旅路
サンドラ様の宿舎に着き、中へと通された。
中へと入ると、サンドラ様は既に待っていたようで若干ご機嫌斜めだった。
「遅いぞ!朝一から出発する予定じゃなかったのかい?」
「サンドラおばさん、まだ日が明けてそんなに経ってないと思うんだが……」
「朝一と言ったからには、日の出と共にと言うのが相場で……」
「すいません。遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
こういう時は謝るに限る。
色々と言い訳すれば、どんどん立場が悪くなってしまう。
「最初から謝ればよいのだ。まぁよい、もう行く準備は整っておるのだろうから、ごちゃごちゃ言うまい」
「ありがとうございます。それで、同行してもらえる方はもういらっしゃるんですか?」
「今は別室で待たせてある。呼びに行かせるから待っておれ」
横に立っていた従者らしき人、呼びに行く為に出て行った。
「サンドラ様、ちょっと別の話しをしても?」
「構わんぞ」
「ありがとうございます。前に言っていたキャメロの事なんですけど」
「あぁ、それならば会ってみた。戦争の時に居ったやつだったのか、言ってくれれば最初から会いに行かずに済んだものを」
「すいません。その事をすっかり忘れてました。
それで、どうです?サンドラ様の見た感じでは」
そういえば会っていたの忘れてた……実際に一緒に戦闘なんかしていないから、実力は判らないだろうけど。
「……魔力量は多くないけど、鍛えればそこそこ強くなると思うのだけど……いかんせんあの性格はどうにかならんのか?」
「……臆病って事ですか?」
あった時に何があったのやら……ただ話しをしたとかの次元じゃなさそうだ。
「ちょっと呼び出して、実力を測ろうと腕試しをしたのだが、ずっと逃げ回っておったぞ」
いやいや……サンドラ様の攻撃を逃げ回れるだけ十分だと思うんだけどな……実際俺だって必死なんだし。
「でも、サンドラ様の攻撃を避けていたなら素質はありますよね?」
「確かに1度も攻撃を喰らわずに魔法で回避しておったが……まぁよい、十分に鍛え直してやるわ」
「よろしくお願いします。彼は戦力として期待してますから」
キャメロ……性格直される程の修行がどんなものか判らないが……頑張れ……
「失礼致します。サンドラ様、呼んで参りました」
「そうか、ならば早く入れ」
後方から1人の女性と少年?が入って来る。
「紹介しよう、女の方が妾の部下でタニア、そして男の方は妾の弟子のメロだ。
タニアは魔法を使いながらの近接戦闘を得意としておる」
「ご紹介頂きましたタニアと申します。旅の間よろしくお願い致します」
「そして、メロは魔族の中でも珍しい回復魔法使いだ」
「メロと申します!よろしくです」
「2人とも頼りになると思うぞ、タニアは独特な近接戦闘だが、妾の部下の中では5本の指に入る。
メロに至っては、まだ若いのに回復魔法はほとんどと言っていい程使える」
「お褒め頂きありがとうございます。ご期待に応えられる様に努力します」
「僕も足でまといにならない様に頑張ります」
「紹介も済んだし、何もなければ行ってよいぞ」
「はい、ありがとうございます。では行ってきます」
サンドラ様の宿舎を後にし、ようやくメンバーが揃い旅路が始まる。
1枚の地図を持ち、まだ見ぬ土地へと出向く……
なんだかRPGっぽいな、始める異世界に来てワクワクする。戦争中で不謹慎かもしれないが、ちょっと楽しいぞ。
ドワーフ領……どんな所だろうなぁ、気のいいドワーフが陽気に迎えてくれるとかあるのかな……
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途中までの移動は、前と同じで馬に乗っての移動だ。
途中、ウィリアム様の城で1泊してから翌日にはまたドワーフ領へ向かう手筈になっている。
何やらウィリアム様が戻って持って行きたい物があるらしい……
城までは馬で半日程の所らしいから、夕方前には着く予定だ。
道中は魔獣に襲われることなく、穏やかに移動が出来た。
一旦食事をする為に、馬から降りた際も全く魔獣から襲われることはなかった。
しばらく移動すると襲われなかった原因が判明する。
道の途中で魔獣の死体が大量に転がっていたのだ……死んでいる魔獣には、剣で斬りつけられたであろう後や、弓で射貫かれた死体などで、明らかにここで戦闘が行われたであろう痕が残されていた。
「誰かが戦っていた様ですね……」
「しかし、尋常じゃない死体の量だ。戦闘の痕を見ても、複数で戦っているのが解るが、この量は異常だ……」
「そうですね……ですが、まだ人の死体はありません。どこかでまだ戦っているのではないですか?」
「そうかもしれんな、時間には少しだが余裕がある。助けに向かおう」
ウィリアム様の指示に皆が頷き、死体の方へと移動を開始する。
長い距離で死体が続いていて、途中から森の方に入って行っていた。
「ウィリアム様、馬ではこれ以上進めません。
だけど、ここで馬を離すには距離があります。
そこで、馬を見張り護衛する者と、助けに向かう者とで二手に別れませんか?」
ライラからの提案だった。確かにここで移動スピードを落とすのは厳しい。
二手に別れれば馬を確保したままで探索に行けるから、その後も安心していられる。
「じゃあ、自分が行きましょう。後は、負傷者もいるかもしれないのでメロも同行して欲しい」
「そうだな。では私も……」
「「ウィリアム様はここで待ってて下さい!」」
ライラとハモってしまった……
「なんでだ?私だって十分な戦力だぞ、どうしていかんのだ」
「非常に言いにくいのですが、もしも混戦になって離れ離れになってしまったとしましょう。
その時に、自分やライラであれば十分帰って来れます。が、前回の例を見ても、ウィリアム様が戻って来れるとは考えにくいんです。
自分からのお願いと思って、ここはご了承頂きたい」
精一杯、理解してもらえて失礼のないように言葉を選んだつもりだ。
二次災害だけは勘弁して欲しい……
「う、うむ……そうだな、解った。それならば、ライラとジン殿とメロの3名で追いかける。
そして、私とタニアは馬とここで待つという事だな」
「はい、ありがとうございます。
では、私達で行ってきます。もし、夕方までに戻って来ない場合は、先に城へと戻ってて下さい。
地図はタニアさんに預けて行きますので」
なんとか納得してもらったと言うより、後で怒られるのが怖かったので、引き下がってくれたんだろう。
とりあえずは急いで追いかけて、生存しているなら助けないと……
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