悲劇
トールはいつまでも近寄らない相手に、待ちきれず突っ込む……両手に持った剣を力任せに振り回すが、日々鍛錬を重ねている剣士にとっては余裕で捌ける。
盾と剣を上手く使いながら攻撃を易々と流すと反撃に出る……
割と分厚く重たそうに見える剣を軽々と振ってみせる剣士、それに対して正面から剣をぶつけていくトール……
力で押し切ろうと考えているのか、それとも戦い方を知らないが故にそうやっているのか……
金属の激しい衝突音が訓練所に響く……
しかし、トールは少しづつ疲弊してきている。
それもその筈、全力で剣を振り回しているのだから……逆に相手はまだまだしっかりと動けている。
このままだと確実に負けてしまうよね……でも、剣で勝負しているのなら当然だよ。
どうして魔力を使わないんだろ?
「うわぁあっしゃい!」
力を使い過ぎて遂に変な掛け声を出しながら返し始めた。
もうヤバいかも……
思い切り剣を弾き一気に距離を置く、だけどそれを見逃してはくれない。
上空を見上げて上がった息を落ち着かせようとしているが、相手はすぐ近く……剣を腹部目掛けて突く!
が……当たっていない……攻撃は宙に浮いた剣に阻まれていた。
「さすがに剣を振るのは限界かな……でも、これならまだまだ戦える!」
宙に浮いた剣を魔力で操りながら再度攻撃を開始、先程とは違い攻撃にキレがある。
何が起こっているのか解らないまま、なんとか剣士は攻撃を捌く。
攻撃を続けながら急にトールは僕の方を見て叫ぶ。
「キャメロ、剣って2本しか使っちゃいけないのかな?」
「そんな決まりはないけど……」
それを聞いたトールは周囲に掛かっている剣に向かって魔力を伸ばす。
集まってきた数8本……目の前の剣を入れると10本だ。
ニコニコとしながら複数の剣を一斉に動かす。
当然だが剣士は驚きの色を隠せないまま、剣の対処に戸惑っている。
「そこまでだ!」
大きな声が上がり、宙で剣が静止する。
声の主はもちろんウィリアム様だ……
「さすがにこれは避けれないだろう……それに、あれが当たれば怪我では済まない。
こちらの負けだ……」
リターナとトールで2勝……という事は許可を出してもらえる!
「だけど、最後の1人の実力を見てはいないぞ。
許可を出すのは出そう……だか、最後の彼までは戦ってもらう」
それならアガートさんも気楽に戦ってもらえる。
結果は出たし問題ない……
「そして、最後は私が戦おう……」
って、えぇえ!?
「ウィリアム様が戦うんですか?」
「そう言ったつもりだが、何か問題でもあるのか?」
問題と言うか大問題でしょう!
怪我でもされたら大変な事ですって……
「いやぁ……せっかく並んだ人も可哀想ですし」
「それなら問題なかろう、私が勝てば特製な訓練は無くすと言うのはどうだ?」
確定していた事が覆るならと、3人は素直にウィリアム様が出るのを肯定している。
「と言う事だ……問題ないとの事で私が戦う」
当然アガートさんは……青ざめている。
急にえらいな人と戦うハメになったんだ……仕方が無いだろう。
申し訳ないけど、犠牲になってもらおう。
「アガートさん……が、頑張って下さいね」
「もう無理……」
「では、そこの者前に出よ!」
真っ青のまま前に出る……
ウィリアム様は訓練所にある1番大きな剣を手にする。
対してアガートさんは巨大な盾と槍を手にしている……
「行くぞ……ぉおおお!」
開始の合図はウィリアム様の雄叫びになった……一気に走り出し巨大な剣で思い切りなぎ払おうとする。
アガートさんは全力で剣を受け止めようと踏ん張る……が衝突の瞬間に盾ごとアガートさんを浮かす。
吹き飛びはしなかったが、巨大な盾を持ち体格も大きいのアガートさんを簡単に浮かしたのだ。
アガートさんは冗談じゃないと言った表情……だけどウィリアム様は待ってくれない。
「ちぇえぇえい!」
再び雄叫びとともに盾に向かって大剣を叩きつける。
思い切り踏ん張っているアガートさんをまたも宙に浮かす。
「まだまだ力が足りぬか……それならば!」
またも接近……力任せに盾に攻撃を続ける。
直接当たれば軽傷じゃ済まない攻撃だ。
次の攻撃は……完全にアガートさんを盾ごと吹き飛ばした。
距離としてはさほどではないが、まだまだ全力で攻撃していないらしい。
次の攻撃にもっと力を込めている……
「何も攻撃してこないのかね?
それならもっと力を入れさせてもらう!」
両腕の血管がハッキリと浮かび上がる。
先程よりも力が入っているのが視覚で確認出来る……
「死ぬんじゃないぞ!」
今度はアガートさんも全力で盾に体重を乗せる!
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