使い方
楽しいもんってなんだろ?
大量のグラスを中に浮かせて出てきた彼は、全てのグラスを魔力で動かし各席へと送り届ける。
あれって、魔力操作……しかも媒介も無しに行っている!
僕が知ってる魔力操作は方法は2つ、1つは媒介を通じてある物を操作する事、もう1つは自分の魔力で相手の魔力を乗っ取って魔法を操る事。
でも彼が行ってるのは媒介も無しに物体を動かしてる……サンドラ様からもそんな事習ってないぞ!
「な、兄ちゃん良いもん見れただろ?」
「はい……ちょっと本当にビックリしてます」
僕が相手び対して魔力操作を行う時の本数と変わりはないけれど、それでも正確性は彼の方が上手だ。
方法が解れば出来るかもしれないけれど、こんな魔力の使い方があったなんて驚きだ……
驚きを隠せないままに彼を見ていると、僕に気付いた彼の方から近づいて来た。
「お兄さんここ初めてだよね?」
「そうです……」
「驚かせて悪かったね、客寄せの為に行ってる事なんだけど、初めて来店してくれたお客さんは大体驚いてしまってね。
悪い力を使ってる訳じゃないから安心して、良かったら楽しんで下さいな」
「ねぇ……どうやってそれをやってるの?」
「企業秘密……なんてカッコイイもんじゃないけど、これを教えちゃうと俺の仕事に影響するから絶対内緒なんだ」
「そう……ですよね。
すいません」
「いえいえ、気にしないで下さい。
じゃあゆっくりしていって下さいね」
立ち去ろうとする彼に、自分が何をやる為に町に来ていたのかを思い出す。
「ちょっと待って!」
「どうしました?
何か注文でしたら紙を持って……」
「ごめん……少し込み入った話しをしたいんだけど、時間作れそうかな?」
「……今はちょっと……店が終わるまでは無理かな」
「そうだよね、じゃあ店が閉まってからでも話せるかな?」
「話しだけですよ。
じゃあ、店が閉まった後にもう一度ここに来て下さい。
その時に……」
「ありがとう!
じゃあ、また後で寄らせてもらいます」
そう言ってお会計を済ませ店を後にした。
彼なら十分な戦力になってくれる筈だ……なんとかして同行してもらえる様に頑張らなくちゃ。
その時には彼がなぜあれだけの能力を持っていて、軍に入隊していないのか考えもしていなかった……
メロ君と約束していた宿舎に向かう、あっちでも誰か見つかってると良いんだけど……
宿舎の入り口に着くと、メロ君が姿を現した……
「メロ君お待たせ」
「待ったよ……日が沈みかかっても現れないから忘れてると思ったよ」
「ごめんね、町まで力になってくれる人がいないか探してたもんだから」
「それで結果は?」
「まだ詳しい話しは出来てないけど、候補は見つかったよ」
「良かったぁ……でも僕の方は厳しいかな、せめてサンドラ様が居てくれたら違ったのかもしれないけどね」
「そっか……でも僕が頑張らなきゃいけない事だから、メロ君が行動してくれただけでも僕は嬉しいよ」
「そう言ってもらえると救われるね。
それで町で見つかった人って?」
「それがさ…………」
さっき見てきた話しをメロ君に話す。
話しを聞いていたメロ君も僕と同じ様に驚いていた……
「そんな事出来るんだ……」
「本当にビックリしたよ。
一応話しは聞いてくれるって事になってるから、今日また行くんだけどね」
「ちょっと僕も一緒に行って良いかな?
その力に興味が湧いてさ」
「……良いと思うよ。
1人で説得するよりも、メロ君が一緒に居てくれれば力強いよ」
「ありがとう、じゃあ後で行く時に呼びに来てね。
ちょっとお風呂に入ってくるから」
「じゃあまた後でね」
メロ君に手を振り僕も一度部屋に戻ろうと移動する。
宿舎から訓練所の前を通りかかった時に、ライトさんとの約束を思い出した。
「ヤバい!忘れてたぁーー!」
急いで訓練所に向かう……
場所はそんなに離れていなかった為、すぐにたどり着いた。
まだ訓練所の中に明かりは灯っていた……
「すいません遅くなりましたーーー」
訓練所の戸を開くなり大きな声で謝罪……すると、顔の横を鋭い何かが通り過ぎる。
そっと後ろを振り返りそれが到達したであろう壁を見ると、ナイフが壁に刺さっていた……
「探知の訓練中に大声を出すと危ないよ」
奥に座っていたライトさんが話し掛けてくると、多分ナイフを投げたであろうフューリーさんが僕に向かって腕を伸ばしたままの体勢で止まっていた……
「外したね……精度はまだまだね」
「いやいや、まだまだで良かったですよ!
もう少しで死んでますって!」
「うるさいわ……探知のお陰で、視覚意外の感覚が研ぎ澄まされてるんだから大声出さないの」
「そ、それはすいませんでした……」
「じゃあ、2人とも揃ったから本格的に始めようか」
申し訳ないと思いながらライトさんの方へと向かう、それからの訓練中の厳しさは凄かった……
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