概念
少女を吹き飛ばし全力で魔法を放ったレインは纏いを解き、その場に座り込んだ……ケイン程纏いの力を制御出来ていないレインは、纏いを行うだけでも大量の魔力を消費してしまっていた。
「大丈夫ですか?」
「……はい兄様、回復薬を飲めばなんとか動けると思います」
袋に入れておいた回復薬を取り出そうとしていた時だった……有り得ない事が起こった。
「……勝手に……終わら…せないで……もらえますか……」
レインが全力で攻撃したにも関わらず、少女は立ち上がってきたのだ。
「……どうやったのか解りませんが、生きてるだけでも驚きですね」
「攻撃が当たる瞬間に魔獣化を解いて、魔法をぶつけて威力を軽減しました……死にさえしなかったですが…………屈辱です……」
レインは既に魔力は残っていませんし、私だって連戦の所為で残った魔力は僅かです……正直これ以上の戦闘は厳しいですね。
少女は再び魔獣化するが、レインの攻撃に対して多大な魔力を消費した所為か、姿を保つのがやっとの様だ……
「まだやりますか?
その状態で戦えば、命に関わりますよ」
「それでも……」
そう言っている途中に少女の体が闇に包まれた。
闇魔法によって魔力をどんどん吸い取られてしまっている様で、遂には強制的に魔獣化を解かれてしまった。
「遅いと思ったら、魔獣化したやつと戦っていたんだな」
声のする方を見上げると、ジンさんがここに来ていた。
さっきの魔法はジンさんの魔法でしたか……
「すいません……」
「謝る必要はないさ、こんなのが相手だったら仕方が無い。
それで、ここが最後で間違いないか?」
「私が通ってきた場所で、制圧出来ていないのはここだけです。
最後と言う事は、フューリーさんはもう」
「着いたぞ。
だから助けに来れたんだ」
「あなたは誰なんですか?
急に割って入ってきて失礼な方ですね」
「魔獣化が解けたと思ったら、正体は女の子か……」
「戦うのに歳が関係あるのですか?」
「……ないな、だけど死ぬには早すぎると思っただけだ」
「死ぬ……?
私がですか?」
「そうだな……敵である以上仕方ない事だ。
それとも、死ぬ覚悟すら無くて戦場に来たのか?」
「私は死にません!
神が……神が守ってくれているのですよ!」
「戦えても頭の中はまだ子供の様だな……神が助けてくれるのであれば、こんな戦争すら起きないんじゃないか?
人同士が殺し合う様な世の中なんてある訳ないだろ」
「それは神の御心を理解しない人が居るから……」
「じゃあ、理解出来る者だけが生きて良いと思う訳か?
随分と身勝手な理屈だな……そして、随分と傲慢な神様だ事」
「神を馬鹿にするのは許しませんよ!」
「許さないならばどうする?
そんな状態で神に変わって制裁を下すと言うのか?」
少女は黙り込んでしまった……現状でジンさんに勝てないのは明白な事です。
それが解っても信教を貫きたいが、そうもいかない歯痒さを我慢しているのでしょうね……
「神様なんてな信じたい者だけ信じれば良いんだよ。
祈りを捧げる事によって一日一日にありがとうと思えるのなら……
だけどすがるものがなくて、誰かに助けて欲しいから神様にすがるなんて事は間違ってる。
しかもそれを強要したり批判されて怒るのであれば、それはもう神様の意思じゃない。
個人の意思を勝手に否定したり、自分の感情を勝手に神の名前を借りて相手を傷つけたりして神様に罪を擦り付けているんだ。
どちらとも身勝手な自分の思想の所為なんだよ」
「そんな事は……ない……」
「じゃあ何か?
この戦争も神様が望んだから起きてるのか?」
「そう……です……」
「人同士が殺し合うのも神様の意思なのか?」
「…………」
「これだけ話していても、誰も助けに来ずに死んでしまうお前も神様が決めたからか?」
少女は声を出す事を止めた様だ……ジンさんの話しを聞いて頭の中で否定しているのか、それとも……
「どうする?
神様からのありもしない助けを信じて俺に向かって来て当たり前の様に殺されるか……」
ジンさんは少女をどうしようとしているかが判りませんね……ただいたずらに自分の言いたい事をぶつけている様には見えませんし……
「……神に仕えている私が死ぬのですか……神に祈っても助けてすらくれないと言うのであれば、神はいったい何の為に存在しているのですか……」
ようやく少女が口を開いた……敵であるジンさんに質問を投げかける。
「そんな事は知らん……結局は誰かの心の支えになってくれる様なものの象徴だろう。
そんなものが実質的に助けてくれる事はないさ……今まで俺が助けてもらったと思い当たる節もないしな、俺が無神論者だからかもしれないが」
『俺の事はどうなるってんだ……』
ブラッドが小さく呟いたのは聞こえていないフリをした……
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