部隊
「じゃあ教えよう……それは憲兵だよ」
憲兵って聞いた事あるけど……確か昔の日本に存在したよな。
ええと、軍隊内部を取り締まる警察組織の様な役割だった気がするけど……そうか、そういう事か。
「内部取締って事ですね」
「その通りだ。今回の戦争の経緯は娘から聞いたよ。数年前に私が国王だった時に考えていたんだけど、必要性が薄かった為に実現させなかった部隊だ」
「だけど、実際事は起きたって事ですね」
「そうだ……自分達種族を信じていたからと言えば格好はつくが、私のその甘さで事を招いたところもあるだろう。実際に作っておけば、今回の戦争は未然に防げたかもしれない……」
リュードが立ち上がりウィリアム前国王に近づき、必死で言葉を発する
「いえ、ウィリアム様の所為ではありません。私がイルニードをもっと注意深く監視していれば……私の不徳の致すところです」
「リュードは昔から変わらないな。何もかもの責任を背負ってしまう。だが、これは私も気付くべきだったのだ。それに弟、いや国王にも話しておけば良かったのだ」
そう言えばイルニードが言っていたな、血族で続く王位って感じで。
現国王が弟で、前国王が兄。そしてその娘がリレイって事か……
しかし気になるな。前国王と現国王は歳が近い様に思えるし、それならなぜ弟に王位を引き継いだのか?
でもそれは置いといて、今は部隊の編成の話しの続きをしなければ……
「内容は解りました。自分も憲兵部隊は必要だと思います。疑うと言うより、何かの際の抑止力にもなりえますからね」
「済まない脱線してしまったな……理解してもらって助かる。だが、先程聞いた人員不足だった場合が問題だな」
「その点は問題無いかと思いますよ。別部隊で作るんじゃなくて、その部隊内部で作ってしまえばいいですから。そうすれば内部監査と捜査は各部隊の内部の人員を集って行えばいいだけです」
「なるほどな……それなら人員が不足していても問題無いな。それに、各部隊の情報共有にもなるしな」
「はい、そしてそれとは別に誰にもバレない様に調査する部隊を作れば……」
「表では憲兵部隊が圧力をかけ取り締まるが、裏で憲兵部隊も捜査対象となる部隊を作っておけば、保険にもなるし二重に取り締まることが出来ると言うわけだな」
「そう思います。ですが信用出来る人員を得るのが問題ですね」
それだけの仕事を任せる以上、信頼は最低条件だ。そうなると、この世界に来て間もない俺では誰が信用出来るのか判断出来ないし、かと言って誰かにその判断を任せる事も危険な気がする。こればっかしは人を見ていくしかないんだろうな。
「それでこれから先で話すのは提案だ。その部隊長と副部隊長にジンどのと、リュードを指定したい」
「ですが、リュードさんは既に近接部隊の隊長をお願いしたいんです」
「それなんだが近接部隊の隊長を私がやって、副部隊長をリュードにお願いする。副部隊長を兼任してもらう。2つの掛け持ちで大変だろうけど頼む」
「ウィリアム様の頼みとあらば、断る道理はありません。お任せ下さい」
話しがどんどん進んでいくが、特に不満も無いし問題ないだろう。しかし、前職が国王だけあって場を掌握するのが上手い。今は彼が話しの中心にある。
「遅れてきた分の働きは出来たかな?ジン殿、私からは以上だ」
「確かに遅れて来た分の働きは出来たが、妾への謝罪がまだよ!!何が「以上だ」よ。カッコつけてないで、まずは謝りなさい」
1人だけ掌握出来ない人はいたけど……
そこでひと悶着あったが、とりあえずは会議は上手くいった様だ。
「では、ウィリアム様の提案を追加した内容で決定したいと思います。何もなければ以上で会議を終了したいと思います」
皆が頷いているのを確認して、今回の会議を終了させた。
会議室から出ると、外でウィリアムが待っていた。
「すまないね、今日は遅れて来た挙句、君の提案内容に勝手に追加させてしまって」
「いえ、助かります。1人で考えた内容より、皆で作った内容の方が絶対いいものに仕上がります。お陰で助かりました」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。しかし、君は我々に対して本当に色々と協力してくれてるみたいで」
「そんな事はありませんよ。何もかもは周りのみんなが協力してくれたからこそなし得た結果です」
「そんなに謙遜する事はない、君がいなかったらここは陥落していたかもしれないんだ。君のお手柄さ」
「ありがとうございます。ですが、これからまた戦争は続きます。気を引き締めて尽力したいと思います」
「よろしく頼むよ。ところでお願いついでなんだか、娘の捜索を手伝ってくれないか?
娘が心配で1人で出てきたんだが、追って来ていたなら心配で仕方が無いんだ。私も捜索に行きたいんだが、帰って来れる可能性が低いので困っているんだ」
かなりの方向音痴みたいで、それこそ出て行ったが最後、帰るのがいつになる事やらだ。魔力探知の練習も兼ねて、捜索を手伝ってくるかな…
「解りました。じゃあ探してきます」
「申し訳ない。よろしく頼んだよ。それと、技術部隊の件は私から弟に伝えておこう。募集を開始するのにも時間は掛からないから、準備だけでもしておいてくれ」
「よろしくお願い致します」
そこで会話を終了し、リレイの捜索に向かった。
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サンドラ様は既に出て行ったみたいで、どっちに行ったか判らなかった。
とりあえずはここで魔力探知を行って、大体の方角を考えよう……
今までは近くの相手に対して行っていた探知を、広範囲に拡大させる。
全方向をカバーする様な事は出来ないし、やり方が解らない為、前方だけに意識を集中して行う。
どの位までいけるかな……まっすぐに意識を伸ばしていくが、これは結構しんどい。体の感覚が鈍くなり、距離に比例して意識が遠のいていく、気を失いそうになる。
『ねぇねぇご主人、僕も手伝おうか?』
『そうしてくれると助かる。じゃあ、召喚するから待ってな』
召喚魔法を使用し、ショウを呼び出した。確かにショウが飛んで探してくれれば、探す方向を絞って行ける。
『じゃあ、ショウは左に向かって飛んでくれ。俺は右に向かうから』
『解ったよー。じゃあ行ってくるね』
『俺も手伝うぞ。お前さんが移動していってくれれば魔力探知は俺が行うから』
『あぁ助かる。じゃあ、移動する』
なんだかおんぶに抱っこで申し訳ない気持ちになる……頼れるのはいいが、もう少し色々と出来る様にならないといけないな……
ブラッドに魔力探知を任せ、脚力を強化して走り出す。ブラッドの魔力探知の範囲は解らない為、5分程まっすぐ走ったら横に少し行って、またある5分程走ったら横に移動を繰り返し、密に捜索をしていく……
繰り返し30分程走ったが、なかなか見つからない……
どこに行ったんだ?もう少し捜索範囲を広げた方が良いのか?
『ブラッド、どんな感じだ?』
『魔獣らしき魔力は探知に引っかかるんだが、人の魔力は無いな……』
どうしようか……迷うより、まずは出来る限りの捜索をして考えよう。
走り出そうとしたその時、魔力を通じてショウから言葉が飛んでくる。
『ご主人!急いでこっちに来て助けて!?』
『どうした?何があった?』
問いかけた声に返事がない……何かあったのか?
『ブラッド、ショウの方で何かあったみたいだ。急いで向かうから融合して空を行こう』
『解った。準備はいいぞ』
融合を行い空を移動する。未だにショウからの返事がないのも気にかかる。魔力を追ってショウの元へ向かった……
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