進展?
誰も居なくなった工房を後にし、忘れかけていた同行者探しを再び始める事に……
結局、宿舎に来ても手掛かりはなかったなぁ……でも、バズさん達が造っている武器が進展しそうで良かった。
後は僕の方も何か進展して欲しいよ……
人気の少ない宿舎を移動して、今度は各訓練所に行ってみる事にした。
訓練中に入れば邪魔になってしまうから、一先ずは周囲に居る人から情報を聞いてみようと声を掛けるけど、「手練っていう程の人はここに入隊してるよ」と言った返事ばかりだった……
結局ここでも情報は仕入れられないと諦めながらも、魔法使いの訓練所に入った。
タニアさんは既に戻って来ており、訓練の指示を行っている。
先程までの表情と違い、いつものタニアさんらしい顔に戻っていた。
ゆっくりと中へ入り、タニアさんにお礼だけでも伝えようと近づいて行った。
近くまで来た時に、タニアさんが僕に気付き駆け寄って来てくれた。
「キャメロさん、さっきはありがとうございました。
お陰で無事に報告が終わりましたよ」
まぁ、ウィリアム様が怒る様な事でもなかったから、何事もなく終わると想像してた……案の定心配する程の事はなかったみたいだった。
「良かったですね、元々タニアさんに責任のある話しじゃありませんから、心配いらなかったのかもしれませんね」
「いえ……あの場所を任されているのは私ですから、何かあったら私が責任をとると言うのが当然です。
当面は監視の強化を行うと言う事と、抜け道の捜索に協力すると言う事で納得してもらいました」
「僕はそんな責任のある立場になった事がなかったから、軽率な言動だったかもしれません……すいませんでした」
「キャメロさんが謝る事はありませんよ。
責任なんて人それぞれで考え方も違うでしょうから、立場が違えば思う事も違いますよ。
だからと言って、どれが正論か判らないですけどね」
厳しい顔つきから、最後の言葉を言う瞬間には柔らかい笑みを浮かべていたのを見て、少しドキッとしてしまった……
タニアさんの気遣いと言うか、女性らしい表情に慣れていないだけなんだろうとタニアさんの顔を直視出来ずにいた……
「どうかしたんですか?」
「いやぁ……なんでもないです」
「起きてからまだ日が浅いから、体調を崩したのなら医務室まで連れて行きますよ」
そう言われた後にタニアさんが僕に近づき肩に手を回される……ただでさえ今直視出来ない顔が接近して来た。
顔を直視出来ないけど、体調は悪くないと言う事を伝えなきゃとタニアさんの方を向くと、更に状況悪化……顔の近さを実感してしまう始末に……
赤面しながらも、目を逸らして言葉を発しようとするが上手く喋れないんだ……
「……え、えぇと」
「熱がありそうじゃないですか!
今すぐに行きましょう、後方部隊の隊員も訓練中で居るはずですから」
「いや…ぁ、大丈夫ですよ。
ちょっ…と、この距離が……」
言ってしまった……ようやく喋れた言葉がこれなんて……
僕の顔を覗きこんでいたタニアさんも勢いよく離れた。
どうやら意識していなかった部分を急に意識させてしまったみたいだ……
「キャメロさん!すいません!」
途中の声が裏返っている……
「僕こそすいません……変な意味で言ったんじゃないんです!」
もう自分で言ってる言葉も意味不明だ。
変な意味ってどんな意味なんだよ!
ふと、訓練所の中が静かになっているのに気が付く……周りをそっと見て見ると、完全に訓練を中断して注目されていた……
同じくタニアさんもそれに気づく……すると、立ち上がり隊員を睨みつけ……
「何を休んでおるのだ!
今は休憩時間ではないんだぞ!」
赤面したまま大声で隊員を叱りつける……隊員達はビクっと体を反応させて、ぎこちない動きで訓練を再開した。
「タニアさん……訓練の邪魔をしてしまってすいませんでした」
「そんな事は……ありません」
「メロ君のお礼を言いに来ただけだったんです。
それじゃあ失礼します」
「はい……」
そっと動きだし、訓練所を静かに退出する……
ヤバかった……あんなに女性と接近したのは初めてで、こんなになるとは思ってもみなかったよぉおぉぉ……
訓練所から少し離れた場所で地面に腰を下ろした。
急な事で頭は混乱したまんまで考えも纏まらない……
しばらく頭と心が落ち着くまで座ったままで過ごした。
ようやく心が落ち着き、こんな事をしている場合じゃないと思い出す。
それと、工房の引っ越しを手伝った面々が部隊の人かどうかをタニアさんに聞こうとしたのを思い出した……
今更戻って聞く事など出来やしないし、夕方に食堂ででも部隊の人に聞いてみよう……
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