教え
「さっき言った村の話しを少し聞いても良いか?」
「俺達の村の話しですか?構いませんよ」
「さっきの話しで、教えがどうとか言っていたが……」
さっき彼らの話しを聞いていた途中に、村での禁止事項とか教えがどうとか言っていた……もしかしたら信教があるのか気になったのだ。
「それですね……うちの村は昔から人間達と同じ神様を崇めていたんです。
教団みたいな組織じゃあないですけど、村一帯で教えを大事にしてたんですよ……まぁ、俺達の代では廃れた風習ですけれどね」
「じゃあ、今は誰もやってないのか?」
「昔から住んでいた年寄りなんかはまだ拝んでいるんじゃないですかね……俺らは、他種と人間との戦争や教団の話しを聞いてますから、そいつらと同じになりたくなくて、親からも止めろって言われてますね」
「でも、ずっと人間達とはいがみあってきたんじゃないのか?
神の使者って言ってたのも人間だったろ?」
「そうなんですけどね、最初の使者って言われていた人は、うちの村を助けてくれていたらしいです」
そう言えば、使者そのものが悪いのではなく、その取り巻きが悪さをしている様な話しだったな……だから、他の種族と仲が良かったとしてもおかしくはないって事か。
「それで同じ神を崇める様になったって事か……」
「そう聞いてます。
その後、使者が死んでからも暫くは神への信教を行っていたらしいのですが、人間達が他種族と戦を始めてからはどんどん廃れていったみたいです」
「で、今はほとんどの人がやってないと言う事だな……」
「ですね……それに加えて今回の戦で更に衰退するでしょう。
同じ神を讃えているから、教団のあり方にも反対するでしょうし、俺と同じ理由で離れていく人も多いでしょう」
「教団と同じに見られたくないか……」
「はい……結局は祈るよりも、自分達で解決するしかありませんし」
「そうだな、何もせずに祈ってどうにかなるんだったら、みんなそうしてる。
最後は自分を信じて頑張り続けたからこそ成果が生まれるって事だもんな」
「仰る通りです。
その為に俺達は今回の部隊に参加したんです。
どんなに厳しい訓練だって乗り越えてみせますよ」
「良い意気込みだ。
じゃあ、昼からは3人でずっと俺と一緒に格闘戦をやるか」
「それは多分体が持たない様な気がしますが……」
「残り2人はどうだ?」
2人は少し仰け反った形に身体を動かし、顔を横に振った。
「冗談だよ。でも、これからの為の助言は出来るぞ」
「それならよろしくお願い致します!」
さっきの態度と真逆の態度、そんなに俺と格闘戦するのがいやなんだろうか……まぁ、もう一度鍛えてから戦えば楽しみもあるかな。
「ゴードンは攻撃が直線的過ぎる。
もう少し本命以外の攻撃を含めて撹乱させて攻撃する事。
手数を増やして1発にかけるか、その1発で逆に撹乱するかだ。
ゴードンの攻撃力なら、どれが当たっても有効打になるからな。
次にヘンリーだが、手足の長さを活かしての攻撃は良いが、全てが大技になってしまいがちだ。
全てを大技にせずに小技で攻撃を繰り出せば、その間に隙が生まれて大技を決める事が出来るハズだ。
最後にジェームスだけど、見る力が弱過ぎる。
一見して速さには目を見張るが、目が追い付いていないだろう?
だから、俺の体当たりと衝突するハメになったんだ。
出来るだけ動体視力を強化して、その場その場の対応が出来る様になる様にしておくんだ」
3人は頭の中でシミュレーションしている様だった……言った事が全て出来るとは思わないが、そこに至れば戦闘で優位に立てるだろう。
「ありがとうございます。
午後の訓練でやってみます」
「じゃあ頑張ってくれ」
「ジンさんは行かないんですか?」
「明日の為に色々とあってな……まだ最終的な話し合いをしてないんだ」
「明日って……確か、技術部隊とかの試験じゃないですか?
なんでジン隊長が行くんです?」
「それの管理も兼任なんだよ」
「隊長の兼任ですか!?」
「まぁそうなるな、特に技術部隊は俺が力を入れたいところでもあるからな。
戦争に勝つために、相手より上の武器や防具を持てれば、数で劣勢でも勝機があるだろ」
「確かにそうですが、大変ですね……」
「でも死傷者を減らせる方法のひとつさ、出来る事は何でもやっておくのが俺の信条だからな。
さて、もうすぐ午後の訓練の開始時間だ……午後からも頑張ってな」
「ありがとうございます。
色々と勉強になりました……またよろしくお願い致します」
3人は一礼して走り去って行った。
戦闘訓練をやった後に、こんな感じで教える事が出来れば良いのかもな……
しかし、あいつらの出身の村には何かまだあるかもしれない……ダークエルフ領の唯一の信教がある場所…何か無い方がおかしいかもしれない。
今後行く機会を作って行ってみよう……
その後、ここにやって来るハズの大飯食らいを待っているが一向に現れない……何をやってるのか気になって、部屋まで行ってみるとまだ寝ている。
しかも酒臭い、部屋中に酒瓶が大量にある……完全に飲んだくれて潰れている様だった。
というか、どっからこんなに大量の酒を手に入れたんだ?
とりあえずは2人を起こす事にした。
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