格闘戦
護衛の任務に駆り出された人員以外の隊員で、無手での戦闘訓練が開始された……残っているのは30人程度で、どうやらアーチは護衛の方に行った様で居なかった。
最初の相手が俺の前に立つ、初っ端からガタイの良い者がやって来る。
一礼をし構えに入ると、合図とともに駆け出して来た……初撃は相手の方からの右拳でのストレート、左手で払い軽く腹部目掛けて下から打つと、それが鳩尾に綺麗に決まる。
相手は悶絶して倒れ込んでいる……しまったな、あまりに綺麗に入ったもんだから、すぐに終わってしまった。
気が付けば周りの視線がこちらに注目しているのに気付く……ヤバいと思ってリュードの方を見ると、こちらを睨んでいた。
「目の前の相手に集中しろ!
これが戦闘中でも同じ事をするのか!!」
リュードが荒らげた声で叫ぶ、皆は我に帰り戦闘を再開する。
俺は倒れた相手の様子を伺おうと近付くと、ゆっくりと立ち上がってきていた。
「大丈夫か?」
「まだまだやれます……よろしくですか?」
ダメージが大きく残っているのが表情から解る……だけど、ここで止めたら彼のプライドもあるだろう。
もう一度構えに入り、戦闘を再開する。
彼の動きは、やはり精細さを欠いている……息が苦しいのもあり、上体を上げているだけでも辛いだろう。
ようやく、1戦目の終了の合図がなる。
一礼をして離れようとする彼を呼び止め、チェーンの力を使い少しだが回復させた。
彼は回復されたのが解ったのか、お礼を言われて次の相手の元へと向かう。
やり過ぎたところもあるし、まだまだ続くだろうと思っての事だった。
すぐに俺のところに次の相手が来る……再び構えて合図がなる。
今後の相手は長身だが、先程に比べて体格はさほどガッチリした感じはないがリーチは明らかに負けている。
相手は様子見でなかなか動き出そうとしない、ではこちらから仕掛けようと重心を動かした瞬間に、思いもよらない距離から頭部目掛けての蹴りが襲う……ギリギリのところで屈んで回避し体勢を立て直そうとすると、逆の足で俺の顔面目掛けて真っ直ぐに突き出されてくる。
このまま回避しても、また同じ様な攻撃を仕掛けられて後手に回ってしまう……それならばと思い、突き出された足を下から殴る。
踝に直撃して攻撃の方向反らすのと、相手の体勢を崩すのに成功した。
そのまま一直線に突っ込むと、バランスを崩している状態から軽く飛び、最初に蹴りを放った足で再び頭部目掛けて蹴ってくる。
だが、それを気にせずスピードを上げて突っ込む……頭部目掛けて放たれた蹴りは、俺が突っ込んで来た所為で肩に太股が当たって終わる。
そのまま浮き上がった身体を下に叩きつける様に拳を振り下ろす……相手はガードしていたが、お構いなしに殴りつけた。
俺の拳をガードしていた所為で、受け身もとれずに床に頭部から落ちた……そうなる様に、殴る威力よりも体重をかけて攻撃したのだから。
相手は気を失っていた……再びマズい事をしたと思い、周りを見渡すと案の定視線が集まっている。
直後終了の合図を知らされると、リュードが近寄って来る。
「加減をして下さい加減を……使い物にならなくする気ですか?」
「すまない……次からは上手く加減するから」
リュードは気を失った者を壁際まで運んで行った。
リュードが戻って来て、再び格闘戦が開始される……今後の相手は平均的な体格の相手だ。
合図がなった瞬間、目の前から相手が消える……その場に立ったままだとマズいと思い前方に移動して振り向くと、やはり後ろから攻めてきていた。
そして再び目の前から消える……しかし魔力探知を既に行っていた為、相手の居場所はすぐに特定出来た。
今度は右側面から攻撃を仕掛けられている……それならばと、頭を下げ重ねてガードの体勢で相手に向かってショルダータックルで反撃に出る。
相手の方向を見もしないでの攻撃だったのが功を奏した……反撃までの動作が少なかった為、相手が方向を変える事が出来ずに衝突した。
激しい衝突音が響いた後、相手が上に飛ばされているのを確認する……見事思惑通りにいった。
足を使って移動されると厄介だから、足を使えない空中に跳ぶように、出来るだけ低い体勢でタックルを行ったのだ。
後は相手の着地点に走り込み、トドメを喰らわせれば終了だが……どうやって加減したものかな……
威力のない攻撃だと決まらないし、かと言って当たり前の威力でいけばまた怒らられる……難しいな。
ただ、着地までにはもう時間がない……迷った挙句、出した答えは……
着地する為の足を払い、その場に転倒させる。
だけどその瞬間は短い、絶妙なタイミングで行わなければならない。
意識を集中し、そのタイミングに合わせ蹴り出す……すると少し早かったのか、つま先に当たってしまい勢いよく回転させてしまう。
このままだと、頭から地面に叩きつけてしまう……とっさに蹴った足を戻し、頭を打つ前に肩を狙い横に飛ばす。
なんとか頭からの危険な体勢での衝突は避けれたが、勢いまでは殺せず結構な勢いで横から叩きつけてしまった。
その後、終了の合図がなる。
相手はなんとか立ち上がり、次の相手のところに向かって行った。
攻撃しての加減はよく判らないな……それならば防御に徹するか、隙があれば少しだけ攻撃するスタンスでいこう。
それからは全ての攻撃を捌くのに集中して行った。
隙が出来れば、急所以外の場所を軽く反撃していく……
それを昼まで行い、最後の終了の合図を確認する。
捌くだけだと結構大変だった……いかんせん永遠と攻撃が続いてくる。
一撃に重点をおく相手だとやりやすかったんだけど、スピードタイプはドンドン最初のうちは早くなってしまうから、手に負えなくなってしまう。
なんとか隙をついて反撃していたが、当てるのも難しい時も合った……なんとか凌いで調子に乗せない様に攻撃で止める様にしていた。
ゆっくりと休憩がてらに食堂へと向かう、するとさっき格闘戦で当たった最初の3人が寄ってきた。
「ジン隊長、先程はありがとうございました」
「いや、俺も良い訓練になったよ。
3人とも良い動きだったな……」
「お褒めに預かり後衛です。
そう言えば名前も言っていませんでしたね。
私はゴードン、そして身長の大きい彼がヘンリーで、すばしっこいのがジェームスです」
なんか聴いた事のある名前ばっかりだな……まぁそれはいいが特徴のある3人だな……
「よろしくな3人とも」
その後は4人で昼食をとりながら、色々と話してくれた。
3人ともが同じ村の出身で同い年で、ずっと一緒に成長してきた事や、ここに来てまで一緒の部隊に入った腐れ縁等の話しを聞いていた。
色々な話しの中にひとつ気になる話しが混ざっていた。
まだ、時間もあるし少し掘り下げて聞いてみよう……
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