相談
外でメロ君から説明を受けてしばらく経った後、壊れた扉からトールが出てくる……
「話しは聞いたよ……それで、君達がここに来た理由を聞きたいんだけど、中に入ってくれないかな?」
先程の事があったばかりで警戒はするべきだろうけど、トールの表情からは敵意がほとんど感じられない……一応気を抜かずに中に入ろう。
「解った……じゃあ、中で話そう」
メロ君の顔を確認し中へと入る……気絶させた人はまだ起きてはおらずに、部屋の隅に寝かせられていて中央の机にアベルと婦人が座っていた。
2人は僕等に対しては警戒している様だったが、トールと目が合った瞬間に少しだが警戒を弱めてくれた様だった。
「まずは、君達がここに来た理由を教えてくれないかな?」
「説明は僕から……
ここに来たのは、僕の恩人を救うのに力を貸してくれないかって事だったんだ。
その人は今、ずっとベッドから起きて来ない……目を覚まさないんだ。
それで、ドワーフの知人から聞いた話しで小人族ならどうにかなるかもって言われて、その旅に同行してくれないか……」
「そう言って連れ去る予定でか?」
僕が話している時にアベルから話しを遮られてしまう……
「アベルさん……嘘か本当かは最後まで話しを聞いてから考えよう」
「解った……じゃあ、続けてくれ」
僕と視線を合わせず、悪びれる様子もなく腕を組んで明後日の方向を見ている……
疑われてるからしょうがないけど、少し腹が立った……
「じゃあ続けるね。
同行者を集めているのには理由があって、僕がここを離れて旅をしている間に安心して送り出せる戦力を用意しろってウィリアム様から言われてね」
「兵隊がいるだろう、そいつらと一緒に行けば良いじゃないか」
「そうだけど……今が戦争している最中と言うのは知っていますよね?」
「それがなんだ」
「そんな中で、私用で出て行く僕達に領土を守る為に必要な人材を出す事は出来ないって事なんだ。
だから、軍に加入していなくて尚且つ僕が無事に帰って来れる様な戦力を集めてるんだ」
「大した用事でもないから人手を貸せないって事か、それは当然だな」
腹の底に怒りが込み上げてくる。
僕は良い……でもジンさんの事を知らないのにそんな事言われる筋合いはない!
そう怒りを我慢していた時に、メロ君が話し始める……
「じゃあ、あなたはこの領土を命を懸けて守った人をどうでも良いって言うんですね?」
「実際に兵隊の1人や2人がそうなったとしても、そいつらに構っている暇なんかないだろ?
まだ終わってないなら尚更だ」
「そうですか?
彼1人で戦局を変える程の力があっても?」
「そう見ていないのが軍の意思なんだろ?
それ程重要な人物じゃないんだ」
怒りを露わにしそうになった僕を、メロ君が腕を伸ばし抑える……そしてそのまま話しを続ける。
「それはキャメロ君が代わりにいるからって事で軽視されてしまったんです。
負傷した後とは言え、彼が脅威となる敵を追い払ったから」
「それだけの力があればこいつで十分だろ?
なぜ意識の戻らない相手に構う」
「そんなに甘い相手ではないからです……撤退させたのはキャメロ君ですが、撤退させるまで負傷させたのはその人だからですよ。
それに、まともに相手出来る様な動きではない……完全な状態ならキャメロ君は死んでしまうかもしれない」
「勝てるまで鍛えればいい……それが今出来る最善じゃないのか?」
「いつ攻めて来るかも判らないのに?」
「だからこそ日々の精進を……」
「じゃあ、僕達に負けたあなたは守る為の努力をしてこなかったんですね」
「ずっと鍛えてきたさ!
それこそ、魔族領にいた時よりも確実に強いんだ」
「僕達が暗殺しに来ていたなら死んでたでしょうけど」
「それは……」
「数日でそんなに変わる事はないんです。
あなたが言う通りに日々精進したとしても……だからこそ、その人の力が必要だと思っているんです」
「メロ君ありがとう……落ち着いたから」
メロ君の話しを聞いて、ようやく落ち着いた僕は声を出した。
「僕達が負けて、ダークエルフの未来を閉ざす理由にはいきません。
鍛え続けてここまで強くなりましたが、僕の力じゃあれの相手は不可能です……だから、ジンさんを起こす可能性があれば賭けたいんです」
「だけど、その旅にトールを巻き込む訳にはいかない……
どこで誰に狙われるのかも判らないのに」
「誰にっていう心配は同行すれば簡単に見破れますけど」
「何?」
今回もお読みいただきありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしております。
次回もよろしくお願い致します。