結末
ルカの腹部を抉り出すまでもう少し……そうすれば終わる。
ルカが暴れないように捕まえている腕に対し更に力を込める。
もうすぐ魔力もなくなる……その前に早く!
己の魔法に集中し過ぎていた……ルカの近くにいた為に探知を止めていた。
言い訳ならいくらでも出来るが、起こった事は変わらない……
ルカを捕まえ、腹部に魔法を発動させた頃だろう。
ルカは現状から逃げる為に、確実に操る事の出来る人物に向けて魔力を放出していた。
近くに居るのは殆どが自分の魔力が見えている人物……だが、ただ1人だけ見る事も感じる事も出来ない人物がいる。
その人物までは距離が少し開いている為、放出スピードを早めた。
クレアの後ろを通り過ぎ、目的の人物の元にもう少しだ……そうすれば救出させて形勢を覆す事が出来る。
―――――――――――――――――――――――――――――――
響はクレアに対し、魔法攻撃を父に届かせない様に距離を置きながら戦っていた。
ルカとの戦闘が気になっていたが、気を抜けば誰かが危険な目に合うと思っていたからだ。
「まだ魔法を放つのか……どんだけ魔力量があんだよ。
俺もボロボロだぞ」
クレアはまたも魔法を発動しようと魔力を溜めている……
ひたすら自分の持つ盾と、水や土で衝撃を和らげる為に壁を創り受け止めていた。
召喚されてから魔法の先生をやっていたクレア……火力のある魔法を得意とし、主な属性の攻撃魔法を教えてくれていた。
最近まで自分の得意な雷属性の魔法以外では全く勝てなかったのだが、それは加減してくれていた事を悟る。
操られて彼女の本気の魔法が何度も放たれている……それは今までよりも遥かに威力のある魔法ばかりだ。
受ける自分に少しの余裕すらない……魔法を扱うのが苦手なシュートは後ろで待ってもらっている。
もしも防ぎきれなかった時の保険として待機してもらっていた。
溜められた魔力で水を増幅させ、巨大な水が宙に浮かぶ……それを自分の背中に近づけ杖を刺すと、杖の先端から圧縮された水が猛烈なスピードで放たれる。
急いで魔力を使い水を同じ様に放つが、威力が比較にならない程だ……自分の魔法は簡単に弾かれてしまい、盾で受け止める結果に。
無くなるまでどれくらい掛かるだろうか……いつまで耐えればいいだろうか……強烈な水は自分の膂力で抑えるのも精一杯だ。
だけど、これを抑えなければ父が危険な目に合ってしまう……いくら保険でシュートが後ろにいるとしても、同じく長くは持たないだろう。
ならばここで食い止めなければと思い耐え続ける。
しかし、いつになっても魔法が終わらない……圧縮して放出しているとは言えかなりの量が放たれている。
「シュート、後どれくらい残っているのか教えてくれ」
「いや……水は減っていないよ」
「嘘だろ?
足元は水浸しだぜ、減っていないはずが……」
「クレアさんは片方の手で杖から水を放出しているけど、反対の手で水に触れて水を増幅させているんだ」
勘弁してくれよ……いくら魔力量が多いからって、そんな事しなくても……
「何でも良いから、クレア先生の手を攻撃して増幅を止めれないか?」
「解った……やってみるよ」
シュートは周囲に落ちている石などを拾い、横に動いて手を狙い投げる……
距離もある為、簡単には当たらない……けど、狙いを定めて何度も投げ続けてくれる。
耐えている俺の腕も限界に近い……踏ん張っていられるのもそう長くない……
その時……底冷えのする様な感覚に襲われる。
それはここに来てから一番長い間一緒にいた女の子からは今日まで一切感じた事もなかったもの……
そして、仲間と戦うハメになってしまった原因だ。
それが俺に近づいている……体はもうすぐ限界を迎えようとしているのに、そんなものから逃げれるのかどうかも解らない。
近い……けど、一定距離から近づかない……
すると、響の横を通り過ぎていく……向かっている先は……
「シュート!逃げろ!」
マズいシュートにはあれが見えても感じれてもいないんだ……
「あなたを置いて行けません!」
勘違いしている……どうする…どうすればいい?
前からは水が、シュートに向かってルカの魔力が接近している。
俺がしなきゃいけない事は…………
気づいた時にはシュートを吹き飛ばしていた……魔力はシュートがいた場所に、今いる俺の所に……
―――――――――――――――――――――――――――――――
もう少しでルカを倒せる……これが済めばみんなで反撃だ。
そして、みんなで生きて無事に帰るんだ……
その時、自分の腰に違和感……
視界を下ろした時に目に入ったのは腹部から剣が出ている。
後ろを振り返り、目にしたのは産まれてからずっと見てきた息子の顔だ……だけど、見た事のない憎しみを持った表情……
「ウォオォォ……ォオ」
まさか操られて……
ルカの顔を見た瞬間、苦痛の中に笑みを浮かべている様だ。
貫通した剣が引き抜かれる。
それと共に一気に力が抜ける……足元には大量の血が流れ落ちる。
チェーンで傷を治さなければと思い魔力を込めようとするが、限界まで消費していた体に魔力はほとんど残っていなかった。
次の瞬間、激痛が走る……その貫通した傷が気が狂う様な痛みを引き起こしている。
しかも、一気に流れ出した血の所為で意識が朦朧としている。
「……響……目を覚まさ……せ」
俺を睨みつけたままルカを抱き抱える響の姿……
ルカを倒せずに悔しいのか……愛した息子から向けられる憎悪の視線に悲しみを感じているのか……
俺が倒れるまでの最後の記憶になった………………
今回もお読みいただきありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしております。
次回もよろしくお願い致します。