起床
試験も終わり、気になっていたブランのもとへと向かった。
監視をしていた兵士が俺を見るなり近づいてきた。
「ジン殿、今そちらに向かおうとしていたところでした」
「何かあったのか?」
「今しがた目を覚まされました」
「それで、会話は出来るのか?」
「はい、普通に言葉を発していたので問題ないかと」
「解った。ありがとう」
兵士を通り過ぎ、ブランのいる医務室へと急ぐ。
医務室へと入ると、ブランは仮設ベッドに腰を掛けていた。
「ブラン!目覚めたか」
「ジン…さんか、ようやく起きたよ。兵士から少し話しを聞いたが、迷惑を掛けたみたいだな……」
「いや、元を正せば俺がお前に依頼したのが始まりだからな。責任はきちんととるさ」
「俺は……いやいい…それよりお前さんに言っておかなきゃいけない話しがある」
「なんだ?」
「……もしかして、俺に聞いてこないと言う事は、事の主犯格は解ったのか?」
「それなら解ったさ。お前の部下が俺を呼びに来て、着いた時にいたからな」
「俺の部下が呼びに行った?」
「あぁ、お前に頼まれて呼びに来たとか言ってたが」
「いや、俺はそんな事頼んじゃいないぞ!」
「は?でもソイツはハッキリとそう言ったぞ。もしかして……」
「多分ソイツは主犯格の一員だ」
「いや、主犯格のやつらに聞いたが、自分達以外に潜り込んでいるやつを知らないと言ったそうだ。
それは魔法で証明してくれているから間違いないはずだ」
「ならソイツは……」
「多分別の策略の人員だ。ところで俺から聞きたい事がある。
お前は誰かから妙な事をされたか、飲まされたりしてないか?」
「いや……そんな記憶はない。何でだ?」
「ならば、お前が気を失っている間に行われていたんだな……
それと俺から話さなきゃいけない事がある」
「色々と話しが勝手に進んでいて追いつかないんだが、まずは聞いておこう」
「助かる。お前に話さなきゃいけない事っていうのは、イルニードの事だ」
「俺はキチンと契約を果たせなかったが良いのか?」
「いや、お前は十分働いてくれたし、これを話さないと先に進まない」
そう言ってイルニードの魔獣化話しをした。そしてそれと同じ事がブランに起こったという事も……
「俺は誰かに操られてお前さんと戦ったんじゃないのか?」
「魔獣化して襲いかかってきたからな、操られていたのとは違う。
監視をしていた兵士には詳しくは話していなかったから、おおよその話しを聞いたんだろ。
実際の出来事はそういう事さ」
「そうか……それで俺が元の姿に戻る為に色々と手を尽くしてくれたのか」
「まぁ、俺だけの力じゃあ無理だったから、アリってやつの力を借りたのさ。
後でここに来ると思うから、その時にでも礼を言っておくといい」
「そうだったのか……本当に色々と迷惑掛けたな」
「さっきも言ったが気にするな。俺が始めた事のケツを拭いただけだ」
「いや、アンタがいなかったら元に戻れていないって事なら、礼の1つじゃあ足りないぐらいだろ。ありがとうな……」
「じゃあ、礼だけ受け取っておくさ。
ところで、魔獣化した時の記憶はないのか?」
「全くな……ただ、起きてからずっと体に違和感を感じるんだ。それが魔獣化が原因だと思うと納得出来る気がする」
「そうか、それともう一つ良いか?」
「あぁ、大丈夫だ。いくつでも聞いてくれ」
「じゃあ、今にでも魔獣化してしまう気配はあるか?それとも、任意で魔獣化してしまう事は可能なのか?」
「今のところで気を抜いたらなってしまいそうと言うのはないが。魔獣化自体出来ない事はなさそうだけど、その後どうなるか判らないからやりたくないのが本音だ」
「気をつけるに越した事はないが、もしも何かのきっかけで魔獣化してしまった際に、意識を保ったまま出来るか出来ないかは大きな差だ」
「確かにそうだな。だけど、すぐに行うのは無理だ。まだまだ体力も回復しておきたいしな」
「それは今後やっておかないとな。ただし俺一人で練習を手伝うのは難しいが、さっき言ったアリが居ればなんとかなるかもしれない」
「彼女が戻してくれたんなら、安心して出来るかもしれないな」
「戻り方なんかはバッチリ教えてくれるかもしれん。
その内訓練しておけばいい、いつ暴走してもいい様に俺も近くで待機しておくから」
「すまない、俺が油断した所為で……」
「何度も言うが、巻き込んだのは俺だ。だからお前が謝る必要はないよ」
「それでだ、お前が倒れるまでに何があったんだ?」
「お前さんと別れた後、1人でアイツらの後を追っていたんだが、それ自体がバレてしまっていてな。
上手いこと3階まで誘導されてしまったんだよ。それで、その後は囲まれてしまって風魔法の衝撃波で前後から撃たれまくったんだ。
俺が記憶があるのはそこまでだ。自分でも嫌になるくらいの油断だったよ」
「そうか…まあ、相手が警戒しながら行動していたんだろう。どこかの時点でバレてしまっていたのか、最初からバレても対処出来る様に行動していたのかかな。
とりあえずは上手く片付いたから問題ないさ、今はゆっくり体を休めてくれ」
「あぁ、そうする事にする」
「じゃあ、また来る。起きてすぐに色々と聞いてすまなかったな」
医務室を後にすると、そこにアリがこっちに向かって歩いて来る。
「アリも起きたって聞いて御見舞か?」
「そだよ〜。あの人の体の様子が気になって」
「助かる。それともし魔獣化の事で相談を受けたら、答えれる範囲で説明してやってくれ。
今は体に少し違和感があるらしいから」
「りょーかい。それと何かわかったら報告するよ。じゃあね〜」
アリは医務室へと走って行った。あの無邪気さで相当な腕前だからギャップが凄い……お陰で色々と助かったんだが、落ち着いたら何かお礼代わりにしてあげないとな。
そういえばライラのドワーフ領行きがどうなったか気になってたから、ちょっと会って聞いてくるか……
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