事件
「兄様は元の……立場に戻りは……しないの?」
「しません……私が人間に求めるものはありませんから」
「そうなんだ……じゃあ、今度会う時は……また戦わなければ…いけないね」
「もとよりそのつもりだよ。
叔父さんに従ってるあなたが、昔も今も変わりないのであれば私は容赦しません」
「今からでも……殺る?」
「……構いません」
2人の間で沈黙の時間が続く……お互い睨み合っていたが、テリーの方が先に目を逸らした。
「止めよう……今の僕じゃ……勝てないね。
それに…何もかもが……叔父さんの言いなりになってる……訳じゃないんだから」
「そうですか……だけど、いずれは決着をつけさせてもらいます。
我が家族の因縁に私達で決別を着けなければなりませんから……」
「家族ですか……嘘でも兄様にそう言って……もらえただけでも嬉しいです。
だけど……その時がきたら、僕も全力で……やらせてもらう」
「そうしなさい、一切の悔いを残さない様にね」
「じゃあ、僕は行くよ……」
「何の土産無しで帰るんですか?」
「それは…大丈夫……中で聞くべき事は聞いてきたし、やるべき事はやってきたつもりだから……」
「城内に侵入していたんですか!?」
「そうだね……だから終わったんだよ。
兄様に関しては……邪魔が入ったとでも言っておくよ」
いつの間に侵入されていたんですか……中に入るのだって、結界で隠してあって入口なんか判らなくなっているのに……
「どこから入ったんですか?」
「教えると……思う?」
「そうですよね……それじゃあ別の事に答えてもらえないでしょうか?」
「内容次第だよ……」
「聖女についてです」
「どんな事?」
「彼女の魔法は何なのですか?」
「……人を操る魔法じゃないとだけは言えます」
やっぱり……だけど、そうなると正解が解りませんね……
「僕も正解を……知ってる訳じゃないんだ」
「そうですか、それを聞けただけでも収穫です。
では、私は戻ります……次に戦場で会うのであれば全力で戦わせてもらいます」
テリーは少しだけ微笑むと、何も言わずに闇に消えていった。
結局彼の心をさらけ出す事なく……
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翌朝キャメロの部屋の戸を激しく叩く音で起こされた。
重たい体をゆっくりと起こすと、空は薄暗い感じに明けていく途中だった。
なんだよこんな朝早くからぁ……
叩かれていた戸を開けると、叩いていた人物が視界に入った。
「すみませんこんな朝早い時間に……」
「タニアさん?」
「急いで来て欲しいんですが、よろしいですか?」
「構いませんけど何があったんです?」
「魔族の宿舎で数人が殺されているんです!」
「魔族の方々がですか?」
「いえ……それが、ダークエルフの者なのです」
イヤな展開だけが頭によぎる……まさかそんな事はない筈だ。
共に戦った種族で殺し合いが始まる訳でもないだろうと思うんだけど……
「まずは現場を見てください……」
タニアさんに連れられて宿舎前まで到達する……そこには4人のダークエルフの死体が転がっている。
「彼らの身元は解っているんですか?」
「いえ……今のところは不明です。
だけど、相談する相手が居らず最初にキャメロさんに声を掛けたのですが」
僕にこんなのの処理は無理だ……だけどどうにかしないと……
そう言えばライトさんなら起きてる筈だ。
訓練所に行けば会える……フューリーさんと一緒に訓練する筈だったから。
「タニアさん、これ以上誰も近づかない様にしてて。
ちょっと信用出来る人を連れてくるから」
タニアさんが頷いたのを見て、急いで訓練所に駆け出した。
ようやく着いた訓練所の中には既に2人が待っていた。
「ライトさん、大変な事が起きてます!」
「おはようキャメロ君、大変な事って君が寝坊した理由の事かな?」
「違います!
魔族の宿舎で死体が……」
ライトさんの表情が一気に変わった……急いで上着を羽織り近づいてきた。
「キャメロ君、一緒に連れて行ってくれ……
フューリーさんはどうするかな?」
「力になれる事があればね……一応付いて行こうかしら」
「じゃあ、案内頼むよ」
3人で現場へと向かった……再び現場にたどり着いたのは、暗さはなく朝日が完全に山から顔を出してしまっていた。
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