虫
お爺さんの後を付いて行き、視界を確保出来る場所に移動する。
背後から追って来る反応の数はまだまだ増え続けている……しかも、どんどんと距離が詰まってきている。
「まだですか?」
「もう少しじゃ……見えたぞ!」
森の中にある小さな川だ。
水深も踝程度で川幅もしっかりあるし、流れも弱い……空も見渡せるしここなら大丈夫だろう。
「お爺さんは先に川の中央に行って下さい!」
お爺さんを先に行かせ、自分も川の中に入る。
少しでも視界を確保する為、植物操作を行い木の幹から動かす。
そして、目視出来る距離まで反応が近づいた……地べたを這いずる巨大なムカデが大量に見える。
それ以外にも子供程の大きさの蜘蛛までいる。
まだまだ色んな種類の虫が見えるが、流石にこれ以上は見たくない……
見える限りの虫にむかって植物操作を行い木々を操り叩き潰す。
ブチっとか色々な音が聴こえて、それだけで悪寒が走る……
だけど、やらなきゃ自分達が餌にされてしまう。
出来る限りこちらに近づく前に潰してしまわないといけない……
潰せど潰せど後からどんどん湧いてくる。
救いなのは前方からのみ接近して来ているだけで、背後からの接近する魔力反応はない事だ。
しかし、いくら潰しても限りがない……しかも、植物操作では対処出来なくなってきている。
流石にこの数は無理だって……このままだと魔力が先に終わってしまいそうだし、何かいい手はないかなぁ……
考えていた時だった……前方だけにあった魔力反応が左右に散開。
遂に植物操作では対処出来なくなる。
「これは……お爺さんもう少し後退して下さい。
虫が広範囲に散らばってしまいました!」
「わ、解った。
じゃが、大丈夫なのか?」
「どうにかしてみせます……」
とは言ったものの、これだけの幅で襲いかかられたら対処する事すら難しい。
しかも、お爺さんを守りながらならなおのことだ……
左右の川からこちらに向かって来る音も聴こえてくる。
後方以外の逃げ場を失ってしまう……
魔力消費を抑えるなら、この場の水を使って攻撃した方が良いかも……
待てよ……水を使えば一網打尽に出来る!
「お爺さん、水場から急いで上がって下さい!」
大きな声でお爺さんに伝えると、焦りながらも川から上がり離れてくれた。
そして、川の水を増幅させ虫に向かって津波の様にして放つ……
全体にかかったのを確認し、空中に飛び上がる。
川から十分な距離をとった時に、魔法を発動……雷を川に向かって落とす!
水を通り雷撃が広範囲に分散されてしまう為、魔力を思いっきり込めた……すると川が光り、虫達が奇っ怪な声を出したかと思うと、次の瞬間には真っ黒に焦げていた。
残った虫はいないかと、周囲に魔力探知を行う……まだ少し反応はあるが、こちらに向かうのではなく反対方向へと移動している。
追い掛けて殺しておいた方がとキャメロは考えたが、消費した魔力量が大きく、追撃を諦めた。
「もう安全なのか?」
「お爺さん…無事で良かったぁ。
とりあえず周囲には生きた虫はいないと思います」
「そうか……しかし危なかったのぉ」
「何であんな数の虫がいたんでしょうか……」
「知らんのか?」
「はい……」
何故知らないのかと不思議そうな顔でお爺さんはキャメロを見るが、何かに気づき納得していた。
「そう言えばお前さん達ダークエルフは他種族との交流を避けておったからのぉ……
ワシらが住むこの森は虫型の魔獣がほとんどじゃ、魔獣同士の縄張りでもあるのか知らんが獣型の魔獣は入ってこん」
縄張りかぁ……確かフューリーさんがそんな事言ってた気もするな。
「そして、虫型の魔獣の特徴として多いのが、複数で巣を作るんじゃ。
気付かずにうっかり近づけば今の様に一斉に獲物に襲いかかって来る」
「そんな事森に入る前に言って下さいよ!
危うく死にかけたじゃないですか!」
「だから、知っとると思ったんじゃよ。
じゃが、ワシが知る限りこの時期にここいらに虫がいる筈はないんじゃが……」
「どういう事です?」
「小人族が移動を続ける種族と説明したじゃろ、それは一番に魔獣の生態に関わっておる。
虫は1箇所でずっと生息する事はなく、移動を続けて自分達の餌に困らぬ様に移動を続けておるのじゃ。
だから、おおよそ季節でどこに生息しておるか判るんじゃが、今の時期はこの地域に生息しておらぬはずなんじゃよ。
そうでなければ小人族はこの場所に移って来ておらぬ筈だからの」
「何か起こっているのかもって事ですか……」
「かもしれん。
急いで小人族を探すんじゃ、もしかすると虫達に襲われておるやもしれんぞ」
「虫達に追われて僕らの予定も遅くなってしまいましたからね。
急いで向かいましょう」
森の異常……何が起こっているかは解らないけど、まずは小人族を探さなきゃいけない。
虫達に襲われてい事を祈りながらお爺さんと急いで移動した……
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