協力
「ライラなら俺の部屋で寝ていたぞ、気付いたら来ていた」
正直に話そう……後で俺の部屋からライラが出てきた場面なんて見られたら言い訳出来ないし
「そうですか……この前相談しに来ていた事は本気だったんですね」
相談……?そう言えば確か、奇襲から帰って来た時にライラはライトの部屋にいたな。その時に相談してたって言ってたっけ
「姉さんが結婚したい相手がいるって言ってたんです。誰とは言わなかったんですが、話しの内容をきいてたら薄々はジンさんの事だと思ってましたけど……姉さんが迷惑を掛けてしまってすいません」
「いやいや、迷惑なんて事はないけど罪悪感に苛まれてな……元の世界で俺は結婚していてな、子供もいるんだよ。
だけど俺はライラの気持ちに応えてしまってるんだよ。事が済めば帰ってしまう俺に《今》が欲しいって言われてな……」
「そうですか……姉さんはこれって決めたら昔っから聞きませんから、私も姉さんの気持ちは聞いてますし本気なのも解ってます。
ジンさんにはご迷惑をお掛けしてばかりですいませんが、姉さんをよろしくお願い致します」
「この世界に俺の家族は居ないけど、もし結婚したら重婚って事になるんだぞ。それでも構わないのか?」
「この世界で国王などが複数の女性と結婚している場合もあるので問題ないですし、相手がジンさんなら許せますよ。こんなに状況の中に召喚されたのに、我々の為に一生懸命になって助けてくれている人ですから、人格的にも何も問題ありませんし、むしろ家族になってくれるのであれば大賛成です」
もの凄く俺が美化されてる気がするんだが……
しかも家族か……第二の故郷って言い方すればいい風に聞こえるけどもだなぁ。
考え方次第じゃここは法律の外だから有罪にはならないという事と、家族にはバレる方法が無いからって事で自分に言い聞かせるか……
ただし罪悪感は受け止めよう、罪の意識は忘れずに生きていこう。
「解った。でも結婚するかは解らないぞ、相手がライラだから嫌って訳じゃないけど、裏切ってしまう気持ちはあるからな……現状裏切ってるって実感もあるしな」
「はい。でも、私は姉さんを応援していますから幸せになってくれれば良いです」
寛大な弟だな……ライトだからだろうな、期待に応えたいがもう少し気持ちを整理したい。
「それでひとつさり気なくで良いから言ってくれないか?俺の所で寝られると精神的にもたないから……」
「解りました。じゃあさり気なく言っときますね」
男同士の密談も終わり、一旦部屋へと帰る事にした。
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「ライラおはよう、もう起きないと朝から残りの尋問があるんだろ?」
「おはよう、もうそんな時間なんだね。ジンどっかに行ってたの?」
「ちょっと色々と練習してきたんだ。まだまだ根本的な事の解決はしてないからな、どんな戦いでも遅れを取らない様にね」
「そうなんだ。私も起きて準備しようかな、レインにも今日はお願いしていたから待たせるのもマズいし」
「だな、俺も着替えるから後で落ち合おうか」
「うん、じゃあ部屋で着替えてから行くから食堂で待ってて」
「それじゃあ後で……」
ライラも起きて部屋から出て行った。朝からの練習で汗もかいたし、別に準備してあった着替えに袖を通し、部屋を出て食堂へと向かった。
暫くして食堂へと着いて待っていると、ライラとケイン・レインがこっちに歩いて来た。
「ケイン、レインおはよう」
「……おはよう……ございます」
「おはようございます。お待たせしてすいません、久しぶりのベッドで寝過ぎましたよ」
「構わないさ、俺は急いでないし頼んだのはこっちなんだからさ。とりあえずご飯食べようか」
「そうですね。色々とジンさんに聞きたい事がありますし」
聞きたい事?また、ケインの探究心でも疼いているのか……でも、ケインの探究心のお陰で助かった部分もあるしな、答えられる事は答えておこう
今回の戦の流れなどを説明した。クリフと戦った事やリュードが裏切り者じゃなく、実はイルニードだった事。魔獣化の事も話しておいた。
「魔獣化ですか……色々と気にかかる部分がありますけど、一番不思議なのはそれですね……それにその者が教会に行っていた事実も気になります」
