開戦
「なんでサンドラ様が来てるの?」
驚いているのはリレイだ。そりゃそうだろう、今回の援軍のトップと務めるサンドラ様がここにいるんだから……
「簡単に言うと、愉しそうだから混ぜろって感じです」
キャメロなんて、開いた口が塞がらない。アリ・サリ姉妹は部屋の隅っこに縮こまっている。
「ジン、サンドラ様が入れば極秘作戦もおおっぴらになっちゃうじゃない」
「ライラ殿は、妾が加わるのが不服かな?」
サンドラは魔力をたぎらせ、プレッシャーをかけている。
それは汚いなぁ……それだけのプレッシャーに誰が耐えれるかってんだ。
「いえ、そんな事はないんですけど……」
「では、よろしく頼む。それで、ジンが本隊の作戦を知りたいとの事だったから説明するぞ、良いか?」
みんなが急展開過ぎてついていけてない……
「とりあえずはサンドラ様の説明を聞こうか、それからどうするか決めなきゃいけない」
みんながサンドラを囲んで話しを聞いた。
作戦の概要はこうだ。
今日の夕方より、闇に紛れて進軍。朝方までに防衛の為の壁や堀などの作成し有利な場を作り上げる。
配置はダークエルフの1番隊を真ん中に配置し、その後方に2番隊を設置。前列の左右に他のダークエルフの隊を置き、その後方に魔族で配列する。最後尾に魔法と弓の得意な隊を並べ、後方からの援護と先制を行う。
中央からの突破を狙われた場合は後列の魔族達が1番隊と2番隊を援護し、広範囲に攻められた場合は前列のダークエルフが開き、空いた場所に後列の魔族が入るという流れだそうだ。
前線の指揮は1番隊隊長のイルニードが行い、何かあった際の防衛として城に残っている3番隊と魔族の指揮を2番隊隊長のリュードが行う。
これが今回の作戦の内容だ。
「問題は城にいるリュードと、1番隊の後方に構える2番隊か……相手は中央突破を狙うかな」
「そうだろうね、1番隊を敵との挟み撃ちにして中央を潰し突破するだろうね」
ライラ俺の考えは一緒だ。信用出来ない2番隊が中央の後方にいるのが問題だ。
でもそれは好都合。中央に集まってくれるのだったら最後尾の遠距離軍に混ざって破壊力のある魔法で潰せばいい。
「しかし、そこに戦力が集中するという事は、必ず彼奴がそこに居るという事になる。これは難儀なものだ」
「彼奴って誰です?サンドラ様がそんなに問題視する人間が居るのですか?」
「昔の勇者の子孫で、今の人間達で力で頂点に立つ男だ。名はクリフ……妾の仇の子孫なのだ」
召喚され、人間に良いように使われ、異種族に迷惑を掛けて、更にその子孫がまた迷惑をかけ続ける……召喚されて迷惑かけすぎだろ
「サンドラ様でも勝つのは厳しいんですか?」
リレイが最もな質問、確かにあんなレパートリー豊富なバケモノ魔法使いに勝つ人なんて想像出来ないぞ……
「際どいな……接近さえ許さなければなんとかなるが、難しいだろうな。彼奴ら一族は勇者の力を代々引き継いでおる。妾の両親でも勝てなかった力をな」
どうやら勇者の力ってのは想像以上のものらしい……そんなのが中央にいれば止めるのだって厳しいだろう
「そう簡単にはいかない訳か……けれど、リレイと力を合わせればなんとかなりませんか?」
「努力はしてみるが、大丈夫だとは言えないだろうな」
「後は城に残るリュードをどうするかだな。隊をふたつに分けるしかないか、サンドラ様とリレイとサリとキャメロは戦場組かな。残るはライラとアリと俺が城に残る様になるけど、さっき言ってたクリフが突っ込んで来た際の対処を考えれば俺も戦場組にいた方がいいかな」
「残留組は私とアリで大丈夫だ。ライトも城に残る様だし、人手は足りる。こっちは任せて」
そうか、ライトも近くにいるなら安心か……リュードの実力が判らないと言う不安要素はあるが、回復役のアリがいればなんとかいけるかな
「じゃあライラ、そっちは頼んだ。十分に気を付けるんだぞ」
これで組み分けは決まった。後は出来るだけバレない様に行動しないと……出来ればもう少しクリフについての情報を聞いておこう、まみえる機会があるかもしれないから、少しでも優位に戦えるように
夕刻になり二手に別れ行動を開始する。戦場組はバレない様にフード付きのローブを纏い最後尾の隊に紛れ込む。
残留組はライトの元に行き待機しておく様だ。
俺らは城から戦場に向かう。町を出て2時間程の場所で歩みを止めた。暗くなり、移動に危険が伴わない様にしたようだ。
早速戦場の準備にかかる。気を切り防衛の為の壁を作り、穴を堀る。準備自体は交代で休みながら行った。
完成するまでに大体5時間程度かかった。これで準備は完成、後は前線メンバーが交代で見張るらしいので、俺らはゆっくり休んだ。
