シロかクロか
「じゃあ、すまないけど魔法を見せてもらえるかな?」
「かしこまりました……ではいきます」
レインがそう言うと、肩の近くから白い光が出てきてぼんやりと形を成していく……
暫くするとそれは小さな女の子へとなっていった。
「この子が……私の精霊の……シュリです。では、魔法を使うので……ジンさん……良いですか?」
「ああ、良いぞ」
俺の精霊はまだ使う機会がなく、まだまだぼんやりとした光のまんまだったけど、こんな感じになるのか……
光の精霊のシュリから、白い水が入った皿が出てくる。
「少し質問しますね……嘘をつくと……この白の中に……黒が混ざってきます。では……わかり易く「はい」と答えて……下さい。あなたは……女性ですか?」
「はい」と答えると、白い水の中に真っ黒な水が混ざって来る。暫くすると皿の中は真っ黒に染まってしまった。
「こういう……感じです。」
これはわかり易くて良いな。でも、問題がひとつ……レインを牢から出す事だ……城内を人間が歩いているだけで、今は大問題になるだろう。
それにここから出す事が可能なのか?
「魔法は有用だと解ったがライト、彼女をここから出す事は可能なのか?」
「そうですね、出来なくもないですけど、見付かった場合は対処出来ませんね……」
「だったら手錠をかけて、尋問の為に移動中ですと答えればいいんじゃない?」
「それで可能なら良いが、レインは手錠かけての移動は大丈夫か?
罪人じゃないのに手錠をかけて移動になるんだ。もし、嫌だったら言ってくれ」
「私は……大丈夫です……お力になれれば……構いません」
「ありがとうな。じゃあそれで出発しよう……って言うかリュードはどこに居るのか聞いてなかった……案内頼む」
ライトが看守室から鍵と手錠を預かって来て、レインに手錠をかける。
その後、ライラの案内でリュードが居るであろう2番隊の隊長室へと急いだ。
「ここがそうですね。じゃあ、いらしゃるか確認しますね」
ライトがドアをノックすると、男性の低い声が聞こえた。入室自体は許可してもらったが、さてどうなるかな……
「入室許可ありがとうございます。リュード殿でいらっしゃいますね?」
「ああ、そうだ。しかし、何故ジン殿がここに居るのだ?今の時間であれば、夜襲の時間の予定ではなかったのか?」
精霊の嘘発見魔法は既に発動済み、さて俺は探りを入れますか……
「そうですね。でも、後衛の班全てが殺されてしまっていては夜襲を1人で行う事になってしまい、危険度が高かった為帰城しました」
「殺された?人間にか?」
「そうです。なので、こちらがいつ奇襲に会うかも判らなかった為に、仲間の生存を最優先し帰城したところです」
「そうか……奇襲は失敗か……」
「ですが、足留めには成功しました。早くても明日の夜まではこちらには到達しません」
「それだけでも成果はあったという事か……」
「はい、ですから早ければ魔族の援軍到着までの時間は稼げたかもしれません」
この人の言葉数は確かに少ないな……けど、何か引き出さないと
「ところで後続の班が逆に奇襲にあった件で、疑問があるのです。
何故俺達の班を避けて、最後尾の班に対して奇襲をかける事が出来たのかという事です」
「誰かが情報を漏らしたという事か?」
「そうです。少なくとも俺はそう思っています。なので、今朝の会議に出ていた人に確認をとっています。誰か怪しい人はいるのかと」
「それで誰か検討はついたのか?」
「いえ……今のところ手掛かりはありません。しかし、疑うべき人物にあなたも入っています。知ってる事があれば教えて下さい」
「そうだな、奇襲を指示した俺が疑われるのは当然か……」
リュードにもっと聞き出さなければ……このままじゃあ何の結果も出せずに終わるぞ
「リュードさん、何か知っている事はありませんか?」
「特に無いな……ただし、俺は最善策と思い奇襲を提案しただけだ。
それに間違いはない」
「そうですか……解りました。では、他にも当たってみます。では、失礼しました」
「頑張ってくれ、何かあれば報告しよう」
リュードの部屋を後にし、レインに確認しても結果は白……当然だろう、問い詰め様にも返ってくる言葉が少なく会話が続かない。
かといって「あなたが裏切り者ですか」なんて聞けなかったし……だけど、俺が部屋に入ってから焦った様子は無かった。ただ動じなかっただけなのか?
