算段
全てが相手の読み通りになっているのか?
それ以外の事はないのか?
「落ち込んでおる暇などあるのか?」
今まで一切口を開かなかったサンドラ様が口を開いた。
ずっと話しを下向いて聞いていた様だったが……
「ですがこの状況は……」
「ヤツらの想像した通りだと?
だからこのままやっても負けると言うのか?」
誰もが再び口を閉ざす……打開策が思いつかないのだ。
何かをしても、それも思惑通りだったとしたらと悪い方向に考えて始めてしまう。
「大の大人がこんなに集まって、簡単に白旗を挙げるなど……バカしか居らんのか?」
「サンドラおばさんには何か良い手があると言うのか?」
「ある……と胸を張って言う程の事ではないがの。
数日前に追加の援軍を依頼しておいたのだ……新米ばかりの軍では心許ないと思ってな。
訓練の為と思っていたから戦争に巻き込むつもりはなかったが」
「何人位で何時到着する予定なんですか?」
「300程ではないかと思うぞ……ついでに魔獣も100程連れて来る様にしておる。
早ければ今日の夜には到着すると思うが……」
「合計400か……ん?魔獣…と言えば」
フューリーがいる……彼女の存在はどこにも漏れていないだろう。
ならば使える……彼女と、彼女の配下の魔獣を使えば虚を突くことが出来ないだろうか?
「フューリーに頼んで魔獣を加えて攻撃出来れば……」
「あの人型になっておる魔獣か?」
「そうです。
少なくともここいらの魔獣の中では上位の存在で、魔獣を先導する事は可能だと思います」
「フューリーか……ならば妾もそやつに話しがある故、纏めて話しをして来よう」
「俺も一緒に行ってお願いします……彼女には願いを言ってばかりで申し訳ないからですね」
「ならばそうしようか、会議で話す内容は以上か?」
「まだまだ不確定要素が多いから、現状ではここまででしょう。
一旦、軍を城内で戦闘準備を済ませて配備して、ケイン達工作部隊は周囲の確認をお願いする」
「では、ジン殿の言った通りに行動を開始だ。
全ての準備が整った時点で再び戦略の練り直しを行う……ひとまず解散!」
国王の締めの言葉で一旦皆が別れる。
俺とサンドラ様はフューリーが居るであろう後方部隊の所へと向かった。
城内の広場に後方部隊が集まっている事を聞き、急いで広場に到着するとすぐに発見する事が出来た。
「すまないフューリー、今から少し時間を作れるか?」
「構わないけどどうしたの?
サンドラ様まで一緒になって来ていると言う事は、何かしら危機的状況って事かしら……」
「ご名答……とりあえずは俺の部屋で話そう。
ここだと人が居過ぎて話し声が聞こえないよ」
そう言うと、フューリーは頷き同行してくれた。
俺の部屋に着くと、サンドラ様が急に話しを始めた……
「久し振りねフューリー、覚えているか解らないけど」
「覚えていますよ……サンドラお嬢様」
「ん?どういう仲なんだ?
二人は元々知り合いなのか?」
「そうよ……フューリーは私の父様の妹であるフィリアの使い魔なの。
そして、今の姿はフィリアの真似で人間族に化けているのよ」
「魔族を元に人間の姿になっていると言う事か……お互い気付いていたなら、何故今まで話さなかったんです?」
「お互い気を使っていたのよ……過去の事件でお互いがいい思いをしていないからね」
「過去の事件って勇者の事か?」
「そうね……妾もその事で今更慰め合う気は無かったから……出来るだけ思い出したくない事でもあるから。
ところでガリアはどうしたの?一緒じゃないのか?」
「彼は……」
それから先は俺が説明した……その場にサンドラ様は居なかったから知り得ない情報だった。
全て説明した後にサンドラ様の表情に苛立ちが見て取れる……
「そう……イルニードが関わっているのね。
見つけたら真っ先に殺してやる……妾の家族が残した大切な者に手を出した事を後悔させてやる」
物凄い威圧感が発せられている……サンドラ様にとってフューリーもガリア大事な存在だと……
「だけど今は危機を回避せぬとな……フューリーがここいら一帯を仕切っているのであろう?」
「一応そうです……ですが山の魔獣達は逆に敵対している状況です」
「森の魔獣だけでも十分であろう。
今更山の魔獣までも味方にする時間はない……急ぎ魔獣を集めておくのだ。
集まり次第伝えてくれぬか、その時に指示はジンが出す故」
「解りました……時間は掛けません。
集まり次第報告に参ります」
そう言ってフューリーはその場を後にする……サンドラ様は俺の方を向き、不敵な笑みを浮かべている。
「妾達魔族の援軍とフューリーの魔獣達、反撃の為の手札は手に入ったぞ、後はお主の采配次第ってところかしら……期待しておるぞ」
確かに手札も手に入ったけど、それを任されるなんて……でもこれが唯一相手の裏をかく為の一縷の希望だ。
じっくり考えて動かなければ……
「ありがとうございます。
ふたつの手札は有効活用させてみせます」
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