模擬戦
「それでは今からでもやるとするかの……」
「今からですか?」
「すぐにでも出発したいんじゃないのか?」
「確かにそうなんですが……」
「それならすぐの方が良いだろう。
近接部隊の訓練所で行うとしよう……」
ウィリアム様は立ち上がり、訓練所に移動を開始する。
急な事で戸惑いながらも、僕等も続いて移動を始めた。
程なくして訓練所に着いた。
ウィリアム様は訓練している者から3人呼び出し並ばせる。
「では、この者達と戦ってもらう。
勝負の内容は先に有効打を当てた方を勝者としよう。
キャメロが連れてきた者が2勝すれば許可を出そう……負ければもちろん許可は出せない」
2勝か……トールの戦闘しているところを見ていないから判らないけど、リターナさんとアガートさんは勝てるかもしれない……
そう考えてる途中にウィリアム様は並ばせた者に対してハッパをかけている。
「お前達が勝ったら、しばらくの間は私と同じ食事を与える様にする。
しかし、負ければ特別な訓練を授けよう」
3人の顔つきが変わる。
みんな本気になってらっしゃるんですけど……
「皆さん自身はありますか?」
「そこそこね……」
「俺は大丈夫だぞ!」
「戦った経験なんてほとんどないからどうだろうか……」
やっぱりトールは厳しそうな感じ……
こうなったら2人に頑張ってもらわないと。
「そっちの準備が良いならば前に出てくれ」
「まずは私が出ます。
もしもが無いように頑張るけど、その時は頼むわよ」
「リターナさんお願いします!」
両腕を組んで待っているウィリアム様がリターナさんが前に出たのを見て1人を指名、どうやらこっちの人選を見てから選ぶ様だ。
「では最初はお前からだ……負けるなよ」
何やら楽しんでらっしゃる気がしてならない……遊びで邪魔されたらシャレにならないよ。
リターナさんの相手は長身で細身の剣士、持つ剣もレイピアの様な細身の形状だ。
リターナさんとは腕の長さから違う……長さ分不利そうに見える。
「出揃ったところで早速やろうか……
それでは始め!」
一気に剣士が前に出る……突きの構えのまま突進して来る。
リターナさんは体を横に向けて、突きによる攻撃の範囲を狭めている。
構わずに剣士が突きを放つと、その腕の長さ以上に長く感じる……なんて範囲が届くんだ。
対するリターナさんの武器も細身の剣、放たれる剣を左右に捌いている。
自分の剣を捌かれてしまっている剣士は突進を止め、リターナさんの反撃が届かないであろう距離から突き続ける。
どちらが先に限界が訪れるのかの我慢比べになるかと思ったその時、リターナさんは剣を持っていない手から魔力を溜めている。
周囲の風を媒介に風魔法を発動させて、手のひらで留めている……攻撃の瞬間を待っている様だ。
永遠に続く剣の応酬……少しづつだが剣士の攻撃が遅くなっているように感じる。
そろそろかと思った瞬間、剣士は攻撃の起動を変えてリターナさんの脚目掛けて斬りかかる……上半身の攻撃で、しかも突きに目が馴れてしまっていたリターナさんの捌きに若干の遅れが生じる。
その隙を逃すまいと再度突きを放つ……ギリギリのところで捌けたが、相手は反対の手で別の剣を握っている。
急な2撃目に戸惑いが隠せない……決まってしまうと思われた時に剣士は横に飛ばされてしまう。
リターナさんが斬りかかられた時に魔法を飛ばしていたのだ……
「そこまで!」
それを見ていたウィリアム様が声を出す。
最初の勝者が決まった……
「先に有効打を当てた方が勝ちという条件だったからな。
こちらの負けだ……次の者を準備させるといい」
「リターナさん!」
「良かったぁ……騙し討ちが当たってくれて、あのままだったらジリ貧でやられていたかもしれなかったわ……」
「それでも1勝ですよ。
次はどっちが行きます?」
アガートさんが前に出ようとした瞬間に、トールが先に出る。
「俺から行かせてくれないかな……最後の重圧はちょっとね」
「アガートさんそれでも良いかな?」
「構わない……でも、出来るなら勝ってくれよ。
俺も最後の戦いで決まるとか嫌だからな」
「善処します。
じゃあ、次は俺です!」
「ならば次はお前に頼むぞ!
負ければ次はないからな」
次の相手は最初の相手と比べて大きくはないが、体つきが引き締まっている……標準的な戦士に見える。
扱う武器は通常の剣と盾を持っている。
「じゃあ、第2試合始め!」
初戦とは違い、相手も様子を見ながら距離を少しづつ詰めている。
負けた時の事を想像すると、さすがに焦ってはいるんだろう……落ち着いて戦う様子だ。
トールはと言うと、近くに合った剣を両手に持っている。
武器自体の扱いも初めての様で、構えもぎこちない……
トール大丈夫かなぁ……怪我しないと良いけど……
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