違和感
暗くなる前に撤退を始めた俺らは夜の内に帰り着く事が出来た。心配していた襲撃は無く無事に帰って来れた。
帰って来る途中になぜ俺らが最初に襲撃を受けず、後から来るはずだった班が先に襲われたのか気になっていた……
奴らは遊撃隊と言っていたが、敵情視察をするなら確実に俺らが先に見つかる筈だ。だけど、後ろの班が襲われた。何故だ?どうして後ろの班が先に……遅い時間だが、ライトのところに行って確認した方がいいか
ライトの部屋に行き尋ねようと戸をノックすると、何故か女性の声で返事が帰って来る。
戸を開け中に入ると、ライトとライラがそこに居た。
「あれ?ジンどうして?」
「いや、ちょっと奇襲を行っている時に異常が起こって退却して来たんだ。その事でライトに相談しに来たんだが、ライラまで居るとは思わなかったよ」
「姉さんからはちょっと相談を受けて欲しいと言われまして……とりあえず何があったか聞いても良いですか?」
「私も一緒に聞いても良いの?」
「人数は多い方がいいかもしれない、それにお前らは信用出来る少ない人物だから問題ない」
俺らが今日あった出来事を話すと、ライトは少し下を向いて考えている様子だった。
「ライト、何か引っかかる事があるか?」
「そうですね、ケインさんが言っていた事を思い出していました」
「ケインが言っていた事?」
「はい、ダークエルフや魔族で人間達に繋がっている者がいないかと言っていた事です」
「今回の奇襲がバレていたと言う事か?」
「可能性は拭えません。それに奇襲を始めて襲撃があった時間を考えれば尚更かもしれませんし」
「奇襲をかけている者達ではなく、その後から来る者を狙えって事か?」
「そうですね。正確な情報まで伝わっていたんじゃないでしょうか?後方から来る者達を先に襲撃すれば戦闘に気付かれずに次を襲えるし、最終的に挟み撃ちにして始末出来ると……この事を考えると奇襲を行う人数と班が解っていたと推測されます」
「なるほどな……完全に筒抜けだったという事か。ライラ、この作戦を知っていたのはどれくらいいる?」
「そうね……多分王や隊長格と副隊長格の人は知っていたんじゃないかしら」
上層部の人物だけが知っていた情報か……そうなると疑う人物が捜査しにくいな。
「ライラありがとうな、でもこれじゃあ推測だけでは行動し難くなったな……ちょっとケインに話しを聞いてみないか?何故裏切りの事をアイツが切り出したのかも気になるし」
「そうですね。夜分に迷惑でしょうが確認しないといけないでしょうね」
「ライト同行を頼む、ところでライラの相談事はもう良かったのか?」
「あ、ああそれね大丈夫だよ。もう済んだから。私も付いて行っても良いかな?ちょっと気になるし」
「済んでたのなら良かった。でも同行するとなると、巻き込まれてしまうぞ」
「ジンの手伝いが少しでも出来ればいいの、だからお願い」
「ライラありがとう。じゃあ3人で行こう」
「ところで残りの人達はどこに居るの?」
「こんな状況だから、俺の部屋で隠れてもらっているんだ。まだ、公に帰って来た事を知られたくないから。だから、今から先の行動も目立たない様にしておきたいんだ」
そう言うとライラは納得してくれた。ライトの考えで、フードのある服を貸してもらい、牢へと急いだ。
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「ケインさん、起きてもらえますか?」
「はい……何でしょうか?……あぁ、ライトさんですか?どうなさいました?」
「夜分にすいません。ただ急ぎで確認したい事がありまして」
「本当にすまないが、確かめたい事がある。寝起きで悪いが教えてくれ、どうして裏切りがあるかどうか聞いてきたのかを」
「ジンさんだったのですか、フードでお顔が確認出来ずにすいません……急に裏切りの理由なんてどうしたんです?」
ケインにライトから先程の説明をしてもらうと、ケインは何かを理解している様だった。
「そうですか……ならば私が持っている情報も間違いではなかったみたいですね……詳しくお話ししましょう」
「すまないが頼む」
「いえ、気にしないで下さい。これはこの戦争の発端に関わる話ですから……」
ケインは長くなりますがと付け加え、説明を始めた。
「私がこの社会に違和感を持っていたのはお話ししましたよね?その事で昔調べていた事がありまして……それはエルフ達の事でした。
私の友人にハーフエルフがいまして、疑問に思っていた事を聞く事が出来ました。それは人間がエルフに対して戦争を起こした時の事です。
戦争が起きたのに、ハーフエルフとそのハーフエルフの子を持つ親のみが生き残っているのです。
なぜでしょう?導き出される答えはエルフの誰かが繋がっていて、その者達を生存させる為に土地と仲間を人間達に売ったのではとしか思えませんでした。
