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リターナ

明日の準備の為に部屋へと戻る途中にケインに呼び止められる。


「ジンさん、少し時間をよろしいですか?」


「問題ないけど、どうした?もしかして、何か新しい事が解ったのか?」


「尋問の結果にあまり目新しい情報はないんですが、別件でお話ししたい事があるんです」


「そうか、それで別件の話しって?」


「私の仲間の事でなんですが、今後の訓練に加えて頂けるように口添えして欲しいんです。

私と妹は部屋から出て色々とやっているから良いんですが、残る2人は食事以外の時間は部屋に籠る状況でして」


「そういう事か……だけどリターナは大丈夫なのか?」


「リターナも現状を理解してくれてます。人間が行った所業や今回の経緯についても解ってくれました」


「お前を疑う訳じゃないんだが、リターナを信用出来なくてな」


「それなら1度会ってみませんか?そっちの方が早いかもしれません」


「そうしようか、今からでも大丈夫か?」


「問題ありません。では、一緒に行きましょう」


ケインと一緒に宿舎へと向かう。あのリターナだからなぁ……問題を起こされたら困るし、明日にはここを発つ予定だから特に不安だ。


宿舎に入り、アガートが筋トレしているのが目に入った。

確かにここに篭もりっきりだと体は鈍るだろうけど、なにも汗が滝のように噴き出す程トレーニングしなくても……


「アガート、鍛練中にすまないがリターナを呼んで来てくれないか?」


「帰っていたのかケイン、それにジンさんも来ていたんですね。

ちょっと呼んで来る前に汗を拭いてくるから待っててくれないか」


「俺は構わんぞ、腰掛けて待っている」


「すいません、では少し待ってて下さい」


アガートが布を取りに、奥へと入って行った。


「なぁケイン、アガートって急に俺に対して敬語使ってないか?」


「最初の時は状況が状況だったから仕方がないですよ。

でも、アガートは元々律儀な男ですからね。あなたのお陰で食事にも困らない生活を送れているのを知ってるんです。

牢から出てお世話になっていると伝えた頃から、あなたの話題なんかの時は敬って話していますよ」


「そうか、敬語で話されて悪い気はしないから良いけど、急な態度の変化には驚くよ」


「そうですね。ですが、元々ジンさんの方が年上じゃないですか、私はそう思ってずっと敬語なんですけどね」


「確かに年上だけどな……ダークエルフのみんなは見た目以上に歳とってるから、ここでの見た目年齢はアテにならないからな。

特にサンドラ様なんていったい何歳なんだか判らん」


「そうですよね、ウィリアム様がオバさんなんて言ってるのを聞いて、軽く混乱しましたから」


「そうなんだよな……でも、幾つなんですかって聞いたら怒られそうでな、とりあえずその事は胸の内に秘めとくよ」


そうこう話している間にアガートがリターナを連れてやって来た。

リターナは俯いたままでこっちに向かって来ていた。


「ジンさんお待たせしました。リターナを連れて来ました」


「ありがとう。それで……リターナは何で下を向いたままでこっちを見ないんだ?」


リターナは急いで顔を上げて俺を見る。

俺自身、リターナに良い印象を持っていない為に口調が厳しくなってしまった。


「すいません。以前の事で心苦しくて……」


「以前の事?あぁ、遭遇した日の事を言っているのか」


「はい……あの時は何も知らずに、あんな態度をとってしまい申し訳ありませんでした。

ケインから色々と話しを聞いて納得しました。この世界を取り巻く環境や、人間族が行ってきた数々の悪行も」


「それでリターナはどう思ったんだ?」


「最初のうちは全く信じていませんでした。私の父は教団で働いていますし、信じないと言うよりは信じきれませんでした……

ですが、今回の戦争の事で色々とケインに聞いたり、尋問している内容を一緒に聞いて解ったんです。

結局は私の都合の良い様に世界を理解していたんだなって」


「そうか、じゃあこれからどうしていきたい?」


「ダークエルフの為にと言うより、世界を変えようとしているジンさんの力になりたいんです。

先日まであんな態度をとっていた人間を信用出来ないと思いますが、私の今の気持ちです」


俺はゆっくりと立ち上がり、リターナの方に歩いて行く。

そして、近づいて来た俺に対してリターナは少し震えていた。

俺はリターナの頭にそっと手を乗せて話した。


「解った。今の言葉を信じようじゃないか……だけど、周りに信用してもらう為には時間が掛かるだろう。だから、根気よく頑張るんだぞ」


「……ありがとうございます。認めてもらえる様に努力します」


リターナは少し涙ぐみながら言葉を返した。


「1番の礼は、ここまでお膳立てしてくれたケインに礼を言うんだ」


「ありがとうケイン……」


「礼を言われる程の事ではありません。私達は仲間じゃないですか。

それに、結果が出るまではみんなで頑張りましょう。アガートも一緒にですよ」


「……あぁ、俺も自分の為みんなの為に努力する」


「じゃあ、俺は納得したから戻って進言しとく。

リターナ、アガート頑張ってくれよ。それと、奥から覗いてるレインも頼んだぞ」


物陰に隠れて話しを聞いていたレインにも声をかける。

多分、出るタイミングを失ってしまって隠れていたのだろう……


話しを終えると、俺は宿舎から出て行きリュードの部屋へと向かい、部隊に加える様に話しをした。

特に反論する事はなく「了解した」とだけ返事をしてくれた。




―――――――――――――――――――――――――――――――




翌朝、日課の訓練を行っている時にもライトに話しをしておいた。


朝練を終えて部屋へと戻るとライラが待っていた。

ウィリアム様と話しを終えて、いつでも出発出来るようだった。


俺自体は準備する物といっても、大した物はなかったからすぐに準備が完了し部屋を後にする。


ライラと2人でウィリアム様の元へと向かい、国王に渡してもらったという地図を確認し、城の外へと向かった。

城の外に出て、一旦サンドラ様の元へと向かう。ウィリアム様が頼んでいた同行者を迎えに行く為だ。


「ウィリアム様、一緒に来てくれる人はどんな人か聞いてますか?」


「いや、聞いていないな。腕の立つ者を手配しておくとは言っていたんだが」


「そうですか、でもサンドラ様が手配してくれる方なら信用出来そうですね」


「そうだな、オバさんなら間違った人選はしないだろう。

じゃあ、迎えに行くか」


ウィリアム様が反対の方向へと歩き出す。


「ウィリアム様、行く方向が反対です」


すかさずライラが呼び止める。

ウィリアム様は焦った感じで急いで走って戻って来た。

すぐそこなのに、方向音痴も大概だなこの人は……これから先、間違ってもウィリアム様に先頭を歩かせないようにしないと……



今回もお読みいただきありがとうございます。

ご意見ご感想お待ちしています。


次回もよろしくお願い致します。

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