すべてはアイツの所為で
当日はこれ以上力を使うのはどうなるか解らない為、徒歩での移動をする事にした。少しづつでも近付いていないと、不安になっていたからだ。
さっきの事で理解したが、現状どんな事が起こるか解らない……もう既に人間達が襲撃して来ているかもと思うとなおの事だった。
『ところでブラッド、融合を使うには後どのくらい時間を開けたがいいのか教えてくれ』
『そうだなぁ、夕方には大丈夫なんじゃね?とりあえず今は絶対無理だ』
移動はこのままか……直近では力を使って移動してたから、徒歩が遅く感じる…進んではいるが、遅く感じてしまう。
そう言えばさっきから気になってたんだけど、ライラとの距離が妙に近くないか?もしかして、さっきの件で身体を気遣ってくれてるんだろうか?
「ライラ、とりあえず歩く分には問題ないから、そんなに心配してくれなくてもいいぞ」
「えっ、そう…なんだけど、気になってさ。でも、心配はするわよ。私を守ってくれたせいで一時は大怪我してたんだから」
『ははっ…いいじゃねえか、この際だから楽しんでおけよ』
『何言ってんだお前は、そんなことじゃないだろ。そもそも気遣ってくれてるだけなんだぞ』
『そうとは限らんぞぉ、俺とお前さんは共存したよな、それによってお前さんから出る雰囲気も変わったんだよ』
『何の事だ?雰囲気が変わるからって何も変わらんだろ?』
『それがそうとは言えねぇんだよ。俺はな一応、元々天に仕えてた身分の者で、普通の人間とは違い神気が高いんだ。それをお前さんと融合している間、同じ物を発している……つまりは、超絶ピンチの時にカッコイイヒーローが助けてくれたんだぞ』
『だからなんだ?俺が崇められるって事になるのか?意味が解らん』
『野暮ったい野郎だな、つまりは助けてくれたお前さんが、ライラからはキラキラ輝いて見えてたんだよ。「なんてステキな」って感じでな、だから憧れか、惚れたかどっちかってことだ』
おい……そりゃなんだ。そんな馬鹿な事がある訳…
「そんなにジロジロ見ないでよ……」
何かいい雰囲気じゃありません!?役得か、役得なのか?
『なっ、言った通りだろ?良かったな、これからこの世界で女には困らずに済むな』
『お前なぁ、一応妻帯者だぞ。堂々とそんな事出来るか!』
『それは向こうの世界でだろ?ここでは完全な独り身……パラダイスだよ』
悪魔の声が聞こえる……こいつさっき、元天に仕えてたって身って言っときながら、発想は悪魔だ……
お陰で警戒しながら進む道ですら意識してしまい、注意力散漫で歩き続けた……
ようやく夕方になり融合を使えるか確認すると、ブラッドからのOKをもらえたので、遅れを少しでも取り戻す様に飛んで行く事をライラに提案する。
「ライラ、今日は徒歩での移動になったからだいぶペースが落ちてしまったと思うから、飛んで移動しようと思うんだが良いかな?
空を行くのは初めてになるから怖いかもしれないけど、しっかり掴まっててくれればいいから」
そう言うとライラは頷いてくれたので、ブラッドを呼び出し《融合》を行う
『ははっ…楽しめとは言ったがそんな方法をとるとは考えてなかったぞ、やるなぁ変態野郎』
何を言ってんだ?ただ、ライラに背中に乗って……って無理だ。飛ぶんだから、背中には翼があるじゃないか……って事は前で掴まるって、俗に言うお姫様抱っこってやつになるのか!?なんて大胆な事になったんだよ……
「じゃあ、しっかり掴まってるからお願いね」
ライラ…そんな艶っぽい顔して言うなよ。しかも、掴まるってなると……首になるよな、もうエモーションだよ。オジさんロマンスだよ。
『頑張れよ。計算野郎』
『頑張れってなんだ!ただ抱っこして運ぶだけだぞ、変な気持ちは無い。計算野郎とか変態野郎とか言うな』
『心配すんな、俺は温かく2人を見守ってるから』
ブラッドの野郎……考え方を元に戻せ、今日の遅れ分を取り戻す為だ。やましいこと事などどこにもないんだ。
「じゃあ行くからこっちへ来てくれ」
顔を背けながらライラが歩いて来る。
手の届く距離で止まってくれたので抱え上げる。
ライラはそっと首に手を回してくる。
「空を飛ぶのは初めてなので、しっかり掴まってるね」
顔が近い……こんなん恥ずかし過ぎる。自分から提案したんだが、こんな結果になるとは思ってもいなかったぞ。
ライラは実年齢は解らないが、見た目は20代に見える。それに容姿は鎧など無粋に思えるほど綺麗だ。そんな娘が俺の腕の中にいる……嫁に見付かれば離婚もんだよ。
このまま抱き抱えていても時間が経つだけだ。気が狂う前に移動しよ……
翼をはためかせ宙に浮き上がる。そんなに高く飛んでも暗くなって、道が解らなくなるから低空飛行して行く事にする。
