任せに引っ張り、一回転させた後に地面へと叩きつけた。
叩きつけられたタニアは、衝突した威力が消えずにその場でバウンドしている。
地面へともう一度落ちた状態を狙って顔に向かって蹴りを放ち、寸止めした。
「これで勝負ありかな?」
「完敗……です…ね……」
「満足出来たかい?」
「次には一撃でも当てれる様に修行しておきます……」
タニアの手を握り座らせる。
持っていた回復薬を手渡し、回復を促した……
「しかし、タニアの攻撃は一瞬でも気を抜けば当たって大惨事になりそうで、ずっと冷や冷やしていたよ……」
「それでも、1回も当てれませんでしたから……
自信はあったんですが、まだまだでしたね」
回復薬を飲んだ所為か、少し意識をハッキリとさせていた。
「さてと、一旦戻るとするか。
まだ回復しきってないだろうから、抱えて行くぞ」
「そ、そんな事……大丈夫ですよ。
もう少ししたら歩けますから、気にしないで先に行って下さい」
タニアのセリフを気にせず抱え上げる。
「怪我させた女性を置いて行くほど腐ってないさ……」
タニアを抱えて村へと向かった。
本来のもう一つの頼み事をする為に……
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