救助
象王を前に、堂々とした態度で浮かぶサンドラと、そのサンドラの態度と象王の大きさに驚くリレイ……
「勝てるのでしょうか?」
「ん?妾だけでは無理ではないかの……じゃが、城からも救援に来ておるから、全員でかかればどうにかなるんじゃないかと思うがの」
2人が話してる間に、付いた膝を地から起こし象王は向きを変えようとしている。
攻撃を受けたが、ダメージとしてはまだまだ象王に危機感を抱かせる程の状態ではない。
しかし、これまでの様な余裕はみせてくれないだろう。
一方、自分の魔法で視覚と聴覚を奪われていたキャメロの元にタニアが到着していた。
「キャメロさん、大丈夫ですか?」
声を掛けられるものの、未だに聴覚は回復しておらず聞こえていなかったが、使えなくなった感覚を補うかのように魔力探知を行っていた為、誰かの接近には気付いていた。
「タニア……だよね?」
メロが確認の為に声を出す。
彼は感覚の回復の為に、自身に回復魔法をかけ続けていた。そのお陰で、犠牲になった他の3人よりもいち早く感覚を取り戻していた。
「メロ、急いでこの場から離れましょう。
サンドラ様が攻撃を始めるわ、それに巻き込まれる前に動くわよ」
「僕はなんとか見える様になったけど、他のみんなは……」
「早く彼らに回復を、このままだと……」
2人が話していると、異常な程に外気温が下がっているのを感じる。
サンドラは象王を中心に周囲から熱を奪い、氷漬けにしようとしているのだ。
「待っていたら間に合わないわね。
3人は私が運ぶから、メロ達は自分で逃げなさい」
そう言うと、キャメロに近寄り一気に肩に担ぎ、同じ容量で更にアガートとシュートを担ぎあげる。
キャメロは探知のお陰で、何が起きているのかを少しは理解出来たが、残る2人は訳も判からず身体を持ち上げられ驚いている。
だが、誰かが助けてくれているのだと思い、理解出来てすぐ邪魔にならぬ様に静かに身体を動かさない様にしていた。
「タニア……大丈夫かい?」
「これくらい問題ないわ。
話してる時間すらなさそうよ……急いで!」
3人を担いだタニアが走り出す。それを追って3人も走り出した。
走り出して間もなく、メロの身体に触れる風で皮膚が痛む。今まで感じた事の無い現象に見舞われている。
この範囲の気温を1人の魔法で行われている事に、改めてサンドラの凄さを感じ、加えて恐怖も抱いた。
「ようやく離れた様ね……全く、緩りとしておるな。
これでやっと攻撃出来るな……」
避難しているのを確認し、サンドラは更に魔力を込めて、象王を中心に気温を下げていく。
象王は気温の低下している事に気付いていたいないのか、ゆっくりとサンドラの方に身体を向けようとしている。
皮膚も分厚く、サンドラの魔法で下げた気温くらいでは感じないのだろう。
それに対しては、何も危惧する様子は感じられない。
リレイはというと、必要以上の範囲に被害が出ないように魔力で抑えていたが、限界まで魔力を放出し続けている。
「身も大きければおそいのぉ……妾の魔法は軽くないぞ」
「もう少し…範囲を抑…えて頂くと……助かりますけど……」
リレイの悲痛な叫びは全く耳にはいらず、周囲の温度はまだまだ低下し、範囲内の生命は息吹を奪われていく。
「喰らうがよい……妾の力をーーーー!」
本気を出せる相手に恍惚な表情を浮かべるサンドラ……魔法の準備は完成し、象王の四肢を凍らせ、その中央に巨大な氷塊が出現する。
そこから広範囲に氷が拡散していく……
サンドラは秘める魔力を惜しげもなく氷に注いでいる。
そして、その氷が回りながら中央に集まり、天を穿つかの様な巨大な槍が完成した。
そして氷は更に速く回転、勢いを増し尖端を押し上げて腹部を貫こうと高く積み上げられる。
象王もこの状況になり、ようやく暴れ始めるが既に遅い……もう尖端は象王に痛みを与えているのだから。
「伝説の魔獣もただ大きいだけではのぉ……所詮は巨大な的よ!」
皆の力があればと言っていたサンドラだが、腹部に刺さり回転する氷は背中まで容易に貫通させ、1人の魔法で命を奪うかと思われた……が、次の瞬間に見ていた全員が目を疑った。
巨大な紅い円が現れ、一瞬にして象王を囲んだかと思うと、視界から山ほどある象王が姿を消したのだ……
「な……」
「さっきの円はサンドラ様なのです…か?」
「妾ではない……」
起こった現状を2人は焦りを感じずにいられなかった。
だか、口に出す程の確信がなく、ただ見た事を繰り返し脳内で再生させていた。
「サンドラ様、終わられたのですね?」
避難していたタニアが近づき、上空に浮く彼女に声を掛けてきた。
「そう……だな、この場の危機は去ったぞ」
「では、城に戻りましょうか。
準備していた兵が出て来る前に」
「そうするとしようか……リレイ、この事は後で話そうぞ」
「あ…はい。解りました」
救出出来た者を連れて城へと戻る……2人はまだ結論を口に出せずにいた。
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