疑惑
ライト達は死因が何だったのかを確認する為に、宿舎の一室で運んで来た死体の隅々まで見ていた……
全ての死体を調べ終わった後とある事に気付いた。
死因に繋がるかどうかは判らないが、死体の胸元に小さな穴が空いている……それもどの死体にも共通してだ。
「メロ君……この傷からかな?」
「それ以外に目立った外傷はないですもんね、ただしこの傷がどこに達しているかによりますよね」
「かと言って死体を切り刻むのはちょっとね……」
「僕もやりたくないです」
「まぁ、とりあえずは隊長格が集まって顔を確認してもらってから考えよう」
「賛成ですね」
ライトはタニアに頼んで、隊長格を呼びに行ってもらうように伝えていた。
キャメロと同じで、自分が判断するには大き過ぎる案件だと考えての行動だった。
「しかし、どうして魔族の方々の宿舎で放置されていたんでしょうか……」
「誰かが魔族に罪をなすり付ける為とかですか?」
「確かに協力関係である我々を、決別させる事が出来れば戦争では有利に働きますが、我々の今までの関係を知っている者では考えられません……」
「う〜ん……となると人間達の仕業って事になりますけど、簡単にこの場所に侵入されたとなると、そっちの方が大きな問題だと思いますね」
「ですね……これ以上は考えても推測の域を出ません。
とりあえず、身元を隊長格の方々が知っていれば良いんですけど……そうすれば少しは次の手掛かりを得る事が出来そうな気がします」
「はい……それでは少し休んでいますね。
朝早くからずっと起きていて、眠くて仕方が無いので……」
「この後は僕が引き受けますから、ゆっくり休んでいて下さいね」
そう言うとメロは部屋を出て行った……
しばらくしてリュード、サリ、ブラン、ケインの4人が部屋へと入って来た。
「早くからすいません、用件は聞かれたと思いますので省略します。
早速ですが、ここに死んでいる者に面識がありませんか?」
4人はしっかりと顔を覗き込んだ……
皆が難色を示す中で、ブランだけが考え込んでいる。
「ブランさんは面識がありそうなんですか?」
「いや……話した事はないが、多分俺の村の隣の集落に住んでいるやつらに似ている気がするんだが……
正確にそうだって言う事は出来ないが、似ている気はしてる」
「他の方は無さそうですか?」
そう言うと、皆が判らないといった答えを言った……
そうなると、頼りはブランさんかな。
「それでは次に、死体に共通してある胸元の怪我なんですか……」
死体に近づき傷に指を指すと、ケインさんがハッとした顔をしている。
「この傷は……」
「ケインさん解ります?」
「あぁ……これが死因で間違いないでしょうね。
これは暗殺の際に尖った釘の様な物で心臓まで一突きで殺す技法です」
知っている人が居てくれて良かった……お陰で死体を切り刻まずに済みます。
だけど暗殺って、ケインさんは元々冒険者だった筈では?
「ケインさん、良く知ってますね」
「家の家業ですから……」
「ケイン殿……それは生業として生計を立てていると思って良いのですかな?」
「間違いありません。
しかも、多分これは弟がやった事かと思います……」
「弟と言えば、先の戦争でケイン殿が戦っていた相手ではないのかな?」
「その通りです……私は弟と外で会ってしまったので」
「弟と会ったと言うと、どう言う事か説明頂きたい」
ケインの言葉で、リュードさんの眼差しが鋭くなる。
「……やつは私に人間側に戻したい、戻らないのであれば殺してしまうとしてここにやって来たんです」
「それで?」
「弟は私と戦う事なく帰って行きました……」
「それはなぜ?」
「もうひとつの目的が達成させられたからと言っていました」
「目的?」
「それは言わずに去りました。
聞いても答えてはくれませんでしたし……」
「……ここまで聞いてもケイン殿を信じる事は出来ぬな」
空気が重い……それにケインさんは嘘を言っている様に見えない。
ここでケインさんを疑っても事件は進展しない……
「すいません、とりあえず話しを戻したいんですけど……」
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