緊張感はあったが、年寄る波に負け俺は眠気に負けて夢の国へ行っていた。
朝方になり、身体を揺さぶられる。リレイが起こしてくれていた……
「おはよう、もう朝だよ。ジンは凄いね、いつ戦争が始まるか判らないのにグッスリ寝れるなんて……私なんかほとんど寝てないよ」
単純に生活習慣とオジさんの早寝です。昔、俺の親父なんて毎日9時に寝てたっけ、絶対そうはならないと思っていたが、どんどん寝る時間が早くなっているもんな……
回りを見渡すとリレイとサリ、キャメロは起きていて、もう一人の長寿者はまだおやすみだった。とりあえずサンドラ様も起こしておこう……
「いやいや、毎日の習慣で起きとけないだけだよ。神経が図太いのは認めるけどね。
サンドラ様もまだおやすみみたいだから起こしてくるよ」
「習慣で寝れるって凄いよ……じゃあサンドラ様は任せたね。私はサリのところに居るから」
サンドラのところに行き肩を揺さぶる。寝ていると可愛い幼女なのに、起きてるとあの恐さだ……見た目通りの性格だったらいかほど可愛いか……
「起こしに来てくれるのは有難いが、変な目で見るのは止めてくれないか……」
「すいません、すいません……つい可愛いなぁって見とれてたんです」
「ばっ、ばかを言うな、しかも歳上に向かって可愛いなどと……」
あ…照れてらっしゃる。いつもこうなら最高なのに……殺されかける様な事も無ければね……
「いえいえ、本心ですよ。そんな変な目で見てないって事です。
とりあえず、いつ来るか判らないからそろそろ起きて待ちましょう。
俺もリレイのとこで待ってますね」
まぁ起きてくれたし、大丈夫だろう。後はしっかり準備しとくかな。
リレイのとこで準備等をしてるとサンドラも合流し、来るまでクリフの事等を掘り下げて聞いていた。
前線が騒がしくなっている。もしかして来たのか……
サリに感覚強化をお願いして前線の置くを確認すると、人間達の姿が見える。広範囲に広がってはおらず、やっぱり中央突破を狙っているようだ。
「やっぱり、内通者がいるのは確定みたいですね。人間達は中央突破狙いです。思いっ切り2人でやっちゃって下さい」
サリから手を離し、リレイとサンドラ様と手を繋いでもらう。
2人とも敵陣を確認出来たみたいで、魔法の準備をしていく。
遠距離隊に攻撃開始の声が聞こえた。どんどん魔法と弓を打ち放っていく……
「じゃあ、思いっ切りいくね。サリ、視覚強化は続けてお願いね」
「妾も加減無しの広範囲魔法を撃ってやろう。ジン、クリフがいたら魔法を突っ切って来るから相手を頼むぞ」
リレイが大量の土砂を発生させ人間達を埋めていき、サンドラはそれよりも広範囲に水を撒き雷を落とし感電させていく。
いやぁ、俺とキャメロは魔法攻撃なんかする必要はなさそうだな……と言うよりこれだけで終わりそうだ。
人間達は前線に到達する事なく、どんどん倒されていく。後は、サンドラ様が言っていたクリフが居ればそれの相手をすればいいか……
戦場はあっという間に人間達が殺されて収束していく。おかしい……クリフとやらはどこだ?サンドラ様が警戒する程の相手がやられてはいないとは思うが、突っ切って来るやつがいない……
『なぁジン、俺らの後方で移動するやつがいるぞ。しかも、相当な力量の持ち主か、圧力がハンパない』
まさか……俺らが裏をかかれた?ブラッドのいう事がホントなら城がヤバい
「サンドラ様、俺らの後方を移動するやつがいます。もしかしたらそれがクリフかもしれません。俺は急いでそっちに向かいます。ここは任せます」
「ひとりで向かう気か?死んでしまうぞ。妾も行こう」
「いえ、サンドラ様達はここをお願いします。前線が攻撃されれば絶対穴が空き中央突破されます。それだけは防いで下さい」
「しかしだな……」
「どうせ俺はクリフとやらと戦うつもりでしたから、大丈夫です。何も策が無いわけでもないので」
「解ったが無茶はするなよ。時間を稼げば妾も駆け付ける」
「その時はお願いします。期待してますよ。では、行ってきます。リレイもサリも頼むな」
「あの……僕はどうしましょう?」
何かの時にキャメロは役に立ってくれるかもしれない……一緒に連れて行くか
「キャメロは一緒に来てくれ、何かあった時の為に手伝って欲しい」
「わ、解りましたけど、クリフなんてバケモノとは戦いませんよ!!」
「大丈夫だ。ソイツの相手は俺がやるから問題ない。それ以外の事を頼むさ、じゃあ行ってきます」
3人が頷くのを確認すると、脚力強化して急いで向かう。
頼む、間に合ってくれよ……
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