悲劇
ジンさんが刺されてしまった……
その一部始終を見ていたのはキャメロだった。
相手の少女を後少しで倒せると奮闘していたジンさんに向かって走っていた少年から剣で刺されてしまう。
さっきまで一緒に戦ってくれた少年は無情にも預けていた背中を簡単に裏切った。
目の前で親しい人物が刺される……戦争を戦いを嫌がっていたキャメロにとって初めて見る光景。
彼の中で焦りよりも、大きな怒りが込み上げる……そして一気にジンの元へと飛んだ。
ジンの近くに降りると、彼から流れる大量の血液の溜まりを歩いて行く……
そしてうつ伏せに倒れているジンに起きて欲しいと声を振り絞ろうとするが、震えて声が出ない……
なんで声が出ないんだよ!
ジンさんが……ジンさんが…………
「今頃助けに来たって無駄ですよ」
少女から放たれた言葉で保っていた理性が振り切れる……
「うわぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁあ!」
ジンを起こそうとした時に出せなかった声が……助けれなかった後悔の思いが……一気に叫びとなって絞り出される。
キャメロの腕からバチっという音が何度もなり始める。
叫び声に気づいた魔法使い達はジンの倒れている姿と、その傍にいるキャメロの姿を見てしまう……
「ジン!?」
気付いたリレイは放っていた魔法が止まる……
「なぜあやつが倒れておるのだ!」
サンドラもまたリレイと同じく攻撃が止まってしまう。
それと一緒にいたキャメロが異様な表情をしているを見た……
「許さない……」
「何か言いましたか?」
腹部から血を流しながら抱き抱えられている少女が声を発する……決して強気な発言が出来る様な状態ではない筈だ……
しかも、命を掛けてまで負傷させたジンを見下ろして口を開いている。
キャメロの体の周りでなっていた音が次第に多くなる……次第に体全面に雷を纏っている。
そして、キャメロの腕からは雷が鞭の様な形状に形成されていく……
「キャメロを止めよ!
あれはまだ使ってわならぬと教えた魔法……制御出来ない程で自分まで傷つけてしまう」
サンドラの命令が耳に入った仲間達が急いでキャメロの元へと向かうが、遅かった……
雷の鞭は大蛇の様に大きくウネリ、近づこうとする者を襲いかかろうとしている。
そして、キャメロが薙ぎ払う様に大きく腕を振ると、凄まじい速度でルカと響を襲う。
危機一髪で響が雷魔法を放ち防いでくれるが、ルカの冷や汗が止まらない……
「キョウ、引きますよ!
私も怪我で戦えません……こんな状態であれが当たれば死にかねません」
「逃がすかぁあぁ!」
再び鞭がルカと響を襲う……しかし、クレアによる火炎魔法で方向をずらされ当たらない。
その隙にルカ達は大きく距離をとる……シュート以外の全員が皆逃げて行ってしまう。
シュートは未だに目の前で起きた出来事の所為で膝を付き呆然としている。
仲間達が逃げているのでさえも気づいていなかったのだ……
キャメロは未だ激昂している。
逃げたルカ達を追って敵陣に突っ込んで行ってしまう……
鞭を使い自身に怪我を負いながらも振るい続けている。
誰かが止めなければと思うが近寄るのも厳しい、無闇に近づけば確実にキャメロの鞭に当たってしまう。
一時は遠ざかっていたルカ達にキャメロが詰め寄る。
「しつこいですね……あなたも私に従いなさい」
そう言うとルカから魔力が広がり、キャメロに向かって襲いかかるが触れる事はなかった……
キャメロは自分の魔力を放出してルカの魔力を絡め取り跳ね除けたのだ。
有り得ない出来事に驚くルカに対し、キャメロは怒りに任せ追撃を続ける……がそれを阻止しようと人間達が一気に魔法をキャメロに放つ。
ルカは自身の魔力をキャメロだけではなく、近くにいた兵士達にも送っていたのだ。
一斉に放たれる魔法を鞭で吹き飛ばすが、1度では終わらない……何度も何度も連続して魔法が放たれている。
鞭を振り回し応戦しなければいけなくなったキャメロは、遂に追撃の足が止められてしまう。
しかも、慣れない雷の鞭を使い続けた所為で魔力の残量も少なく、何度も自身の体を痛めつけた所為で限界も近い……だけど、そんな事を気にしてさえいない。
ひたすら放たれる魔法の中で遂に鞭の形成を維持する為の魔力が足りなくなり、弾き返す事の出来なくなったキャメロは崩れ落ちてしまう。
兵士が放った魔法の一つ一つはさほど強力ではないが、まとめて喰らってしまえば死んでしまうだろう……敵すら打てずに両膝を地に付け倒れているキャメロ何も出来なかった自分に憤りを感じながら、襲いかかる魔法の中心で意識を失ってしまった……
今回もお読みいただきありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしております。
次回もよろしくお願い致します。