トール
そのままだとあまりに可哀想と言う事で、メロ君が回復魔法をアガートさんの顔に使ってくれた……リターナさんは戒めですと言って、メロ君に魔法を使わせまいとしていたけど、結局この後の予定で集まった同行者を紹介する時にその顔はと言って納得してもらった。
「ごめんね、回復までしてもらって」
「全くです。
心配かけないようにして下さいよ」
「全くだ……以後気をつけるとしよう」
「反省の色が見えないんだけど?」
「冗談だよ……悪かったって思ってるし、反省もしてる」
「先が思いやられますね……」
メロ君はすっかり疲れきっていた……ここ2日で色んな事に巻き込まれているから当然かな。
「それで、アガートさんも一緒に行ってもらえるって事で良いんですか?」
「もちろんだとも!
同行させてもらうよ……なにせジンさんが関わってるのなら当然の事だよ」
「解りました。
この後ウィリアム様の所に行こうと思っているんですが、その前に少しだけメロ君と行く場所があります。
それが終わったらまた来ますので、それから一緒に行ってもらうって段取りで良いですか?」
「構いません……しっかりとアガートは捕まえておくから安心して下さい」
リターナさんの表情は依然として不機嫌なまま……とりあえずアガートさんが悪いんだから、こっちに飛び火しない様にしていてくれれば助かるんだけどな。
「じゃあ、終わったら迎えに来ますので後程」
メロ君と一緒にトールの所へと向かう……まだそこに居れば良いけどなぁ……
町に着いて真っ直ぐに店へと入ると、お客さんが入っている。
お昼時という事もあり、賑わってる様だ……
婦人は忙しそうに働いていると、入ってきた僕達に気付く……一瞬悲しそうな顔をした様に見えたんだけど、次の瞬間には笑顔に戻っていた。
「トールを呼ぶから少し待っててね。
話しは3人でしてくれればいいから……」
やっぱり表情は笑顔をしていても、声はそれを隠せなかった。
昨日僕が始めて彼女と話した時とは声色が違っていた……
そのまま振り返り奥へと入って行った。
しばらくして奥の部屋から婦人とトールが姿を現す。
「よぉ……昨日は迷惑掛けてしまってすまなかった」
「うん……それで、結論は出た?」
「出た。
完全に納得してはもらえなかった」
「そっか、じゃあ今回は……」
「行くよ。
行かないとか行けない何て言ってないだろ」
「だって、さっき言いかけた様子だったら……
でも、僕達恨まれない?」
「そぉだなぁ、恨まれてると思う!」
「ここのご飯が食べれなくなる事は?」
「当然!」
「ちょっと待って、私がいつ彼を恨むって言ったの?」
後ろから婦人がスッと現れて怒り口調で話し掛ける。
「そう言ったら面白いかと思ってね」
「冗談でも言わないでよ。
トールが出て行くのは寂しいわ…でもあなたの人生だもの、あなたが決めるべきだったのよ。
隠し通す時期はとっくに過ぎていたの……もう話さなきゃいけないんだって思ってたけど、過保護になり過ぎていたのよね。
それに、今回の事で私達が隠しておく事で余計に危険な目に合うかもしれないって思ったから、バレてちょうど良かったのかも」
「母さん……」
「嬉しいわ……あなたが母さんって呼んでくれる事。
真実を知っても、私を母さんって呼んでくれるなんて……」
「もちろんだよ。
僕が知ってる母さんは母さんだけなんだからさ、逆に呼ばないでって言われた方が困ってしまうよ」
「あ…りがとう……」
トールを婦人が抱きしめる……少し涙目になりながら微笑んでいた。
「母さん、お客さんが……」
気づけばみんなは彼等を見ていた……理由は多分……
「息子とイチャイチャすんのも良いけどさ、俺らのお昼をお願いしたいんだけどな」
当然ご飯だ……奥に行ってから今までずっとご飯を待たせたまんまだったんだから仕方ない。
「僕も手伝うから一緒に作ろうよ」
「でも……」
「キャメロ君、待っててくれない?
母さんともう少し働いてくるから」
「じゃあ、僕等の分もお願い!」
「特製のやつ作ってくるからーーー」
婦人の手を引っ張り厨房に入って行った……2人はお昼のお客さんが落ち着くまで笑いながら仕事を行った。
ようやく一段落した後に2人が再びやって来る……
「ごめんね、お待たせしました!」
「大丈夫だよ。
美味しいご飯もご馳走になったし」
「あれ?
キャメロ君達にタダで出すって言ってないよね?」
「えぇーーーー」
「冗談だって、待ってくれたお礼だよ。
それじゃあ、母さん……」
「行ってらっしゃい……危険な目に合った時はキャメロさん、メロさんに気兼ねなく助けてもらうんだよ!」
急に守られる対象が変わってる気が……
「キャメロ君か、厄介事が増えただけかもね……」
メロ君の言葉にゆっくりと頷いた……
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