一変
訓練も終わり、目隠し組手を行った時に殴打された所為で激痛が走り表情が歪む……
あんなに痛めつけなくたって良いのに……
多分だけど、元々魔獣であるフューリーさんは僕等とは違って感覚が優れているんだと思う。
それで特に集中していた時に僕が大声で謝罪を入れた瞬間に、聴覚に響いて癇に障ったんだろうな。
そうは言っても訓練中にあんなに力を込めなくたって良いのに……
「体中がアザだらけじゃない、見えてなかったからごめんねぇ」
「フューリーさん……医務室まで抱えて連れて行ってくれません?」
「う~ん…無理!
だってこの後アリとサリと用事があるもの」
「その2人に会うんなら丁度いいじゃないですか……もう、動くのも辛いんですって」
「その前にも予定があるの、だから無理〜」
ちくしょう……次の訓練の時にはやり返してやるんだ……
「まぁ、完全に見えない中での戦闘で手加減なんて無理な話しだよ。
訓練とは言え緊張感を持って行うのに、フューリーさんの攻撃は良かったと思うよ」
「えぇえ……ライトさんまでぇ……」
「でも、これが実戦で相手が武器を使っていたならキャメロ君は死んでいただろうね。
痛みだけで済んだ事を良かったと思わなきゃ」
「確かにそうですけど……実際に戦闘で使う為のものですもんね。
明日からは僕ももっと気を引き締めますよ」
「それで良い……じゃあ僕もこの後仕事が残ってるからまた明日ね」
……で結局置いて行かれるんだ。
しょうがない、少しは魔力も残ってるし回復させて自力で部屋まで戻ってやる……
ようやく部屋に着いた時には、町に向かう時間になっていた。
ボロボロになった服を着替え、急いで回復薬の飲み干し十分に動ける様になった体でメロ君を迎えにまた道を戻った……
「メロ君、キャメロだよ」
戸を叩いた後で声を出して呼び掛けた。
するとすぐに戸が開き、中からメロ君が出てきた。
「ありがとう、じゃあ行こっか……って何でそんなにボロボロになってるの?」
「いやぁ、ちょっと訓練してて……」
「はぁ……出掛けるのにボロボロはどうかなぁ。
ちょっと回復させてあげるから」
そう言うと、メロ君は僕に回復魔法をかけてくれた。
体の痛みもなくなり、体が軽くなる。
「ありがとうメロ君」
「ふぅ……じゃあ気を取り直して案内してもらおうかな」
魔族宿舎を出て町へと向かう……
お店に着くと、まだ店は開いていた。
訓練で随分と体を動かした所為か、少しお腹が空いていたので中に入って食べようとメロ君と話して中に入った。
「いらっしゃい!
あ、さっきの方」
「すいません、少し早く来てしまって」
「今日は常連さんが集まっててもう少し掛かりそうなんだ。
良かったら何か食べて待つ?」
「ありがとうございます。
さっきそう話しながら中に入ったんですよ」
「話しながらって……お連れさんもいたんですね」
外に顔を出しメロ君を呼ぶと、メロ君も中に入って来た。
「……魔族の方?」
「はい、後で話す事に関係してくれてるんです」
「メロって言います」
「そうですか、じゃあ席を案内しますね」
中に通され椅子に座ると、彼は厨房に入り婦人と話していた。
数点の料理を机に置いて「ごめんね」と言って店に居た常連さんの相手をしばらくやっていた。
しばらくすると常連の方達は酔い潰れてしまい、店内は静かになっていた。
「ごめん、今からあの人達を送って来るからもう少し待ってて」
「大丈夫ですよ。
帰って来られるまで待ってますから」
それを聞くと、申し訳なさそうな顔をして酔い潰れた人を担いで店から出て行った。
直後、昼間のにこやかな感じとは全く違った表情で婦人が僕等の所に歩いて来る。
「息子に話しがあるって言ったそうですけど、何の用件なんですか?」
婦人の表情は険しかった……
「……彼の力を見込んで僕と一緒に来て欲しいんです」
「力をと言う事は危険な場所にって事ですか……」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。
ただ、今の僕には必要な人材だと思ったからです」
「お連れの魔族の方もそう思っているんですか?」
「僕?
僕はまだ彼の力を聞いただけで、正確な判断は出来てないです」
「……事が荒立つ前にお引き取り願えないでしょうか?」
「え?」
「お連れの方が入って来た時に、遂にこの時が来たのねと思いました。
黙って今日の事を忘れてた出て行ってくれるなら……」
話しをしていた婦人の言葉を遮る様に戸が勢いよく開く……
「そう都合の良い様にはならないって、こいつらをしっかり口封じしなきゃならない」
見知らぬ男が6人入って来る。
何が起こっているのか全く理解出来ない……ただ、マズい状況に置かれているのは確かだろう……
「だけど、そんな事をすれば……」
「それぐらいしなきゃならないんだ……大事になったら、また別の町か村にでも行けば良いじゃないか」
「ちょっと待って下さい!
何がなんだか全く理解出来ないんですけど!」
「連れに聞いてみれば良いんじゃないか?」
「メロ君?」
「僕もさっぱりって言いたいけど、キャメロ君の話しを思い出してみるとこの人達が言ってる理由が少し解ったかもしれない」
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