アガート
そんなに遠くに行く事はないと言われて、近くを捜索するが見当たらない……
そもそも城の敷地内から出る事がないと言う彼等の生活で、見つからないと言うのがおかしいのかもしれない。
「町の方に行く事なんかあるんですか?」
「無いわ……だってここで生活する為の物は、殆どケインさんが持ってきてくれるから町に買い物に行かなくていいの」
「それならここらで見つかりますよね……」
「そうなの……絶対おかしいわ」
「ちょっと広範囲に探してみます……飛びながら探しますから、良かったら少しこの場所で待ってて下さい」
頷いたのを確認し空に浮かぶ、上空からの方が魔力の反応を探しやすいと思い探知しながら移動し始める。
まだまだ完全なものではないけれど、そこにあるかどうかぐらいは解る……ただし目をつぶって行うのが条件だけど……
少し移動をしては探知してを繰り返しながら進んで行くけど、なかなか見つからない……不慣れなのを差し引いても、城内に居るなら反応するだろうけどなぁ……しかも、今の時間は訓練が行われているから誰も城内に居ないし……
時間を掛けて城内の居そうな場所を探知したけど人っ子一人見つからなかった……諦めてリターナさんの元へと降りる。
「どうでした?」
「全く見つからなかったです……城内に居ないとなると、どこに行ってるんでしょうか……」
「彼がこんなに宿舎から出て行っている時間が長いのは始めてです……絶対何かあったんだと思います」
「……もしかしたら宿舎に戻ってるかもしれません。
僕等も一旦戻りましょうか」
「そうですね……」
リターナさんは気が気じゃない様子だったけど、とりあえず戻る事になった。
帰りも周囲を見渡しながら歩いて行くが、結局誰も見ること無く宿舎にたどり着いてしまった……
「きっと戻ってますよ」
落ち込んでいる様子のリターナさんに声を掛けるが、少しだけ笑みを浮かべて頷いただけだった。
とりあえず宿舎の戸を開き中に入るが、2人が座っていただけだった。
「その様子じゃあ見つからなかったみたいだね……」
「随分探したんだけど……城内には誰も居なかったよ」
そうなると一体どこに消えたって言うんだ?
城外に出たって言うのかな……でも、城から出るには門を通らなきゃ出れないし……
「これだけ探して居ないなら、城の中にでも入ってるのかなぁ……」
「城の中……もしかしたら、その可能性はあるかもしれないよ。
キャメロ君が探したのは城の敷地内だよね?」
「そうだけど……でも、どうやって城の中に入るのさ」
「城の中に入る方法は簡単じゃないかな……だって窓に格子なんて付いてないんだよ」
確かに少し前にジンさんと城の中に入ったけど……何の用があって中に入ったって言うんだろ?
「城内に入る理由なんてアガートさんにあるんですか?」
「もしかしたら……少し前に話してたんですけど、メイドの娘と仲良くなったって言ってました」
「まさか……」
そう話していた最中に勢いよく戸が開いた……
「たっだいまーーー」
人間族の男性……多分彼が探していた人なんだろう。
しかし、妙に上機嫌……それを見たリターナさんの表情が一気に変わる。
「アガート!
どこに行っていたのですか!」
「ど、どうしたんだって言うんだ?
あれ……シュートが部屋から出てきてるじゃないか!」
「私の質問に先に答えなさい……」
今まで見ていたリターナさんとは別人の様な話し方だ……怒らせたら恐い人なんだ……
「どこって、庭で鍛錬を……」
「嘘を言っても無駄です。
さっきまであなたを探し回っていたのですから、本当の事を言いなさい」
「えぇ……と、なんだ……その……」
「ハッキリ話なさい!
みんなが心配してたの!」
「言うよ、言うさ!
ペルちゃんと会ってたんだ……美味しいお菓子が焼けたから一緒に食べないかって誘われて……」
「アガートォォオォーーー」
「ちゃんとホントの事言ったじゃないか!
許してくれよぉ」
リターナさんが、彼の首根っこ捕まえて奥の部屋に引きずって行った……
奥からは怒号と悲鳴が狂乱していた……僕らは黙って終わるのを待っていた。
しばらくして怒りが鎮まったのかリターナさんが疲れた表情で戻ってきた……
そして、先程の男性とは同じに思えない程顔を腫らしたアガートさんも戻ってきた。
「メロ君……」
「うん……怒らせない様に気をつけようね」
「みなしゃん、ぞうもぶいばでんべしふぁ……」
アガートさんが何を言いたいのかは解ったが、言葉すら上手く話せなくなっていたのだった……
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