戦場の最後
サンドラ達の元へと走る。彼女等の元を出てからかなりの時間が経っている……どうにか耐えててくれ……
町を出てすぐに人間達が攻め込んで来ていた。元々、人数的にも不利だったから中央は突破されてしまったのか?
人間達が突っ込んで来るが、周りの植物が前進を妨げている。多分キャメロのお陰でだろう、進行速度を遅くしてくれているから町は無事でいられたのだろう。
だけど、このままでは時間の問題だ。人間達を止めなければ……
ショーテルを握り土魔法の魔法剣を作る。これで薙ぎ払っていくぞ
広範囲を攻撃できるように、いつもより大き目に造った魔法剣で大勢を斬り裂いていく……
相手が多過ぎるが、諦める訳にはいかないんだ。彼女等の所まで行って助けないと。
突っ込んで来るもの全てを薙ぎ払い、倒して行くが本当にキリがない……自分の後にはおびただしい数の人間が転がっている。何人倒せば終わる?何時まで剣を振り続ければいい?
前方からはまだまだ終わる事のない人の列、近接で戦い続けるのに疲れてきたので、魔法剣を風に変更し斬撃を飛ばして斬っていく。
チェーンの力で疲労は回復させているが、このままだと体力が続かない。魔力の消費も気になるし、そろそろ回復したいがゾロゾロと人の波が絶えないため、それも厳しい。
「キャメローーー、近くに居るかーーー」
「はーーーーい、いますよーーー。なんですかーーーー?」
「すまないが時間を少し稼いでくれないかーー?」
「解りましたーーー。なんとかしてみますーーー」
戦争中に間の抜けた感じの会話になってしまったが、キャメロはしっかりと仕事をしてくれた。話し終わった直後植物が動き出し進行を妨げてくれる。
今なら回復出来るな……闇魔法の中から体力と魔力の回復薬を取り出し一気に飲み干す。追加で予備をポケットに入れ、攻撃を再開する。
後方から3番隊とキャメロが近付いて来て、魔法による援護をしてくれている。
「みんな助かる。なんとか押し返すぞ」
今は歩兵が中心なのか遠距離攻撃がなく、こちらが優勢だ。数はいるが、手数さえあれば押しきれる。
後方で援護してくれているアイツらの所まで行かせない様に全体を見て攻撃を続けていった……
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抜けてきた歩兵隊からはなんとか守り抜く事が出来た。
前方の至る所に人が倒れている……凄惨な状態だ。これをずっとは眺めきれないな、戦争を写真でしか知らない俺は現実に起きた大量の人の死を実感した。守る為とはいえ殺し合うしかなかったのかと思うが、戦争の虚しさや残虐性を初めて考えさせられた。
ここが終わったとはいえ、まだ安心出来ない。まだ先の方で戦闘が続いている筈だ。その証拠に、遠距離が出来る弓隊や魔法使いは来ていないし、1番隊と2番隊もここに来ていない。
多分だが、魔族軍と戦っているのだろう……持ち堪えている間に行かないと。
「キャメロ、ここは3番隊のみんなと守ってくれ、俺は前線へ戻る」
「解りました。では、お気を付けて下さい」
戦闘が続いているであろう場所へと走り出す。戦争もそこで最後だ……絶対守り抜いてみせる。
走り始めて数分、大勢の声が聴こえる。そんな所まで押されていたのか……急いで状況確認しないと。
森を抜け、戦闘継続中の場所を確認出来た。魔族軍とダークエルフ軍が1番隊と2番隊の兵士を囲んで倒していた。弓隊や魔法使いの人間兵はこちらの軍で倒し終わってるみたいだ。後続も見当たらず、これで最後だろう……
3人は無事か?周り見渡すと、なんとかサンドラを発見する。
残る2人はどこだ……とりあえず話しはサンドラに聞いておこう。
「サンドラ様、お待たせしてすいません」
「ジン!待っていたぞ、こっちで大隊を抑えきれずに抜けて行ってしまった。城は大丈夫か?」
「城の方はなんとか……あらかた片付きましたよ。抜けてきた歩兵隊も倒しましたし……
ところで残りの2人は?」
「あの数の歩兵隊を!?相当な数だった筈だけど……片付いたのならいいわ。
残りの2人は魔力を使い切って休んでる。魔力回復薬もなくなったらしくてな」
「キャメロや3番隊が居てくれましたから、一人じゃ終わらなかったでしょうね。
彼女等が無事なら安心しました。これで最後ですね……もうひと踏ん張りしてきます」
そう言って戦場に向かう……彼等を倒し終わらせる。
『なぁ、ちょっと戦意を下げてやろうぜ』
『どうやってだ?』
ブラッドからの提案だった。戦意を下げれるならそれは助かるけど
『リーダーは撤退して行ったってな。そうすりゃあ無駄な戦いって思ってくれるだろ』
『なるほどな、でもどうやって伝えるんだ?ガチャガチャいってて聞こえないだろ?』
『それなら上空で爆発でもさせてビビらせてやればいいさ』
注意を引いてから発言か、それが上手くいけばそのまま終わってくれるか……
ブラッドの言った通り上空に風魔法で飛び、爆破魔法の音でこっちを向かせる。爆破魔法は音が大きく鳴ってくれればいいから、破裂音が大きくなる様に風魔法の割合を大きくした。
それじゃあ、爆破してっと……
思った以上の破裂音がなる。お陰で全員がこっちを向いてくれた。
「1番隊、2番隊の面々に伝えたい事がある。お前らのリーダーであったイルニードは撤退したぞ、城は無事でお前らが最後だ。
これ以上抵抗してもただ死ぬだけだ。人間達もここには居ないし戦う理由はないだろう。仲間同士で傷付け合うのはもう終わりだ」
全体が呆気にとられていたが、囲まれていた1番隊と2番隊が言って意味を理解し武器を落としていく……今の行いが何にもならないと思って諦めたか、それともイルニードに脅されて戦っていたのか、どちらにしろ戦意を完全に失ってくれたようだった。
「えらく大層な演説だったな、お陰で無事に終わったみたいだな……
皆の衆聴こえたか?戦は終わりだ。1番隊と2番隊は捕縛しておけ、城に戻るぞ……我らの勝利だ!!」
サンドラ様が近くに飛んで来てトドメの勝利宣言だった。
「これで終わった……」
「そうだな終わったな……お主は頑張った。最初から最後まで諦めず、見捨てずに……今回の最大の功労者だな。
さて、リレイ達を連れて帰ろうじゃないか、妾は腹が減ったぞ」
「あぁ……帰りましょう、国王様に美味しいご飯を用意してもらいましょう。そして今日はゆっくり休むんです」
日数自体は数日でも、相当な時間を戦争で費やした。
とりあえずは勝てた……最初は生き延びるだけでもと思っていたが、仲間達のお陰で勝利する事が出来た。これ以上ない戦果だったろう……みんなで帰って休もう、これ以上は気を張っていられない……
最初の努力が実った瞬間だった……帰る為の一歩目がようやく終わったのだった……
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