剣と盾
腕力だけでいけば僕が知っている人の中でウィリアム様が1番だろう……一切魔法を使わずにこれだけの力を出せるなんて信じ難いけど、現実に起こっているから驚きしかない。
三度衝突……先程までとは違いアガートさんも本気だ。
少しも角度を変える事なく正面から受け止めている。
「おおおおおぉぉぉおお!」
激しい衝突音とアガートさんの唸り声……
今度の勝敗は……
「ふぅ……ハァハァ……」
その場にアガートさんが残ったが、ウィリアム様も留まっている。
引き分けだ……
「やるではないか……次を最後としようではないか、次に耐えれたらおヌシの勝ちにしよう」
「助かります。
さすがにボロボロなんでですね……」
「本気で攻撃するのはいつぶりだろうな……最高の気分だ」
「受ける側は同じに気持ちになれそうもありませんね……ですが、ここまできたら付き合いますよぉ!」
お互いに力が込められている……ただし、先程と違いウィリアム様に魔力反応が出る。
マズいよ……今の攻撃に魔力を込めるなんて、アガートさんがいくら頑丈って言っても耐えれない!
すると、アガートさんからも魔力反応……足元から土が盛り上がり、アガートさんの全身を包み込む。
ウィリアム様は剣に土を纏わせ、何重にも重ねて強度を増している。
確かにウィリアム様の腕力で攻撃すれば、普通の剣の耐久力では厳しいだろう。
そして強度を増す事に重みが乗っかっていく、僕では持ち上げる事すら困難な重さだろうけど、ウィリアム様はそれを振りぬこうとしているのだ。
「いくぞ!」
「必ず受け止めてみせますよ!」
ウィリアム様が前進、アガートさんの盾に向けて攻撃範囲に着いた瞬間に一回転……突進の速さと、回転しての遠心力で先程との威力とは段違いだ。
遂に本気の攻防最後の激突。
今まで以上に激しい音が訓練所全体に響き渡る……
決着はすぐに訪れた。
「「ぉぉぉおおおおおおおおお!!」」
ウィリアム様の剣に纏わせた土が、アガートさんの体を覆った土が……同時に砕け2人は吹き飛ばされる。
「ウィリアム様、アガートさん!」
「負けてしまったのか……」
吹き飛ばされ訓練所の天井を見上げるウィリアム様が声を発した。
「いえ、お互い吹き飛んで相討ちになりましたよ」
「攻撃した私が吹き飛ばされるなんてな……
思いもしなかったぞ」
確かに、攻撃した方が吹っ飛ぶなんて……アガートさんが何かしたのかな?
「いやぁ……こんな剣撃初めてです。
俺が戦ってきた中で最も凄い一撃でした」
起き上がって歩いてきたアガートさんがウィリアム様に向かって声を掛ける。
「ふ……倒せると思ったのだがな。
守っているだけのそなたに負けるなんてな」
「俺は勝てたとは思いません。
攻撃が下手で、守りだけは誰にも負けないって思ってます。
しかし、全力の防御を吹き飛ばされたとあっては……もっと精進しなければなりません」
決着はついたが、お互いが負けていると思っている。
自慢の攻撃に唯一誇れる防御……相討ちとはいえ破られた。
悔しいのだろう、表情が晴れない……
「次は……負けんぞ」
「俺も負けません」
「楽しみが出来た……次に戦う時までに鍛えておこうじゃないか」
「はい、俺もです」
少し曇ったまんまの表情だが、全力を出した結果だけに文句はないようだった。
「引き分けになったが、キャメロが旅に出る事を許可しよう。
無事に帰って参れよ」
「ありがとうございます!」
喜びを共有したくなり後ろを振り向きみんなの表情を見る……みんなも笑顔だ。
喜んでくれていた……
「ウィリアム様、肩を貸しますよ」
「私を気にするな……お前達は前に進むのであろう。
ジン殿が回復する方法を見つけてきてくれよ」
「もちろんです。
許可頂いた分以上の無駄にはしません」
倒れていたウィリアム様も起き上がり笑みを浮かべていた。
「それでは行って参ります」
「準備に必要な物があればなんでも言うが良い。
ある程度の物なら用意させる」
「ありがとうございます。
それでは失礼致します」
訓練所から去り、一旦解散して準備が出来次第町の入り口に集合する事になった。
「しかし、人間であれ程の盾の使い手が居るとはな……
私もうかうかしておれん」
訓練所に残ったウィリアム様が3人と話していた。
「今回の件での収穫は大きい……人間族の兵士相手であれば勝てたのだが、冒険者の方が明らかに手練。
最初の戦いの時には少数の冒険者が進軍して来ていたと聞いたが、まだまだ人数はおるのであろう。
もしも冒険者が攻めて来るのであれば……皆があの強さに勝てる様にしなければ、我らの被害は甚大なものになるだろうな……」
さっきまでとは違い、険しい表情で考えていた。
ウィリアムにとって今回の戦いは出立条件を満たす云々ではなく、今後の戦争を見据えての事だった。
いつ終わるやも想像がつかない戦い……長引けばこちらの不利なのは確実だ。
それならばいっそのこと攻めるしかないのかと考えていた。
総力戦になった場合の事を考え、最優先に軍の強化を図らなければならない……
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