試験開始その3
緊張しているキャメロを見つけ、声を掛ける。
「ようキャメロ、調子はどうだ?」
「うわっ!?ビックリしました……ジンさんじゃないですか、驚かせないで下さいよぉ。
調子もなにも、緊張し過ぎて何ひとつ満足にこなせてませんよ……
この試験の内容次第で減給とかないですよね?怖くてしょうがないんですけど」
「なるほどなぁ、減給か……進言してこよう」
「え?え?そんな事しないで下さいって、しかも僕が発端になって、周りから責められるじゃないですかーーー」
「冗談だよ。で、模擬戦はしっかり結果出せるんだろうな?」
「うぅ……自信がないです。植物操作魔法もここでは使えませんし、そもそも戦闘向きじゃないんですってぇ」
確かにキャメロは決して前線で戦うタイプじゃない。けども、魔力操作は長けてる筈なんだが……じゃなきゃ植物操作なんて高度な魔法なんて使えないと思うんだが
「なぁ、水属性の魔法も得意なんだよな?」
「はい……植物操作の際に必ず使いますから」
「だったら……」
キャメロに耳打ちして作戦を伝える。上手くいけば楽勝で相手を倒せる筈だ。
「……出来なくはないですが、頑張ってみますよ。出来なくても怒らないで下さいよ?」
「怒りはしないが、減給は覚悟しておいた方が良いかも」
「冗談ってさっき言いましたよね!?勘弁して下さいって!」
「まぁ、頑張ってこいよ。応援してるからさ」
「解りましたよぉ……でも期待しないで下さいよ。それと減給だけは止めて下さいね」
泣き言を聞いた後キャメロの元を離れて、模擬戦の観戦を続けた。
キャメロの順番が回ってきて、対戦相手を確認する。
あれは確か3番隊の……なんてったっけか?召還された初日に出会って、ライトと一緒に居た……ガルフだ!
あんな体格の良いのが相手なんてな、でも作戦通りいけば余裕じゃないかな……
―――――――――――――――――――――――――――――――
ジンさんが無茶言ってくれるから、余計緊張してきたよぉ……
しかも、相手がガルフさんだなんてツイてない。泣きそうになってきた……
「キャメロが相手なら本気を出さなくていいな」
「はぁ……お手柔らかにお願いします」
この人苦手なんだよ。大体、ダークエルフじゃ無くてオーガかなにかじゃないの?周りにそんなにゴツイ人見た事ないよ…
「それでは始め!」
考え事していたら急に始まっちゃったよ。
ガルフさんは真っ直ぐ剣を持って突っ込んで来ている。速さ自体はそんなにないから回避は問題ないけど、ジンさんの作戦を実行するにはガルフさんに触る必要があるから、危険を伴っても前に出なきゃいけない。
大振りで剣が振り下ろされる。剣と言っても、木で作ってある剣なので殺傷力は低いけど、当たれば当然痛い。それもガルフの筋力であれば尚更だ。
手を抜かれているみたいだから、遠慮なくジンさんの作戦を実行する為の行動をやれるよ。
剣を回避し前進しようとするが、下ろされた剣が下から跳ね上がってくる。力任せで剣をキャメロに向かって斬り込もうとしている。
あっぶない……ギリギリ回避出来たけど、至難の業だよぉ……どうやって触れば良いの?
「キャメロ、よく避けたな。少し本気を出して攻撃するぞ。死なない様にガードだけはしてくれよ」
この人、殺す気で模擬戦しようとするの?しかも、笑いながら攻撃しようとしてるし…絶対この人の相手は無理ですぅ……
今度は避けにくい様に、縦での斬撃ではなく横で切りかかる。後方にキャメロは回避しているが、追撃で突きを放ってくる。
上手く回避したが、何度も攻撃を行ってくる。キャメロの方がスピードは上であるから、回避は出来ているが反撃する様子がない。
怖いって、当たったらただじゃすまないんだよ。どうやったらガルフさんに触れる事が出来るかなぁ?
回避し続けて体力の切れるのを待てば……でも模擬戦の時間が先に終わりそうだし、自分の体力が先になくなっちゃうよ。
なら、全力の速さで背後をとり触る。それは実践してるけど、意外と剣の扱いが上手いんだよね。力任せだけど斬撃の方向を無理矢理変えてくるから、避けるので精一杯になっちゃう。
じゃあ、こっちから攻撃を仕掛けてスキをつくるのが1番良いけど……
ガルフの攻撃を躱し、後退する。大きく距離をとり風魔法を発動させる。小威力の風の衝撃波を飛ばすと、ガルフは盾に土を纏わせガードする。
今なら、盾の死角で接近して接触出来かも。
キャメロは盾を持つ左手の方向へ大勢を低く駆け出した。上手く視界から逃れガルフの足に触る事が出来た。すぐに移動し距離をとる。
「一瞬ヒヤッとしたが、攻撃出来なかったみたいだな。今のが最後のスキだったと思うんだな、これからは本気で相手してやる」
「いえ、攻撃出来なかったんじゃなくて、攻撃する為の準備が今終わったんです」
「なんだって?」
「これで終わりって事です」
ジンさんの言った通りに魔法を発動。自信はなかったけど、触った瞬間に出来ると思った。
「何をしたと……って体が動かない。なぜだ?何をしたと言うんだ」
「答える義務もありませんし、油断したガルフさんが悪いんですよ」
ガルフは一生懸命動こうとしているが動けない。そして、言う事を利かない筈の右腕が勝手に動き、自分の剣で自分を思いっ切り殴り倒れた。
そして、模擬戦終了の合図がなる……
疲れましたよぉ……これでジンさんに怒られずに済みますし、お礼を言っとかないといけないですね。
ジンさんのお陰で勝てた様なものなんだから……
―――――――――――――――――――――――――――――――
「キャメロよくやったな、ちゃんと勝てたじゃないか」
「いやぁ、ジンさんのお陰でですって。助かりましたぁ」
「いやいや、それはお前本来の実力だ。俺はそれに少し助言しただけだから気にすんな」
「でも凄い方法でしたね。確かに言われた通りの感覚で魔法操作出来ましたし」
「俺が出来る自信はないけどな。お前の持つ感覚と経験の差ってやつだ」
無事に勝たせる事が出来て良かった。あいつの魔力操作能力は本物だ。磨けば結構強くなる可能性があるな。
「そうなんですか?意外とすんなり出来たから、そんなものとは思わなかったです。
でも、本当にありがとうございました。これでひとつだけ良い結果が残せましたから、安心出来ましたぁ。
じゃあ、他の人の邪魔にならない様に外に出てますね。失礼しました」
キャメロは嬉しそうに外へと駆けて行った。
しかし、本当に出来るなんて凄いもんだよ。素質ってやつかな、誰かにびっしり鍛えて早く戦力にもらおう……
今回もお読みいただきありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしています。
次回もよろしくお願い致します。