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結局何の成果もないまま牢に戻って来た。レインの手錠を外し、もう一度牢に戻ってもらった。
ケインに説明し、解決策のない事を伝えた……
「そうですか、レインの魔法でもシロだったと……それにジンさんも怪しい感じはなかったという事ですか。
でも、近々進展はあるのではないですか?」
「リュードがクロなら何かしらの行動に出るって事か……とりあえず待つしかないか」
部屋に帰って休もう……恐ろしく眠い、オジさんはいつも夢の国にいる時間はとっくに過ぎているし、このまま起きてても頭が回らない……
「ちょっと眠くて限界が近いから少し休んで来る。朝になったら起こしてくれないか?」
「解りました。じゃあまた朝にお迎えに行きますね」
「ジン、送って行くよ。もしかしてリュードが動き出してるかもしれないし、そのまま部屋に向かったらリレイ様達が襲われる危険もある。今夜は私の部屋で休息をとった方が良いんじゃない?」
「確かに危険はあるが、部屋の連中の無事を確かめたい……じゃあ、代わりにライラが確認して来てくれるか?場所を教えてくれればライラの部屋に行っているから」
「解ったわ、じゃあ確認しに行って来るね。私の部屋は……」
「頼んだ。ケイン、ライト、すまないが少し休ませてもらうぞ」
2人と別れの挨拶を交わした後、ライラの部屋に向かう。ライトの部屋から近かったから、迷子にはならないだろう……
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ライラの部屋の近くまで来た時だった。誰かが居る様な気配を感じる……目を凝らして先の暗闇を覗くと、そこには真っ黒い上下の服を纏った3人の人が居る。
「俺は眠いんだ。そこを退いてくれないか?」
「眠いのであれば、ずっと起きない様にしてあげよう」
ライラの心配通り、既に動いていたか……けど、3人でこの狭い通路ならすぐに終わらせられるぞ
「やる気みたいだから、さっさとやろうか」
言葉を発した瞬間に、脚力を強化し一直線に向かい、1人のボディに勢いよく膝蹴りを喰らわせる。
動きに付いて来れなかったのか、残る2人は戸惑っていた。その隙に近付き側頭部へ右脚でハイキックを、残る1人にはハイキックの流れで回転し、左脚で回し蹴りを顔面に喰らわせた。
襲ってきた割には大した実力は無かったな……とりあえず部屋に引きずって行って、ライラに顔を確認してもらおう。
でも、1人の顔の確認は無理かな……多分鼻から陥没してる気がする。
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「お待たせ、戻ったよ……って何かしら寝っ転がっている3人は?」
「さっき襲われたから、とりあえず意識を刈り取ってやったのさ……こんな深夜にご苦労な事で、それでコイツらの顔の確認をしてくれないか?ライラなら素性は判るかと思ってここまで引きずって来た」
「可哀想にたった3人でジンを襲うからこんな目に合うのよ。じゃあ顔に巻いてる布を外して、確認するわ(せっかくジンとゆっくり2人で過ごせる時間だったのに……)」
「ああ、頼む」
ライラが小さな声で何か言った気がするが、解らなかった振りをしておこう。
顔のフードを外し、顔を確認させるとライラは知った顔だったみたいだった。
「この人達は2番隊に在籍している者で間違いないわ。やっぱりリュードが裏切っている可能性が高くなったわね」
だけど、何かおかしい……リュードなら、俺の実力はイルニードとの一戦で知っているはずだ。
なのにたったの3人の大した実力のない者に奇襲させたのか?何かがおかしい気がする。
「ライラありがとう。それと俺の部屋の4人はどうだった?無事だったか?」
「今のところは問題無かったよ。それに何かあると危険だから部屋に許可なく侵入した者の五感を無くすように、闇魔法を仕掛けておきましたから」
「そうか、無事なら良かったよ。これでようやく休めるよ」
他の面子も無事だったか、それに罠まで仕掛けてくれるてるなら安心だ。とりあえず意識を夢の国へと向かわせた。
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