魔獣の源
「ライラ大丈夫か?怪我を見せてくれ」
イルニードを倒し、ライラの状態を確認する。幸い回復薬と回復魔法で完治するそうなので、表面の傷だけをチェーンで治し残りはアリに任せた。
「ジン、ありがとう。痛みがだいぶ引いたよ」
「良かった。俺が間に合わなかった所為で怪我させてしまってすまない」
「ジンの所為じゃないわ、私が油断していただけよ。彼に対して注意が足りなかったわ……」
「ジン殿、救援ありがとうございます。お陰で助かりました」
「いえ、リュードさんがアイツの相手をしていてくれたお陰ですよ。私はあなたの事を疑っていました。本当にすいません」
「疑う人間を絞れなかったからでしょう、仕方が無い事です」
「しかし、アイツが黒幕だったなんて……まだ前線は混乱状態です。応援を出せませんか?」
「今ここで戦えるのは3番隊のみでなんとも……」
そうだよな、ここには最終防衛の為の戦力しか残っていない。自分の力でなんとかするしかないか……
「そうか……まだ前線で戦争は終わっていないのだな……」
まさかあれだけやったのに喋れるなんて!?
「それならまだ希望はありますね。私も寝てる場合じゃありません」
あれだけの攻撃を喰らっても立ち上がって来ている。本当に不死身か?
「いやいや、効きましたよ。普通なら死んでますよ……」
「殺すつもりだったからな、なんで起きてこれるのかが不思議だよ。なにもんだあんたは……」
「いやはや、これぐらいじゃあ死にませんよ。そもそも死ぬのかどうかも解りませんが」
「アンタはバケモノよ。でも、力でジンに勝てないのは解ったでしょ?もう諦めなさい」
「勝てない?おかしな話しですね。私は死んでもいないのに勝てないと言われましても……しかし、確かにこのまま戦っても私が圧倒出来る要素はありませんね。仕方が無いですが、とっておきを使わせて頂きますよ」
負け惜しみという訳でもなさそうだ。何かまだ手があるのか?
「あなた方はなぜこの世に魔獣という存在がいると思いますか?元々はいなかったはずです。それこそ悪魔がいて使役していたとかという事でであれば話しは別ですが」
「それがどうした。何が言いたいのだ」
俺もリュードと同じ意見だ。今更それがなんだってんだ?
「魔獣は作られた生物だって事ですよ。では誰が何の目的で造ったのでしょう?」
「その話しは聞かなきゃダメか?面倒臭いからもう一度寝てもらおうと思うのだが」
「聞いていたがいいんじゃないですか?今から起こる事の説明は誰も出来なくなる可能性がありますから……
魔獣を造ったのは元々魔族だそうです。目的は獣を強化して領地を人間による侵略から守る為の番犬にするぐらいしか考えていなかったそうですが、その力は病原菌と同じで獣から獣に感染していったそうです。そうやって増えていった魔獣は既に魔族の手に負えなくなっていたようです。
ですが、その菌は人には感染しませんでした。元々獣用ですからでしょうね、ですが最近それを人に感染させる方法が見つかったんです。魔獣のみならず、人まで変化させる方法が。
そして馴らしが終わり、私はようやくその力の恩恵を受ける事が出来ます。
説明は以上です。後は身をもって感じて下さい」
イルニードが真っ黒な石を取り出すと、それを飲んだ……ヤツの身体が変わっていく、金色の毛が生え身体も大きくなっていく。
変化が終わると、ヤツは全身から金色の毛を生やしたワーウルフへと変わってしまった。
「ふうぅぅ……清々しい気分ですね、それに意識も残った。馴らしのお陰でですね、これで戦闘を十分愉しむ事が出来ます。あなた方には実験材料として殺されて下さい」
危険を察知し急いで蹴りを放つ為に接近するが、ワーウルフになったイルニードの視線はこっちを捉えていた。蹴りを放つが受け流されてしまう……
「これは良いですね、さっきは捉える事すら出来なかった動きを余裕で追えましたよ」
受け流された脚が痛む、攻撃の際の受け流しでダメージを負ってしまった。それだけの腕力を手に入れたという事だろう
「いい実験になりますので、まずはジンさんに相手してもらいましょうか」
目の前のイルニードが消える。スピードはクリフと同じ位か?急いでその場から回避すると、俺が立っていた場所の地面が陥没した。
『ブラッド、さっきと同じ事が出来るか?』
