白狐
狐の魔獣から魔力が感じられる。どうやら、風魔法を発動している様だ。
そして、自分の尻尾の毛を数本抜いて風魔法と一緒に投げてくる。
まるでショットガンだ……マトモには喰らっていられないと思い、横へと回避する。
が、それが罠だった。横に跳んだ俺に向かって走って来ている。もう既に目の前で回避不可能だ。
その場で回転をし、再び尻尾での攻撃が襲いかかってくる。
ショーテルを構え防御をするが、勢いを止めきれずに吹き飛ばされる。
それを追って狐魔獣は飛び上がり、尻尾の先端をこっちへ向けて突っ込んでくる。
あれを喰らえば身体中が穴だらけになってしまう……
なんとか体勢を立て直し風魔法を発動、衝撃波を飛ばして横にずらそうとするが、当たる瞬間に風魔法で相殺され方向は変わらないままだ。
腕力を強化し、ショーテルで尻尾を叩き斬るつもりで横から攻撃するが、空を切ってしまう。
どうやら尻尾はフェイクで、蹴りが本命だったようだ。
ガードは間に合わないし、回避するにも追い討ちが待っているだろう…
ショーテルを振った勢いで体は横に流れている。この力を利用してこっちも蹴りを放つ。
蹴りを相殺する事は出来ないが、相打ちなら間に合う……
勢いの乗った蹴りを肩で受ける瞬間に、狐魔獣の腹部に俺の蹴りがヒットする。
俺は後方に、狐魔獣は横に吹っ飛んでいった。
「痛ってぇ……」
「……アイウチヲネラッテクルトハ……ヒサシブリニイタミヲアジワッタワ……ツヨイワネ……」
狐魔獣は膝を付いている。相当効いたみたいだ。
これで終わって欲しいんだが……
「なぁ、なんで人を襲うんだ?」
「ワタシノユウジンヲツレサッタカラダ!
ヤツハツヨカッタ……ワタシデモカテナイホドノジツリョクダッタ……
ソレヲオマエラハ、カズニモノヲイワセテツレサッタノダ」
「連れ去ったって事は死体がなかったのか、それで人を襲っていると……ちなみにその種族は解るのか?」
「ニンゲンダ……ニンゲンノシタイガムスウニコロガッテイタ……」
魔獣化の実験の為に連れ去って行ったのか?というかそれ以外考えられない……
「お前の友人の姿を教えてくれないか?」
「……コンジキノワーウルフヨ……」
金色のワーウルフ……ってまさかとは思うが……
「そのワーウルフは何体かいたりするのか?」
「ヤツダケダトオモウワ……シッテイルノ?オシエナサイ!!」
「心当たりはある……同じ格好になったやつを知っていてな、俺もそいつに用があるんだ」
「ドコニイルノヨ!イワナイトコロス……」
「いる場所までは知らないんだが、おおよそで良いなら教えるぞ」
「ドコナノッテキイテルノ!」
「落ち着けよ。お前に情報を提供してやろうって言ってんのに」
「…………」
「そいつは今、人間の領土に居るのは間違いない。そして、教団に関わっている。
つまりは、教団の人間を虱潰しに吐かせていけば解ると思う」
俺は別のやり方で近づくだろうけど、コイツはこの方法以外では無理だと思う。
だが、見つけ出すのが先か、討伐されるのが先かという賭けだ……
「……ニンゲンノリョウド……ワカッタワ、アリガトウ」
狐魔獣は背を向ける。戦闘の意思は消えた様だ……
「行くのか?」
「……ソレイガイニ、ワタシガナスベキミチハナイモノ……」
「多分死ぬぞ……」
「……ソウネ、ソレデモシカタナイワ……ヤツノカタキヲウテレバイイケドネ……」
寂しい背中だ……行っても殺されるのは間違いないだろうな……
『ショウ、起きてるか?』
『なーに?』
『魔獣と契約するにはどうしたらいいか知ってるか?』
『僕達精霊との方法は知ってるけど、もしかして……』
『そのもしかしてだよ。まぁ相手の了承がいるけどな。まずは聞いてみるか……』
「すまない、ちょっと待ってくれないか?」
「……ナニ?マダヤリアウツモリナノ?」
「そうじゃなくてな、お前が良ければの話しなんだが……俺も予定があってすぐという訳にはいかないんだが、お前が探しているワーウルフの元へと行く予定だ。
色々と今はその為の準備をしている訳だが、もし良かったら一緒に来ないか?」
「……ハハハハハ……アナタハバカナノ?ワタシガニンゲントイッショニコウドウスルデスッテ……」
「無理には言わん。が、ただ無駄死にになるよりはマシじゃないか?」
「……ニンゲンノチカラヲカリテタッセイシテモ、ナンノヨロコビモナイワ……」
「じゃあ死にに行くだけか?友の所為にして」
「フザケルナ!!」
背を向けていた狐魔獣はこっちを振り向く、恐ろしい形相で……
「オマエニナニガワカル?ワタシニハワタシノシンネンガアルンダ、ソレヲオマエゴトキガ……」
「信念ってそんなに大事か?目的はどうでもいいのか?
すまないが、俺にはその考えが理解出来ない。結局は友を助けに行って、そいつが助かろうが助かるまいがその行動をした自分に満足なんだろ?
それで、そいつはどうなる?
もしかしたらお前が来るのを待っているかもしれない、もしくは無事に生きてて欲しいと思っているかもしれない……
結果を出せなければお前はどちらの気持ちも裏切る事になるんだぞ!」
言ってはみたものの、俺の価値観の押し付けでしかない……だけど俺自身の考えで、間違っているとは思わない。
当然だ……自身の正論を言っているのだから……
「……ジャアドウシロトイウノダ……」
「利用しろ……俺を利用してそいつにたどり着け」
「……ダガ、ソレデハニンゲンノテヲカリルコトニ……」
「もう一度言う、手を借りるんじゃなくて利用しろ。
お前が生きてそいつに会うために、俺を利用すればいいじゃないか」
「…………」
「俺と利害関係が一致しただけだ。仲間と思えとは言わないし考えもしない。利用価値があるからお互いするだけだ」
「……ワタシニリテンハアルノハワカッタワ……デモアナタハナニヲリヨウスルトイウノ?」
「お前の力かな……そいつに近づくまで、俺の命を守ってくれればいい。
それと、今の戦闘をまず終わらせてくれないか?」
「……ワカッタワ、セントウハチュウシサセル」
回りで戦っていた魔獣達は戦闘を止め、下がって行く。
「ありがとうな……お前の目的の為に俺の利用するか?それとも利用価値なしと思って見限るか?」
「……イマスグニハコタエヲダセナイワ……」
「そうか、俺には急ぎの用もあるからすぐにでもここを経つ。
縁がなかったと思ってくれ、じゃあな」
「……フフッ…ヒキョウヨネ……ワカッタワ、ゾンブンニアナタヲリヨウサセテモラウワ」
「そうか、俺の名は新垣 仁だ。お前は?」
「ビャッコノフューリーヨ…ヨロシクネ……」
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