『夕焼けを背に、美人と空のデートとはロマンチックだな、女性を落とすには最高の状況だぞお前さん』
『頼むから、今は何も言うな。これから数日間の道中に警戒する相手が変わってしまうぞ』
『ははっ…解ったよ。後はお好きに、俺は応援してるからな』
こいつは絶対黙っててくれないだろうな、こっちが力を借りてる分あっちは言いたい放題だろうからな…
「しかし、この世界は自然豊かで綺麗だな…」
「ジンがいた世界はこことそんなに違うの?」
「そうだなぁ、都会じゃないけどこんなに静かな場所じゃないさ。朝から夜まで色んな人工的な音がなっているし、人工的な建物だらけで遠くまで行かないと自然を満喫出来る所なんてなかったよ」
「そうなんだ、でも少し羨ましいかな……私達はあの森の中で産まれて、ずっとあの森で暮らしているから、違う世界が見る機会がないの……森の外は危険な場所だから」
そうだ……この世界の人間のせいでダークエルフ達は森から出られない、出れてもこの魔族領までだろう、だけどそこまで行くにも魔獣と出会ってしまう……だから、大概のダークエルフはあの森の中で一生を終える事になる。だけど人間はそれでは飽き足らず、彼女達の領土さえも奪いにやって来てる。
この事が本当に正しければ人間は悪でしかない……
「ライラ、俺は世界を正すとまで約束は出来ないかもしれないけど、きっと外の世界に安全に行く事が出来る様に努力する」
「ジン……ありがとう、私の力じゃまだ貴方の側で戦う事が出来ないけど、きっと一緒に戦う為の力を身に付けて貴方の側にいます。貴方だけに苦労はさせない」
「その時はよろしくな、俺1人じゃ難しいからな
ライラが居てくれれば心強いよ」
『聞いてて小っ恥ずかしいんだが……てか、落とす気満々じゃねぇか』
コイツも聞いてるんだった……生きる為に共存者になったが、この上なく大迷惑だよ
『うるさい、そんなつもりで話してる訳じゃない。
ところでもうそろそろ時間か?』
『そうだな、そろそろ降りた方が良いだろう』
ライラにも時間切れを告げ下に降りる。
随分と暗くなって来たので、降りて間もなく野営の準備をする。準備自体はこの前と一緒で土魔法で部屋を造っていった。
部屋自体も完成し、夕食をライラが作ってくれた。
「ところでジンは成す事が終わったら、やっぱり帰るの?」
「そうだな、帰る理由があるからな。そうしなければいけないしな」
父親として、夫として家族を養う義務がある。それは簡単にそれを放っておいていい訳じゃない。
それだけじゃない、自分が愛した妻がいる。そしてその女性が必死に産んでくれた子供がいる。
俺自身は良い旦那じゃなかったし、良い父親でもなかっただろうけど、妻は毎日を支えてくれた。子供達は俺を親にしてくれて、頑張る理由を毎日与えてくれた。そんな家族をないがしろにして良いと思うほど俺は人でなしになりたくないし、ならない。妻に返したい事や、子供達に教えてあげたい事はたくさんある。
だからこそ俺は帰る為に頑張らなきゃいけない……いや、帰らなきゃいけないんだ。家族に対する薄っぺらい愛かもしれないけど、俺の気持ちなんだ。
「そう……よね、だから危険を侵してもここに来たんだものね」
『あ〜あ……悲しませたぞ、ここは抱擁のひとつでもしてやりな』
『馬鹿言うな……そんな事したら期待させるだけだろう、俺は絶対元の世界に帰るんだ。正直に言わなきゃいけないだろ』
『彼女の頑張る力になってやるくらいは良いんじゃないか?こんな現状だ、少しは前を向く為の力になってやりな』
いきなりまともな事言いやがった……確かに今の彼女の世界は暗いだろう。俺が力になるか、彼女が前を向く理由になる…か
「ライラ、俺は帰ってしまうけど、ここにいる間はずっと一緒だろ?それに一緒に戦ってくれるんだろ?力を貸してくれなきゃ俺は一人じゃ何も出来ないんだから、俺は君が一緒にいて欲しいんだけど」
「さっき言ったばっかりなのにいけないな。そうだよ、ジンと一緒に頑張るんだ。一緒に戦うんだ」
ライラに笑顔が戻ってくれた……本心は解らないけど、今は笑ってくれた。
てかこれは昼ドラか、ドロドロすんのは嫌だぞ……
「ありがとうなライラ、色々と迷惑かけるかもしれないけど、これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそだよ。よろしくお願い致します」
夕食も終わり、今日の大変だった1日のせいで2人共自然と眠りについた。
こんな状況に陥ったのは絶対ブラッドのせいだと思いながら……
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次回もよろしくお願い致します。