『大丈夫だが、あの攻撃の威力は危険だ。クリフと比較にならないぞ』
『分かっている。一撃で危険だという事は理解出来たさ、ヤバい時は融合を頼む。じゃあ視覚をお願いする』
俺は目をつぶりブラッドの視界に任せる。それでようやく追うことが出来た。クリフよりスピードが劣るとはいえ、老眼になりつつある俺では辛い……姿を追っていると右腕を上げてこっちに向かって来ていた。
イルニードの振りかぶった攻撃を払うと腕にとてつもない衝撃が走る。
「この速度の攻撃を捌きますか、以前の時は全力でなかったんですね……」
腕輪の効力で対応は出来るが、防ぐ為に受ける腕の防御力は上がらない。つまり、痛いのは変わらないって事だ。
『そのままいけそうか?融合するなら時間はそんなにもたないぞ』
『そうだな、サクッと終わらせないと支障をきたすし、この後もあるからな』
イルニードの追撃を回避し、後方へと移動する。
『いくぞブラッド!!』
距離を置いて融合を成功……一気に畳み掛けるぞ
急に変化したイルニードは戸惑っている。しかし、そんなのはお構い無しに突っ込み小規模の爆破魔法と一緒に顔面を殴り倒す。
再び壁に激突したイルニードに同じ魔法をセットした攻撃を至る所にお見舞いする。
攻撃を終わらせ距離を置き、爆破魔法を一気に発動させ爆破させた。
壁で倒れたイルニードは白目をむいて気を失っているが、目立った外傷が無いのが気になるが倒すには十分だったか?
「とりあえずこれで終わりだ」
イルニードは気を失っているように見えるが、またいつ立ち上がってくるか解らない。拘束しておけば安心か?
「ヤツを拘束しておく物はあるか?またいつ起き上がるか解らないから……」
「それには及びません……」
立ち上がっている!?目を離したのは一瞬だけだぞいくらなんでもありえないだろ……融合状態の攻撃で、身体能力自体かなり強化されてるし、それに加えて腕輪で更に強化しているんだぞ
「あなたは何者なんですか……急に姿が変わったと思えば、さっきと比較にならない威力の攻撃……魔獣化してなければ原型すら留めていませんよ」
「お前こそなに者だってんだ……いい加減にしろよ。しつこい……」
「そうですね、これ以上は私でも無理です……今は引かせてもらいますが、必ずこの国を手中に収めてやります。生きていればいくらでも機会はありますからね。それまでさよならです。私の身体にもまだまだ強くなりますから、次に会った時は倒してあげます」
「へぇ、逃げるのか?これだけやって逃げられると思ってんのか?」
「はい、残念ながら逃げますよ。戦略的撤退ですではまたお会いしましょう」
そう告げると窓を突き破り、そこから脱出して行った。
追うかどうか迷ったが、追ったとしても既に融合の残り時間が少なく、追い付いても対応出来るか解らない。それに別の所へ助けに行かなければならない……
融合を解除し、サンドラ達の元へと向かおうとするのだが、疲労が溜まりふらついてしまう
「ジン殿大丈夫か!?」
「大丈夫だ……急いで前線に向かわないと……3人が危ないんだ。休んでる暇はないから……」
「でも、その身体で行っても何も出来ないよ」
リスクはあるが、チェーンの力でこの疲労をなかった事にすれば……
チェーンの効力で疲労を回復。これで助けに行ける……
「もう大丈夫だ。急いで行かないと……約束したんだ。戻ってくるって」
「解ったわ、でもジンも必ず無事に帰って来るのよ。私との約束破ったら許さないんだから」
「約束破る訳ないだろ、絶対戻ってくるよ。ライラだって安静にしとけよ。結構な怪我なんだから、アリも頼んだぞ……
じゃあ行ってくる。ここがまだ安全とは限らないから気を付けてな。リュードさん、よろしくお願い致します」
「私の片割れも頼んだよーーー」
「解った。ここは必ず守り通すから、前線を頼みました」
「やっと着きました……って終わってますこれ?」
「あぁ……終わったよここはな、お前にもここを頼む」
ライトが駆け付けるが、完全に終わった後……でもこれでここは安心かな。
急いで城を飛び出し、前線へと向かう。無事である事を願いながら……
今回もお読みいただきありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしてます。
次回もよろしくお願い致します。