「そうだな、確かにどうやって教会に行っていたのかか……尋問で上手く聞き出せたらいいのだが」
「そうですね。尋問には私も付き合う故、真実を何とか突き止めましょう」
ケインも来るのか……確かに来てくれれば頼りになるか、俺らじゃ現在の世界情勢に詳しくないしな。
「じゃあ早くご飯食べて行くとするか、朝から動いたから腹も減った」
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食事を終わらせ牢屋に行き尋問に参加する。1番隊と2番隊に対しての概ね質問内容はこうだ。
「誰の指示で行われた事か?」
「どうやって人間に対して情報を流していたか?」
「1番隊と2番隊以外で他に協力者はいるか?」
「裏切りに協力する事によって何の利益があったか?」
そして、ケインが追加して欲しいと言った。
「教団に入っているのか?」
「教会への移動経路はどうやっていたか?」だった。
レインの魔法を使いながら真偽を確かめていきながら進行するが、ほとんど皆の答えは
「イルニード隊長に言われた」
「情報を流していた経路はイルニード隊長しか知らない」
「実行は我々だけだ」
「自身と家族との安全」
「教団には参加していない」
「教会に行った事が無いから解らない」といった感じだ。
レインの魔法でも嘘は検出されない、全てをイルニードが仕切っていたのか?だけど情報の流出させる為にどうやってたんだ?
レインの魔法でも解らない……じゃあやっぱり見付かっていない内通者がいるのか?
全員の尋問が終わったが、結局何も解らなかった。
今日に限っては、ライトの方の分もこちらで取り調べを行い、全員を洗ったが無駄足に終わった……
「なんで何も出て来ないんだ?」
「結局のところ、イルニードだけが人間と通じていたんじゃないですか?」
ケインが返事をするが、自分の中で合点がいかない。
何か忘れている事はないのか?今までの出来事の中で違和感のある事は……
時系列で考えて行く……城に向かう途中に通常見ないところでの魔獣がいた。人間が攻めて来ているかもと、森の見張り役が帰還して報告しているのか確認すると帰って来ていない。森の中で冒険者達と戦闘、そしてケイン達と出会い情報提供の為に捕虜にした。一夜明けて奇襲戦開始、来るはずの後続が来ないから不思議に思い探索。見つかった木に付着した真新しい血痕と5人の死体を発見、逆に奇襲に合うがなんとか撃退。皆を連れて帰り城での情報収集、リュードが怪しいと探るが結果何も得られず。魔族軍到着、サンドラ様から作戦内容確認。皆で正体を現さず前線で戦争開始、後方から巨大な魔力が探知される。クリフと戦闘……
何かが引っかかる。そう言えば逆に奇襲を受けた際の死体の数は5人……残りの5人はどこで死んでいたんだ?
そう考えると、居なくなっている人が数人いるじゃないか……見張り役のダークエルフ、奇襲戦の時の後続の1班……既に内通者は国を出て行っているんじゃないか?
それにキャメロと情報収集していた時に聞いた夜中の兵士の集まり……
質問する内容を変えれば何か判るか?
「なぁ、ひとつだけみんなに聞いて欲しい事があるんだが、もう一度尋問してもらえないか?」
「急にどうしたの?何か聞き忘れていたの?」
「そうだ。ライラ頼む、時間が掛かるのは解るがひとつだけ聞いて欲しい。《失踪者》がいるかいないかだ」
「失踪者?いいけどちょっと待ってね」
ライラ部屋から出て行き、もう一度行える様に準備して来てくれた。
「じゃあひとつだけね。サクサクいくわよ」
ただひとつの質問を聞いていくと、ひとつづつ名前が明らかになっていく……
やっぱり奇襲班のメンバーと見張り役で間違いない。これで合点がいった。裏切ったメンバーを外に出して情報を送っていってたのか……ではこれ以上何を聞いても無駄か……
有益な情報はこれ以上残っていないと思い、ライラに終了を告げてもらった。
それと、気づいた事を皆に伝えた。
「なるほど……一応の収穫はあったみたいで良かったですね」
「そうだな、でもこいつらは何も知らなかったんだって事も解ったしな」
内通者は既に外で、手の届かない場所に行っているって訳か……
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