それで、その時のギルドへの戦争の求人内容を確認しました。資料はほぼ無くなっていましたが、なんとか見つける事が出来たんです。その内容が「ハーフエルフの報告によりエルフ達の反乱の疑いあり、人類の敵であるエルフ達を殲滅せよ」という内容でした。
本当に反乱なんかあったのでしょうか?私は違うと思います。ここからは私の推測ですが……
元々昔はハーフエルフにすら人権は無かったのですが、今は人権を持つ事が出来ています。それに純血のエルフ達からもハーフエルフは忌み嫌われていました。それと、昔のエルフの土地は今、人間とハーフエルフが統括する様になっています。
つまりはハーフエルフに人間達が人権と土地を与えると言う理由で裏切れと言ったのではないかと思います。
現に戦争自体終わったのはたったの3日だったのですから……ハーフエルフが情報を売り滅亡に追いやったのではないでしょうか?」
ケインは一気に話しきった……今まで誰にも明かせず、独りで調べて回っていたが、ようやく話せる相手がいて胸中をさらけ出すかの様だった。
「じゃあ、それと同んなじ事が今回も起きておるのではと思っている訳か……その話しが本当だったとして、奇襲に向かう面子を強者や補助役等の厄介者を選び、そこで始末してしまう算段だったと」
「それで間違いないでしょう。人間達に唆されてしまい、戦争で人間側に加担する者がいるという事が濃厚になりましたね」
「だけど現状は上層部が怪しいと言う事でも、私達では解明するには厳しいかもしれません。それに会議に参加していた人選には3番隊は入れませんでしたから、私はその場にいなかったですし」
確かにライトの言う通りだ。味方と言えるのはライトとライラ、それに奇襲組のメンバーだけだ。
上層部を探れる人間と言えば、ライラとリレイだろう。しかし時間も少ない……明日の遅くか、明後日には攻め込んで来てしまう。猶予はあって1日だ。
何か……何か手掛かりは無いのか?
「ライラ、今回の奇襲を考えたのは誰だ?」
「確か、2番隊隊長のリュードじゃなかったかな?」
「始めて聞く名前だが、会議していた時に居たんだよな、どんな感じの人か教えてくれないか?」
「そうね…見た目は割と普通で、ジンと年齢が近いわ。イルニードよりも年上で隊の最年長よ」
イルニードより年上って言えば……確かに居たな。髭の似合う強面の男性が、あれで普通って言われると俺の立場がない……
「ちょっと顔の怖くて、髭の生えた人?」
「それで合ってるわ。奇襲の話しを持ち出したのは彼で間違いないよ」
「ライラさんでしたよね?その人が怪しいと思えた瞬間はありましたか?」
「全くないって言う自信はないけど、彼についての噂はあるわよ。イルニードを邪魔に思ってるとか、国を統率するのは自分だとか黒い噂ばかり耳にするわ」
「ケインが言っていた、裏切った場合の利点ってやつがある訳か……リュードはそんなに野心家なのか?」
「あくまで噂の範疇ですけど、私達隊長格が集まって話しをする時は寡黙な方で、全くそういった印象はありませんでしたよ」
ライラの言う噂と、ライトが言う印象か……どちらかが正しいとして、疑わしいのは彼と言う訳か……リュードと危険を覚悟で話して見るか?俺の姿を見せて反応を見るか?
どちらにしろ、行動出来るのはこれだけだから、可能性を潰して行くか……
「ライラ、今リュードはどこに居るか解るか?」
「会って来るの?危険過ぎない?」
「でも、時間の無い中、行動出来る事はしておこうと思うんだ。
それに、会った時の反応で少しは判断出来るかもしれない」
そう言うとケインが俺に声を掛ける。何か良い案があるのか?
「それだったらレイン連れて行くと良いですよ。彼女は光の精霊と契約した数少ない魔法使いです。
彼女の精霊は嘘をついているかどうかを見分けるのを得意としますから」
「そんな都合の良い魔法でもあるのか?」
「ジンさんは以前に私と一緒に、謁見の間に行った時にその魔法を使われてますよ」
そんな事なんて……あったな確かに、ライトと一緒に謁見の間に行き、国王から質問をされていた時に真偽を問われる内容を聞かれていたっけな……嘘発見機がその魔法という事か
「それってどんな魔法何だ?かけられたのかもしれないが実状が解らないもんで」
「実際にレインのとこへ行って見て来てはどうです?」
そうケインに言われると、レインの牢へ向かう。実際は3つ隣なだけなんだがな……会話をして脱出を図れないようにワザと離しているとの事だった。
「レイン、話しは聞こえていたかな?」
「はい……兄様が……私の精霊を見て来ると、と言ったのは……」
なんだろう、兄妹とは思えない程の物静かさだ……あんなに喋りまくる兄に対してこの妹……逆か、あの兄の喋りを見ていてあんなにならない様にこうなったのか……
3つ隣の牢から「悪口を思っていませんか?」と言われたけど黙っていた。
勘ぐりのいいヤツめ……
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