象王
「四大魔獣?象王?
メロ君、冗談だよね?」
「僕も冗談であって欲しいけど、あの巨大な魔獣をどう説明するの?」
「それは……」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!
全力で馬を走らせるから、しっかり掴まっとけよ!」
アガートさんは声を震わせながらも僕らに注意する。
その声でお陰で我に返り、馬車の荷台のフチを精一杯握る……
「ちょっと待って!
逃げるって城に向かうつもりなの?
そんな事したら城や町の人達に危険が及ぶわよ!」
「じゃあ、どうすれば良いって言うんだよ!
あんなデカいやつを振り切るなんて事出来んのか?」
全力で城に馬車を走らせるアガートさんは、焦りを露わにしながらリターナさんを怒鳴りつける。
「二手に別れましょう……片方は象王を引き付けて、もう片方は救援を呼びに行くって言うのは?」
追われる方は生きた心地のしない二択。
でも、それは確実なものではない……
「リターナさん待って、これだけの巨体が姿を現したんだよ。
城でも異変に気付いてる筈だと思う。
それに二手に別れるっていう作戦で、もしも城に向かう方が追われたらおしまいでしょ?
きゅ…救援が来てくれるまで、みんなで時間を稼ごうよ」
「時間を稼ぐと言っても、あんなデカいやつ相手にどうしようって言うんだ?」
トールが消え入りそうな声で尋ねるが、僕は作戦なんか考える程の余裕は全く無かった。
だけど、このまま大勢の命を危険に晒す訳にはいかないんだ。
「わかんない……けど、逃げ続けてもいずれ追い付かれるのは目に見えてる……それなら、全力で抵抗しよう」
「キャメロ君……確かに逃げきれないよね
僕もやれるだけやってみる」
「メロ君……」
「自分も戦う……」
「シュート……」
アガートもリターナさんも頷いている。
みんなの覚悟は決まっていた……
「みんなでやろう……どうにかなるかもしれないしね」
アガートさんが馬車を止め、一斉に馬車から飛び降りる。
あんな巨体に魔法が通じるか判らないけど、手の平に魔力を込めて魔法を発動……風を増幅させ、特大の衝撃波を放つ。
続いてメロ君も水を媒介に、特大の水弾を放つ……
相手は魔法を外す事は有り得ない巨体なだけに、放った魔法は勢い良く象王の体に当たる。
ふたつの魔法は当たったのだが、象王の巨体はビクともせずに鬱陶しそうな表情をして睨みつけられた。
魔法が駄目ならと、シュートは一気に距離を詰めて飛び上がる。
それが視界に入ったのか象王は鼻を大きく振りかぶり、シュート向けて鼻を振る。
当たればただでは済まない威力の攻撃……それに対しいち早く動いたのはトールだ……魔力操作を使い、近くにあった岩を持ち上げる。
馬車程の岩で、持ち上げる事は有り得ない大きさだ。
それを一瞬にして象王の鼻を目掛けて放った……シュートに当たる前に鼻に大岩が直撃、大岩は簡単に砕け散ってしまうが、攻撃の方向を変える事が出来た。
迫った危険からなんとか逃れられたシュートは目線を戻し、再び象王に斬りかかる。
シュートの身体中から炎が吹き上がり剣まで炎が纏われる。
「ハァアァーー」
そして象王の額に全力の剣を叩きつけるが……
「嘘だろ……」
結果は軽く表皮が切れただけ……シュートは額を蹴り、象王から距離を置く。
「冗談キツイな……全力で斬ったのによ」
勇者一行の仲間であったシュート、中で誇れていたのは攻撃力……今日まで仲間の為にと、どんな硬い敵だろうと斬り裂いてきた。
だけど、今回は……全力の攻撃で斬り裂くどころか微々たる傷ひとつだ。
纏った炎を噴射し、キャメロ達の元へとシュートも戻って来る……3人とも加減などは全くせずに放った攻撃が、有効打にすらなっていない……活路が見いだせないのだ。
「どうしようか、これ……」
「どうしよう……」
メロもキャメロも、戻ったシュートも絶望の色を隠せない。
他の3人も同様だ……あれだけの攻撃で何ともならないなんて想像も出来なかった。
「わぁ……大っきいッスねぇ……実際に象王を見たのは初めてッス」
バッグの中から顔を出したタッタ達が、象王を見上げて声を出していた。
「危ないよ!隠れてて」
「でも、どうして象王が襲ってくるッスか?」
「そんな事知らないよ。
急に現れて、襲われてるんだから」
「言い伝えだと、四大魔獣の中でも人を襲う事なんてしないはずッスよ?」
「でも実際に……」
タッタと話してる最中に、象王の鼻が上空高くに振り上げられる。
「キャメロ君、逃げるよ!
あんなのに当たったらぺしゃんこになっちゃう」
話し掛けられメロ君の後を追い、急ぎ鼻の範囲から逃げ出す。
だが、振り上げられた鼻の降りてくる速度は想像以上で、ギリギリ攻撃範囲から逃れられたと思って安心したのだが、鼻が地面に叩きつけられた衝撃で地面がめくれ上がる。
めくれ上がった地面の振動と衝撃で、勢いよくみんなが吹き飛ばされてしまう……
「くっ……い…ったい……」
木に衝突し、背中を強打したキャメロはゆっくりと立ち上がる。
「ぶつかる前に風で衝撃を和らげてなければ死んでたかも……
鼻を叩きつけただけでこの威力、こんなのどうしろってんだよ……」
「確かにね……こんなのどうしようもないね……」
近くで倒れていたメロ君も立ち上がっていた。
同じ様にして身体を守ったのか、意識を失わずに済んでいた。
他のみんなを探す為に見渡すと、みんなも何とか動ける様で、痛む身体で立ち上がってきていた。
そんなキャメロ達に象王は休む間を与えず、叩きつけた鼻を持ち上げ、先端をキャメロ達に向けている。
「ヤバいね……まだまだまともに動けないのに、何をしてくるのかなぁ……」
鼻の先に魔力を使いながらも風が集まっていく……
「みんな、僕の後ろに入って!
早く!」
何をされるか解った……鼻息をこちらに向けて吹きかけようとしているけど、鼻の真ん中が以上に膨らんでいる。
それだけ集められた風を一気に放たれるとしたら……速攻で風を遮る為に、こちらも風を集める。
魔力操作でどうにかなる様なものじゃないけど、身の回りの風を増幅させておいて、風を受け流す事が出来るならばと魔法を急ぐ。
鼻で吸っていた風の動きが止まる……それは間違いなく攻撃の準備が整った合図、キャメロの風も少しは増幅出来た。
攻撃をなんとか凌ぐ為に集まってもらった……後は仲間を守らなきゃいけない……
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