3-2話 友の密かな恋心
今回、少し短めです。
「美伶、ちょっといいか?」
「うん、どうしたのクマさん」
午後の授業が終わり、誰もいなくなった教室で帰り支度をしようとしていた美伶に、三白眼の男子生徒が声をかけた。
「俺には、竜造寺壮馬ってちゃんとした名前があるって言っているのに、お前くらいだよなクマ呼ばわりするのは」
「クマなのは、同じ名字の戦国武将からって言ったのに、強くて可愛いよ、クマさん」
いまいち会話の論点がずれているが、お互い異性の友人としては一番仲が良い2人の間には、のんびりした空気が流れていた。
「それで、用事はなに?」
「今日カフェでデザートを食べに行かないか?」
場合によってはデートの誘いとも取れる行動に、美伶は首を振った。
「ごめん、今日先約がある、ひったくりを捕まえてくれた人にお茶を奢るんだ」
「そうか……、今月時間が空いている日ってないか?」
「来週の月曜日は暇だね、結構先だけど大丈夫?」
壮馬の目が和らぎ、相好を崩した。
「ありがとう、──あと、1つ聞いていいか?」
壮馬は嬉しそうな顔から一転して、真剣な顔になって美伶の顔を見た。
「友情から恋愛って発展すると思うか?」
人から見れば怖さもあるが、その真剣な目に冗談抜きで美伶は答えた。
「人それぞれだけど、──私はあり得ると思うよ、友情も恋慕も繋がっているんじゃないかな、だから友達に恋しても不思議じゃないと思う、実際に恋愛経験はないから断言出来ないけど」
それを聞いた壮馬は、何か希望を見つけたと言わんばかりの顔をしていた。
「そうか……ありがとう、少しだけ自信がついた」
「なになに、恋しているなら相談に乗るよ~」
壮馬は少し困った顔をして、美伶に笑いかけた。
「自分の気持ちがはっきりしたら教える、また明日、じゃあな」
「うん、また明日、じゃあね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
壮馬と別れた後、教室を出ると怯えたさくらが美伶を待っていた。
「美伶ちゃん、壮馬君と何かあったの?」
さくらと壮馬はあまり面識がなく、面識がないクラスメイトが壮馬に持っている印象は、『本気で怒らしたら街1つ壊滅する、伝説の不良』という本人にとってはありがたくない内容だった。実際は純朴な好青年なのだが、鋭い目つきのせいでひたすら怖がられる寂しがりやだった。
「さくらも怖がらずに話しかければいいのに、恋愛相談だったよ、誰に恋しているか教えてもらえなかったけど」
「どうしても、目を見て話そうとすると怖くなっちゃう……」
(これを直さないと、芸能界で成功するにも、これから芸能界を辞めて就職するにも、どちらにしても良くないんだよね……)
美伶はなかなか頑張ろうとは言えなかった、結局本人が頑張り過ぎるから一回潰れてしまった所がある、その上でもう1回勝負させる勇気を持てないでいた。
「まあ、これからひったくりを捕まえてくれた井領君や氷見君、ケガしたさくらの応急処置をしてくれた中上君にお礼を言えたらいいよね」
「お礼をちゃんと言えるかな……」
美伶の目がくわっと見開いた。
「お礼くらいちゃんと言わなかったら、ラジコン禁止にするからね!」
「は、はいぃぃっ……」
それもプレッシャーを与えている事になっているとは、美伶はあまり考えなかった。
美伶がどんどんお母さん色が強くなっている……