2話 恋愛応援同盟
さくら・海・聡成の3人はトイレの前で、話し始めた。
「さて、僕はさっき名前を言ったけど、他のみんなはちゃんと下の名前は言ってなかったから、改めて自己紹介をしようか」
「俺は氷見聡成、氷を見るで氷見、聡明の聡に成功の成で聡成だ、よろしく!」
「わ、わたしは川口さくらです、う、上手くしゃべれないんですけど……すいません」
「大丈夫だよ、自分のリズムでしゃべるだけで、上手くしゃべれているように見えるから、それに、アッキーも僕もヒデちゃんも上手くしゃべれないからってイラつかないから、いざとなったらフォローを入れておくから安心してね」
不安そうなさくらを、海は得意の優しい笑顔で落ち着かせる、あまりにも良い笑顔なので、クラスメイトからは『天然タラシの海ちゃん』とこっそりと呼ばれている事に本人は気づいているが、天然タラシでは無いと言うのが本人の弁である。
「あ、ありがとうございます、──話があるんですけど、ダメですか?」
「おう、俺たちでよかったらなんでも言ってくれ」
少し安心したのか、さくらはゆっくりだが落ち着いて話始めた。
「美伶ちゃん──一緒に来たわたしの友人なんですけど──は、容姿が地味だからって言ってなかなか積極的に告白出来ない人なんですけど、井領さんには今までにはない反応をしているんです。井領さんってどういった人なんですか?」
「そうだな……ちやほやされても、冷めた目で自分の事を見てるやつだな」
「しっかり周りを見て、冷静で的確に物事を判断出来る人だね、負けん気が人一倍強いからこっそり努力するタイプかな」
2人の言葉を聞いて、さくらは確信した。
「井領さんの事が好きになるのは、自然な事だったんですね……」
「なあ、親友から見て、美伶さんってどんな人なんだ?」
聡成の言葉に、少し間を置いてさくらは話した。
「忙しいわたしを、学年2位にまで上げる位、勉強を教えるのが上手くて頭がいいお茶目な人です」
それを聞いて海が唸った。
「お互いタイプがどんぴしゃりだね、……問題はお互い告白出来るほど恋愛に対して自信が全く無い事だね、……容姿に自信がないっていうけど、顔は整っているのにね」
それを聞いてさくらもがっかりした。
「このままだと、告白できずにずっと友達のままですね……あの、1つお願いしたい事があるんですけど」
「僕たちもヒデちゃんの友達としてお願いがあるんだけど、良いかな?」
「「「どうか告白の協力をしてください」」」
思わずハモってしまった3人は、ひとしきり笑ったところで握手を交わした。
「辛い時に励ましてくれた、美伶ちゃんの恋に協力してくれてありがとうございます」
「こちらこそ、秀章の事をお願いします」
普段元気な聡成も丁寧な言葉を使うほど、双方にとって、良かったと感じていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「3人ともトイレが長いわね……どうしたのかな?」
「分からないな……、海もアキも不逞なヤツじゃないんだが……」
こういった事になぜか鈍い2人は、自分たちの恋愛相談をしているとは露とは知らず、のんびり紅茶を飲んでいた。
「紅茶飲み切っちゃったから、さくらのと交換して驚かせてみようかな~」
「あっはっは、お茶目だな、すぐに分かるだろうに」
「分からない方が尚の事良くないでしょ? イタズラに気づいてもらってこそ、イタズラは成立するんだから」
美伶はイタズラっぽく笑うと、本当に入れ替えた。
「そうか、だったら俺はアキのゲーム機からソフトをこっそり抜いて、カバンの中に入れておこう」
「後で気づくパターンね、今日中に分かるに3000点」
「俺は家に帰ってすぐに気付くに10000点だ」
「読み通りなら得点2倍ね」
こちらはデータが消えないようにちゃんと箱に入れて、聡成のカバンの奥にしまい込んだ。
「ごめん、美伶ちゃん遅くなっちゃった……あれ?」
ちょうど3人が帰って来て、席に座ると早速さくらが気づいた。
「美伶ちゃん、わたしの紅茶とすり替えたよね」
「ううん、ちょうど右側から妖精が私のカップにさくらの紅茶を入れていたから私じゃないよ」
真面目そうに答えたが、内容で誰でも分かる答えだったので、さくらは黙ってカバンの中から音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを美伶につけ音量レベルを最大まで上げた。
「ぎゃあああああ! ごめん、ごめ……すいませんでした!」
必死に謝罪をした美伶から、さくらはイヤホンを取った。
「わたしだって反撃するよ、分かった?」
その顔は、久しぶりにあった人の名前を思い出した以上にすっきりしていた。それを見た海と聡成は、敵に回すのは止めようと深く心に刻んだ。
「本当に仲が良いんだな……おっと、もうそろそろ帰ろうか?」
「あっ……ちょっと良いですか?」
「どうした」
「さっき海さんと聡成さんと仲良くなったので……また、このメンバーで遊びに行きませんか?」
本当は秀章と美伶の仲を取り持つために、関係を続けようという話なのだが、秀章は全くその意識はなく、美伶もどちらかというと、さくらが積極的に行動し始めた事に関心が強く向いていて、全く気づかなかった。
「そうだな……部活が忙しいからなかなか会えないかもしれないが、それでも良いか?」
「は、はい、わたしたちは帰宅部なので予定に合わせられるので大丈夫です」
「えっ、私も参加決定済み?」
「うん、……井領さんと近づけるチャンスだよ」
後半の部分は美伶だけに分かる位こっそりと耳元で囁いた、それを聞いた美伶は顔を赤くした。
「さくら!」
「? どうしたんだ」
「いえ、何でもないから、あっ、塾の時間だ、じゃあね!」
美伶は伝票を持って慌てて逃げ出すと、代金の半分を出して去って行った。
「塾なんて行ってないのに……あ、ありがとうございました。──これは美伶ちゃんの電話番号とメアドです、わたしは前に教えたので良いですよね」
「良いのか? 勝手に友達の連絡先を教えて」
「い、井領さんなら大丈夫です、家に帰ったら一回電話してあげてください──わたしもこれで失礼します!」
代金の残り半分をレジで払ったさくらは、最後に礼をして帰っていった。
「良かったねヒデちゃん、女の子の連絡先ゲット出来たね」
「信用してくれてありがたいんだけどな……本当に迷惑じゃないのか?」
「秀章は相手の事好きなんだろ? 一回アタックしてみればいいじゃんか」
「ば……バカ野郎! 俺なんて好きになった所で、相手が迷惑するだけだ」
こちらも美伶同様、顔を真っ赤にして叫んだ。
「だったら、僕たちがサポートするから、ベタなセリフだけど、恋のタッチダウンを決めちゃってよ」
「うううう~」
協力してくれるのがありがたいが、図星だったので素直にお礼が出来なかった秀章はただ唸るしか出来なかった。
「男気あふれる秀章の、珍しい唸り声を聞けて気持ちいい!」
ウキウキしていた聡成だったが、家に帰って来てゲームをしようとした時に、秀章のイタズラに気づいて天を仰いだ。
秀章、20000点獲得。