後継
「身内の恥の話だから聞いても面白い話しじゃないけど、キャメロ君はもう巻き込まれてしまってるからね……説明するよ」
「うん……」
「魔王様には1人の息子と2人の娘がいました。
息子は当然次の魔王になるのは自分だと思い、色々な武芸を習得し政を勉強していました。
その功労もあり周囲からも認められ、次の魔王になれると信じてやまなかった……だけど、魔王様には昔愛した女性との間にもう1人の子供がいると言う事が解ったのです」
「浮気してたって事なの?」
「違うんだ……魔王様は元々魔王の家系の者ではなく、婿養子として女王と結婚している……つまりは、魔王にならされる為に女王と結婚させられた様なものなんだ。
しかも、昔結婚していた相手と引き離されてね」
「それが婦人って事?」
「いや……僕が思うに違うかな。
実際に会ってはいないけど、ダークエルフの女性ではあるのは間違いないが、知ってる歳とはかけ離れてる」
「じゃあ彼が母さんって呼んでるのは全く赤の他人……」
「だと思う……魔族とダークエルフの歳のとり方は近いからね。
魔王様は既にウィリアム様よりも年上……彼女はどう見てもウィリアム様よりも年下だよね」
確かに婦人の見た目は若い……メロ君の言ってる通りウィリアム様よりは年下だろう。
「そうだね……でも、それが何で逃げる様な事になってるの?」
「問題は魔王様でもなく、その息子でもなく、次の魔王の為に働いている取り巻き達なんだよ……
もし、魔王様が彼を次の魔王に選んだりしたら?」
「取り巻きの立場が悪くなる可能性が出てくる……」
「その通り、それで彼を魔王様には絶対会わせない様にとしているんだ。
その為には彼を監禁するか、彼を……」
「そんな事までなってるんだ……」
「彼等もそれだけ必死って事だね……その話しを聞いたのもつい最近なんだけどね」
「メロ君、意外とそういう事に詳しいんだね」
「……と言うより、僕の父がその取り巻きの1人だから」
「えぇええ!」
「声が大きいって!」
「でもそれだったらメロ君にも関係する話しじゃないの?」
「正直僕はそういう父が嫌で魔法の道に入ったからね。
僕には興味がないかな……
それに僕は僕自身を認めてもらって上り詰めるって目標があるから」
「メロ君カッコイイ……」
「やめてよ!
僕のワガママを正当化しただけなんだから……って、そんな眼差しで見ないっ!」
「ごめんごめん……僕にはそんな気持ちないから憧れちゃって」
「もぉ……でも、彼は実際危険だね。
僕も戦争に向かう前に家に寄ったら、探りを入れて報告しろって言われてたぐらいだから、既に他の誰かが見つけて報告してもおかしくないかもしれないね」
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一方中ではメロが話した内容をトールが聞き終わっていた……
「何で今まで隠してたの?」
「あなたが知らなくても、私達が次の魔王様が決まるまでお守りすれば、もう襲われる事もないと思ったので……」
「それでずっと母親と偽っていたのは?」
「それは奥様からの指示です。
魔王様が結婚させられた時に、あなたに危険が及ばない様にと私達にお願いされました」
「何なんだよ……僕は父の所為で母とも暮らせず、危険な目に合わせられて……」
「ごめんなさい……」
「悪いのは母さんじゃない……」
「母さんって……」
「僕を今までずっと育ててくれたじゃないか。
それとも、真実を打ち明けたら母さんじゃないって言うの?」
「ありがとう……トールありがとう……」
「僕の母さんはずっと母さんだよ。
もう1人産んでくれた母さんがいても、育ててくれた母さんは僕の大事な家族だ」
婦人はその場に泣き崩れてしまった……アベルと呼ばれた男性が近寄り、そっと肩に手を回し声を掛けていた。
「それじゃあアベルさんも知ってたの?」
「そうだ……私は魔王様の部下だったんだ。
魔王様が去る時にトールの事を頼むと言って出て行かれた……」
「父が……自分の責任を擦り付けて、アベルさんの人生まで犠牲に……」
「それは違う!
お前の父さんは前魔王様に無理矢理引き離されたのだ。
魔王の血統を衰退させず有能な血筋を残す為にとな……それに私はお前の父さんに何度も命を救われたんだ。
生き延びた時間をあの人の為に使って何が悪い」
「アベルさん……ありがとうございます」
「私だってトールの成長を観ながら過ごせた時間は幸せだったぞ……」
しばらくしてトールが話しを切り出す……
「それで、彼等に対して仕掛けたのはみんななの?」
「間違いはないわ……アベルさんの部下の話しでは魔族の彼は、危険視している人物の子供らしいの」
「僕を守る為だったって事だね……でも、彼等は殺そうともしてなかったよね。
僕が見た時だって殺気なんか全く感じなかったし」
「確かにそうだけど……」
「彼等を呼んでくる」
「待って、あなたは逃げた方が……」
「逃げないよ。
それに、僕は自分の身は自分で守れるつもりだ。
彼等がもし、違う目的で来ていたのなら詫びなきゃいけないんじゃない?」
「それが向こうのやり口かもしれないんだぞ!」
「それでもだよ……そうであったのであれば、全力で戦うまでだ」
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