卑劣
ケインは敵の胸元付近に手を突き出す……相手は逃げようと必死に抵抗するが逃げられない。
鎌を何度振り下ろしても当たらない、風魔法で攻撃しても届かない……
どちらの攻撃も途中で方向を変えられてしまうのだ。
ケインの手のひらから衝撃波が繰り出される……ナイフでも切れなかった外殻だ、至近距離からの衝撃波であっても破壊する事は出来ない……後方に吹き飛んだり、ただ1度の事であればの話しだ。
ケインの衝撃波は広範囲に飛ばす事なく、手のひらのサイズで石を壊す程の鈍器で殴られる様な威力だ。
それを胸部目掛けて至近距離で連射して撃ち込んでいく……
相手に与えているダメージは目に見えて判りにくいが、胸部を中心にずっと揺さぶられ続けている。
次第に衝撃波が放たれる回数が増えてくると、相手の胸部に変化が現れた。
ピシッという亀裂音が相手の体内で響く……少しづつその音の周期が早くなってくる。
相手はただ体内にダメージを与える為の攻撃だと思っていた……結果は自分の体にヒビが入っている。
「結構時間が掛かりましたね……硬いとは思っていましたけど、ここまでとは思いませんでしたよ」
何故俺の体にヒビが入っている!?
多少の威力はあれど、外殻を壊す程の威力はないはずだ……そう思っているのでしょうね。
ここまでくれば後は早いですよ……
揺さぶられ続けている相手は声を返す事すらままならない。
そうしている間にも亀裂は大きくなっていく……そして、胸部に縦に傷が開いた。
体から血が流れるのを衝撃波が回りに吹き飛ばしていく。
開いた傷口から衝撃波が容赦なく撃ち込まれていくと、肋骨を突き破り肺を潰し遂に心臓に届く……大漁の出血がケインに飛ぶが、相手の攻撃が当たらなかったのと同じ様に周囲に飛び散った。
「この……やり…く…ちで……お……も…い……だし…たぞ……
お…まえが……何で……ここ……に…………」
「肺が潰れて声を出すのも大変でしょうによく喋れましたね。
私を知っていたんですか……なら良かったです。
殺す事が出来て……」
周囲の風が収まり相手が崩れ落ちる……戦いは続いていたが、皆の意識は2人の戦いの方にあった。
その敗北は自軍の負けを意味する様なものであった……敵兵は戦意が薄れ、次々と倒されていく。
ここはもう大丈夫でしょう……残りを片付けてジンさんの元へと行かなければ。
「残りの敵はもう少しです!
すぐにここを制圧しますよ……皆さん行きますよ!」
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同時刻……ケインと同じ様に爆発を聞いて、敵陣に挑んでいた。
そこでも魔獣化した人間が待ち構えていた……戦況は拮抗状態だが、そこには人の姿で傷だらけのフューリーがいた。
「あぁあ……口ほどにもないのね。
正直がっかりしたわ……折角頂いた力を試せるのにその程度だなんて」
「まだまだ余裕よ……これ位の傷なら何の問題もないわよ」
「そんな事は私を傷ひとつでも負わせてから言うんじゃなくて?」
相手はラミアへと魔獣化した者だ……特に相性悪いと言うわけではない。
単純に強いというより狡猾なのだ。
持ってる三叉の槍で攻撃する際は、フューリーの後方に必ず人がいて回避すればその者が死ぬ様にしていたり、ダークエルフを魅了して操り攻撃してくる。
いずれも回避等させてもらえず、全ての攻撃を体で受けるしかなかったのだ……
「そろそろ飽きてきたわぁ……」
「私だってあなたの顔を1秒だって長く見たくないわよ」
「あら……意見が合ったわ。
じゃあ心置き無く死んでちょうだい!」
巨大な尻尾がフューリー目掛けて襲いかかる。
またも後ろの兵を巻き込んで攻撃しようとしている……そうはさせまいと、フューリーは前進して尻尾を止める。
しかし、それが相手の狙いだった……攻撃を止めたフューリーに対して尻尾で絡めとる。
間一髪上空へと飛び上がり尻尾の巻き付きを回避するが、構えていた槍をフューリー向けて突き刺してくる。
フューリーは戦中に拾った剣で流し、拾った縦で後方に攻撃が行かないように受け止めた。
その所為で後方へと吹き飛ばされている。
「いい加減しぶと過ぎるわよ。
しつこい女は嫌われるわよ」
槍を振り回し追撃してくる……槍を下から蹴り上げると、いくつもの火球を飛ばしてくる。
水の壁を創り、火球を全て消し去る。
ようやく着地しようとしたフューリーに、後方から相手が操ったダークエルフの兵士が剣を振り下ろす。
着地寸前で回避出来ずに背中を剣が掠めてしまう……
「惜しかったわ……もう少しで終わるかしら?」
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