姉弟
夕食の時間になり食堂へと足を運ぶ。そこでもう一人の選定をお願いしたい人物を見つけた。
「食事中にすまないが、お願いがあるんだけどいいかな?」
「なんでしょうか?私に可能な事ならどうぞ」
「あぁ、3日後に軍を再編する為の選定を行うんだが、それを一緒にしてくれないか?」
「それは大役ですね……引き受けるのは良いんですが、周りは納得してくれますか?」
「そこは俺が一任されてるからなんとかするさ」
「そうですか、では引き受けましょう。ちょっと楽しみでもありますし」
「じゃあ頼むぞケイン」
そうだ。俺が頼みたい人物はケイン……人間ではあるが情報提供を条件に捕虜になっていた人物。
現在はチームメンバーと食事中だった。ただしリターナを除いて、彼女はまだ人間族の実状に疑心暗鬼でダークエルフと会食するほど気持ちの整理が出来ていないそうだ。
「ところでケインが主として使う武器は弓じゃないよな?」
「どうしてです?」
「俺の勘違いだったらすまないが、俺と会った時に自分の武器である弓をいち早く置いたろ、それで交渉が始まる前に敵意が無い事を現しただけかと思ったが、実際ケインと接していく中で何の保障も無しに自分達の命まで掛けた交渉をするかなって思ってな。つまりは素手でも勝つ自信があったんじゃないかと」
「そうですか、ジンさんも色々と考察しているんですね。その通りですよ。私の主となる戦闘は格闘や暗器を使った方法です。
諜報活動や暗殺の仕事を元々の生業としていたので、そう言った戦闘方法が主になっていましたね。弓を使うのはそれを隠す為の手段です。別に弓が苦手というわけではないんですが」
「本当なのか!俺は初めて聞いたぞ!」
「そうですね、アガートにも言っていません。言って得する事ではありませんので」
「やっぱり当たっていたか、さっきの話し以外にも気にはなってたんだ。1冒険者が手に入れられる情報じゃあない量の知識があったからな、裏事情なんてもの危険過ぎるだろ」
「色々と喋り過ぎましたからね、ここではバレても命を狙われる危険性も少ないですし、ようやく話せる機会がきたのでついつい饒舌になってしまいました」
「それでだ、詳しくは明日の夕方に集まって話しをするが、ケインにはそういった能力がある人物を選定してもらいたい」
「解りました。色々聞きたい事がありますけど、では明日の夕方に楽しみを残しておきましょう」
「じゃあ頼んだ」
ケイン達と別れ自分の食事を済ませる。食事中にあの姉弟を見かけなかったが、ライトが何かしら説明しているのかもと思っていた。
夕食も終わり部屋に帰ると、部屋の前でライラが先に来て待っていた様だった。
「部屋の前でどうしたんだ?」
「ちょっとジンと話したい事があって……」
部屋の外ではなんだからと中に入って話しを聞くことにした。
「で、話したい事って?」
「私がジンと一緒に寝たらダメかな?」
ライト……さり気なくって言ったのに、どストレートできたよ。どういう相談が行われたのかな?
「寝たらダメって言うわけじゃないけど理性がね……ライラ程の綺麗な女性が隣りで寝てるって思ったら、なかなか寝付けなくてな」
「そ、そんな、き、綺麗だなんて」
露骨に喜びながらクネクネしてるよ。うまい具合にはぐらかしたかな?
「現状、軍の立て直しとかで問題は山積みだろ。だから色々と考えたい事が多くてな、ライラが寝る前に相談に乗ってくれたら助かるよ」
「そうよね、ジンは今大変なんだもんね。
解った。暫く落ち着くまでは気を付けるね。じゃあ寝る前に逢いに来る」
良かった。なんとなく解ってくれたみたいだ……当面は気持ちの整理をする時間は稼げたかな。
その後、2人で色んな事を話した。ライラからも今後の編成の為の意見を取り入れながら構想を構築していった。
ライラも帰りひと段落、明日の夕方には再編の案の発表か……ケインの件はお願いしたけど、ケイン自体の力を見ておく必要があるかな…どれだけの強さかは解らないが、出会った時のプレッシャーは凄かったもんなぁ、場数を踏んでるのは間違いないだろうけど……明日時間もらって軽く実力を計らせてもらうかな。
もう夜も遅いし、朝から魔力探知の訓練したいから早めに寝るか……
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なんだろう……誰か叫んでる……あれはブラッドか?
話しをしている相手は、ヒュージかな?後1人居るけど見た事ないな。
白いスーツ姿じゃないし、昔の記憶か?
もう一人誰かいるけどブラッドとヒュージの背後から近寄って来ている……ブラッドは何かに怒っているようで、ヒュージがそれを必死で止めようとしているけど……ん?背後から来てるやつはナイフを持っていないか?怒りをぶつけている相手は気付いてるみたいだけど教えない。
もしかしてどっちかを殺害するつもりか?
もうすぐ後ろだ。気付かないのか、早く避けろ……
ブラッドが刺される瞬間に意識が覚醒する……今のは夢か?でも知らないおっさんも居たのを考えると、夢じゃなく記憶じゃないか?
殺される瞬間の映像なんて……ブラッドに聞ける内容じゃないな。
もうすぐ夜明けの時間だった。外は少しづつ白んできている。ちょっと早いが、準備して修練場に行くか……
朝からショウを呼び出し訓練を開始する。昨日よりはだいぶ余裕があるかもしれない、ショウの動きはしっかりと解る様になってきた。寝起きのせいでショウの動きが悪いだけかもしれないけど……
陽が登ってからは修練場に着いたライトに挨拶をする。
「ジンさん、おはようございます。随分早くからやっているんですね」
「昨日はゆっくり休めたからね、ライラは自分の部屋で寝てくれたからさ」
「そうですか、説得した甲斐がありましたね」
「いやいや、逆効果で夕食後に俺の部屋の前で待ってたぞ。しかも相談された内容が「一緒に寝たらダメかな?」って聞いてきたし……上手く纏まったから良かったけどな」
「あれ?納得してくれた筈なんですけど……どうもすいませんでした」
「まぁ良いさ、とりあえずは落ちついたから。ところで今日の昼にケインと手合わせしてくれないか?今度の再編で手伝ってもらうんだけど、実力の程が解らなくてな」
「構いませんけど、本気でやるんですか?」
「軽くで良いさ、後でケインに言ってお願いしとくから。すまないが昼空けといてくれ」
「はい、では修練を始めましょう」
ひとまずはこれで良しとして、後はケインに伝えておこう。
それから魔力探知の練習をして、一旦解散した。
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