特訓
その日部屋に戻ったのは随分と遅い時間だった。
部屋の前にはライラがいるのまでは確認したが、そのまま気を失って倒れてしまった……
気が付いたのは真夜中、ベッドの横にはライラとアリとサリが居たが、3人とも眠ってしまっている。
多分だけどライラが運んでくれて、2人を呼びに行ってくれたんだろう……迷惑掛けてしまったな、初めての融合状態での特訓でこんなになるとは思ってみなかった。
起き上がって身体の様子を伺うと、痛みや疲労すらなかった。
2人が回復させてくれたのか……
『ブラッド、起きてるか?』
『起きてるさ、ちょっと前まで3人が心配そうにずっと声を掛けていたんで、眠る事すら出来なかったぞ』
『お前の方は何もないのか?』
『実体を持っているのはお前さんの方だからな、俺の方は問題ないさ』
『もっと早くから特訓しとけば良かったな……急にやるもんじゃないか』
『まぁ、危機的状況は間違いないからな……』
「ジン……目が覚めたの?」
ライラが目を開き、俺が起き上がっているのに気が付いた。
「ライラありがとう……心配掛けてしまったな」
ライラは起き上がり、思いっきり俺に抱きついた……急に倒れ込んで目を覚まさなきゃ心配するよな。
「急に倒れるんだもん……本当にビックリしたんだから……」
「あぁ……すまなかったな。
だけど、2人のお陰で大丈夫だ……」
「何があったの?」
「ちょっと今後の為にと特訓してたんだ。
次の戦までに鍛えておきたくて……」
「何の特訓してたのよ……ジンが倒れるなんて」
「前に見せた変身した状態で特訓したらこの有様だ……勇者と戦う事になった場合、あの状態になるからな。
その時の為の特訓さ」
「無茶は止めてよね……どんなに呼び掛けても起きなかったから、凄く心配したんだから」
「今後からは抑えるよ。
明日には出発なのに本当に悪かったな……」
「良いの……何よりジンが心配だったから。
私が居ない時に同じ事にならないでよね」
「大丈夫だ……今日で掴めたから」
「お願いね……ところで、今日は横で眠っても良いかな……今から部屋に帰るにも遅いし……」
「迷惑掛けたからな、そのくらいは良いよ」
「うん……ありがとう」
ライラはそっとベッドの中に入って来て、俺の腕に頭を置き抱きついた。
身体が全快になったのもあり、眠気も全くないこの状況でこのシュチュエーションはなかなかのものだが、なんとか我慢せねば……
結局そのまま朝を迎えた……もちろん眠ってもいないし、襲ってもいない……ただ、起きてきたアリとサリに色々と詳しく説明するハメになったのだ……
アリとサリが帰った後、まだ眠っているライラからそっと抜け出し修練場に向かった。
ライト達が待っているだろう……何も言わずに行かないのは悪いと思ったので、急いで向かった。
やはり先にライトとリレイは来ていて、既に訓練を始めていた。
「2人ともおはよう」
「ジンさんおはようございます。
珍しく遅かったですね、何かあったんですか?」
「昨日の夜に訓練をやり過ぎてな、お陰で色々と迷惑を掛けてしまったんだ」
「昨日の夜にアリとサリが走って行っていたのは、もしかしてジンの所なの?」
「そうなんだ……やり過ぎて倒れてしまってな。
急な激しい運動はダメだな、特に俺みたいな年寄りは気を付けないと」
「そんなになるまでやったんですか?」
「まぁな……色々と出来る事はやっとかないといけないと思ってな」
「それでも倒れるまでやっちゃダメよ。
それに、ジンが思っているほど年寄りだなんて誰も思っていないわ。
ジンが年寄りだったら、同い年の私まで年寄り扱いになるじゃない」
「リレイの言う通りだな、これからは抑えてする事にしたよ。
それと、リレイは年齢程の見た目は全くないだろ?
そんなカワイイ娘に年寄りなんて思うやつはいないって」
「……そんな、カワイイだなんて……」
「ジンさん、意外とやり手ですね」
「ん?正直な意見だけどな。
まぁ、そういう訳で今日は見学させてもらうよ。
2人の気づいたところを注意していく事にするから」
「解りました。
では、よろしくお願い致します。
リレイ様、始めましょう……リレイ様」
「あっ、はい!
よろしくお願いね」
その後は2人の訓練を伺っていた。
リレイもコツを掴んでいたのか、正確に攻撃を繰り出せる様になっていった。
ライトは既に完璧に探知出来る様になっている……このままだと本当に抜かれかねないと思う程だった。
朝の訓練を終了した後は、ドワーフ領に護衛に行く者達を見送りに行った。
昨日来てくれていた3人もそこにいる。
見送る時に俺に対して無茶しない様にと逆に心配されてしまった……本当は俺が無事を願って送り出さなきゃいけないのに……
見送った後、憲兵部隊の訓練場へと向かうと、既に訓練が始まっていた。
皆に挨拶し、中に入るとリュードから声をかけられる。
「昨日は何をされたんですか?」
「ちょっとな……」
「訓練場を使うのは構いませんが、後は少し掃除をなさって下さい。
私が来た時には汚れていましたので」
昨日はそれどころじゃなく、意識を保てるギリギリで戻ったから、汚れ等に気が付かなかった……本当に色んな人に迷惑を掛けてしまっている。
「すまない、以後気を付けるよ」
「はい、お願い致します。
それで今日は、武器無しの格闘戦を行いますが、私も参加致します。
ジン殿も一緒に参加されませんか?」
「良いですよ」
「では、皆に報告します……」
それからリュードが隊員達に説明をしていった。
俺とリュードも隊員の中に混じり、組手を行う……混じる前にリュードから一言だけ注意を受けた。
「自分が楽しむ訳ではありません、隊員達に注意していく為に一緒に組手をやるのですから……」
完全に自分の訓練と考えてやろうとしていた……
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