意識
敵の大半を片付け、残る人間達の戦意は大きく削いだ。
これで勝ちは確定だろう……後は味方にどれぐらい負傷者がいるかだ。
早急に怪我を治さなければならない者がいなければ良いが……
そういった者がいた場合の為に、いくら状況が良くてもすぐにでも終わらせなければならない。
戦意があろうが無かろうが、残り僅かの敵に対しても容赦なく攻撃を仕掛けていく……
どこまで入り組んでいるのかが判らない為、範囲攻撃を止めて近接戦闘を行う。
融合と腕輪の力で、動き自体恐ろしいスピードになっている。
魔力探知を行いながらでないと視覚が追いつかず、攻撃が出来ない程だ。
しばらくそうやって攻撃を続けていくと、向かっている側から味方が押し返して来ている。
俺とダークエルフ軍に挟撃にあっている人間達は、遂に両方からの攻撃を抑えられなくなり、そのまま全滅した……
『ジン、そろそろ解いた方がいいぞ』
さすがに長く融合状態を継続し過ぎたかもしれない……言われてすぐに元に戻る。
「ジン……なの?」
「そうだよフューリー……危険だと聞いたので、急いで駆けつけて来たんだ。
みんなは無事なのか?」
「殆どは無事よ……けど、ライラが……」
「ライラに何かあったのか!?」
「まずはこっちに来て」
フューリーに連れられ奥へと向かうと、そこにはアリとサリの姿……そして、横になっている血だらけのライラの姿があった。
「何でこんなに怪我しているんだ?
大丈夫なのか?」
「説明するわね……人間達が現れて戦闘が始まったんだけど、現れたのがドワーフ達の後ろで、ダークエルフ達はドワーフ達を挟んだ反対側に位置していたの。
その中で唯一ライラはそこに居たの……それでドワーフ達を守る為に、敵陣に対して単身で相手をしなきゃいけなくなった。
私がライラを確認出来た時には四方を人間に囲まれていて、辛うじて凌いでいたけど助け出す直前に捌けなくなって、次々と斬撃を喰らったの……急いで治療したのだけど、意識が回復しないのよ」
「アリ、命は大丈夫なのか?」
「判んない……だって傷を治して、呼び掛けても反応しないんだもん」
元の世界程の医療技術がある訳では無い……しかもアリは医者ではなく、ただの回復魔法が得意な魔法使い……状態の把握なんて出来る筈がない。
「こっちの怪我人の処置は終わったから、僕に診せてくれない?」
そう言ってやって来たのはメロだ……
「メロ…何か解るのか?」
「僕の家は元々医者で、僕もそこで手伝いと称して患者さんを診ていたから判るかもしれない。
少し時間はかかるけど、任せてくれないかな?」
「頼む…判ればどうにか出来るんだ……」
チェーンの効力で治すにしても、状態を把握出来なきゃ対応出来ない……意識を回復する為に怪我しなかったって事で使えば、治っている怪我に対しての力と、他の要因に対しても戻してくれる。
怪我に対しての対価はただのダメージだ……けど、意識を回復しない他の要因に対しての対価はなんだ?
もし、そうやって使えば俺も意識を回復しない可能性がある……それだと回復したとは言わない、ただ移しただけで解決しない。
だけど特定出来れば対価も判るだろうし、他の治し方もあるかもしれないんだ。
様子を診ていたメロがサリを呼ぶ、サリに何かを指示して確認している様だ。
「ジンさん、解りました……」
「どうなっているんだ?」
「先程サリさんに確認してもらったんですけど、ライラさんは戦闘で血を流し過ぎています。
それによって体内の血が足りていません……出血多量と言う事です。
それと、戦闘で使った魔力と出血と一緒に出た分で魔力量がほぼ0に近い状態です。
魔力を回復させるのは回復薬で補えますが、彼女の体内の血液量が少な過ぎて、その状態で回復薬を飲ませるとなると魔力酔いを起こし、昏倒してしまう状態になってしまいます。
それでは現状と同じで、意識が回復する事はありません」
「なら輸血すればどうにかなるんじゃないのか?」
「輸血ですか……それはあまりに危険です。
成功する場合が少な過ぎます……」
もしかして血液型なんかが判らないって事なのか?
そうであれば確かに死んでしまう可能性の方が高い、そんな危険な事は出来ないぞ。
「血液型とかって言葉を聞いた事は?」
「申し訳ありませんが無いです……」
輸血の歴史なんか知らないが、そこまでの医療技術がないのか……血液型を見分ける方法なんか知らないし、知っててもすぐに出来るかどうか解らない。
それならばチェーンの力で血を元通りにしてしまえばなんとかなるだろうけど対価は俺の血液になるのか?
そうなった場合に俺は意識不明になる可能性があるんじゃないか?
力の指示は出血しなかった事にする……ならば確実に失われた分の血液量の同等分を俺が失う……それじゃあダメだ。
何か良い方法はないのか?
全部の血液を戻さずに、俺が意識不明にならずにライラの意識が回復する程度の血液を戻す方法は……
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