3話 夏の定番(実態は年中行事)
秋ですけど、夏ネタですいません。
美伶の切り傷も大分癒え、夏休みも終盤に差し掛かった頃、美伶の携帯が秀章の着信を知らせた。
「もしもし、秀章どうしたの」
「傷の状態は良いのか?」
「しっかり休ませたからね、無理に力仕事をしなかったら破れないよ。それでさ、さくらが傷の事で切れたでしょ、いまだに怒っててどうすれば機嫌直してくれるのか分からないんだよね……」
「しばらくは反省してた方が良いぞ、俺も美伶が悪いと断言しているからな」
「助けてよ~恋人でしょ……」
珍しく美伶が弱っていると、秀章はそれならそれで良いと思い慰めなかった。そして、本来の用件を伝える。
「まあ、それなら問題ないか。……プールは好きか?」
「なになに、デートの誘い!」
「元気メーターが一気に回復したな……」
さっきまで弱っていたのが演技だったのかという程、一気に立ち直った美伶に少しあきれながらも、秀章は話を続ける。
「終了したら掃除をするって条件で、プールを貸し切りで使えるそうだ。さくらが所属しているバンドの水中トレーニングのついでに一緒にどうだと海が誘ってくれてな。海の知り合いがプール運営者の上司だから知り合いだったら良いと許可してくれた」
つまり少人数で割と大きめなプールを自由に使え、芸能人にも会えるチャンスという訳だ。美伶は芸能人には興味が無かったが、秀章と落ち着いてプールに行けるというのが魅力的だった。
「秀章とまったりプールって良いね……あっ! 私の水着を見たいんだ~」
「下心が無いと言えば嘘になるが……嫌なら強要はしないし、どちらにしろタダで水中トレーニングが出来て筋力アップや疲労回復にもなるから俺は行くけどな。──どうする?」
「なんか一石三鳥位狙っていて抜け目がないね。──行きたいから連れてってよ、その代わりにさくらに謝るチャンスをもらえないかな」
「……本当に反省して無茶な事をしないなら協力する、美伶の傷つく所をもう見たくないんだ、さくらも俺も」
美伶は良い人に巡り合えた事を噛み締めて言う。
「……うん、約束する。どうしようもない場合以外はちゃんと助けを呼ぶし無茶しない」
「言質を取ったからな、約束を破ったら何でもいう事を聞く事」
「良いよ、関係が進んで変な事しても付き合ってあげるよ~」
「俺はどんな反応をすれば良いんだ……」
色々と複雑な感情を抱きながらも、約束の日を伝えて電話を切った秀章は、その日を楽しみに待ちわびていた。
「さてと……秀章のハートを掴む水着でも買いに行こうかな……成長してますように」
平均的なスタイルの自分を見ながら、美伶は財布とカバンを持って出かけた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「サク、プールでシエスタでもするつもりか!! レオもサボっているようじゃ3流アイドルという称号すらも褒め言葉になるな、悔しかったらしっかり練習しろ猫野郎!!」
秀章とさくらが所属しているバンド全員が、水と鬼コーチの虎太郎に揉まれながら、水中トレーニングをしていた。
やがて練習が終了する頃には、アメフトでしっかり鍛えている秀章すらもへたり込んでしまった。さくらに至っては倒れて動けなくなっていた。
「皆さん……凄いですね」
秀章が息を切らしながら言うと、足をプルプルさせたスタイルの良い秀章より1つ上の女性が首を振った、彼女がギターの野呂飛鳥である。
「めっそもない、あちきだって何回もやってこれやのに、初回で終わった後に話せるなんて流石ラガーマンやな」
「アメフトだからフットマンです、野呂さん」
「すまんなぁ、それと飛鳥でええよ、秀章くん。さっさと休んで彼女さんと遊んで行きや」
飛鳥にお礼を言って美伶の所に行くと、海と一緒に水中ウォーキングをしていた。
「……ちょっとだけ休憩しても良いかな?」
「私はまだ全然大丈夫なのに、まだまだ体力ないね〜」
「1000メートル平泳ぎをノンストップでやった後で、永遠ウォーキングさせられたら大抵の人はバテバテだよ!」
海の情けない抗議に、秀章は呆れていた。
「そんなんじゃ、プロ野球審判何で夢のまた夢だぞ。俺の半分もやってないだろ」
「くっ……」
痛い所を突かれて言葉に窮している海から視線を外し、秀章は美伶の方を向いた。
「……こういう時、どう女性を褒めたら良いのか分からないが、……凄い綺麗だな、似合っている」
「ありがと、新調してみたんだけど、似合わなかったらどうしようかと思った。……それに近くでグラマーな人がいたからね、自信失ってたし」
「確かに飛鳥さんはプロポーションは良いが、だからと言って美伶に魅力がない訳ではないしな。……それに、美伶は俺以外に魅力を振りまかないでほしい、嫉妬で美伶をむちゃくちゃにしてしまうから」
「うっ……!」
結構凄い事を言っている自覚がない秀章が、大胆に言ってのけるので美伶は顔が赤くなっているのを隠そうとして顔をそむけた。
「熱いなープールは冷たいのによそ者がアツアツだ」
トゲのある言葉を吐きながらやって来たのは、秀章よりも華やかで和風な顔立ちをしている青年だった。彼がボーカルをやっている牧田斐文で、足を庇って歩いている所を見ると、障がいが残ってしまったのが分かる。
「プールを使わせてもらってありがとう、……まあ、必死にトレーニングしているのにイチャイチャしていたのは申し訳ない」
「……良いよ、仕事で丁寧にヘコヘコしていたから、メンバーの親友位素の自分を見せても良いかなって。それにあの虎太郎さんが許可しているなら口は堅いだろうし。しかし化粧化けしやすい顔とはいえ2人とも地味だな」
元アイドルとは思えない、毒舌ぶりを発揮する斐文に秀章と美伶は苦笑した。
「出会って間もない人にえらい言われ様だな、もし俺がキレて実力行使で簡単にやられるのは分かっているだろ?」
「私どころか海ですら勝てる気がする、海と戦ったらフルボッコにされるに10000万ペソ」
「大した自信じゃないだろ、ドルやユーロを使わずにペソを使っている辺り」
「僕はどれだけひ弱と言いたいんだよ!!」
さすがに声を荒げた海が、なぜか関係ない秀章をプールに引きずりこんで沈めようとしていると、他のメンバー達が集まって来た。
「なになに、ケンカでもしちゃってる?」
「違う違う、モヤシ君の八つ当たりだよ。玲央は真面目君だからねー」
1歳年下の斐文に嫌味を言われている斐文よりは、多少男性的な顔立ちの男子がベース担当の櫻井玲央、ちなみに芸歴も玲央の方が斐文より2年上だ。
「海君は体力があると思いますよ、そうじゃなかったらミニマラソンで完走できませんから」
「つまりは力の抜き方が下手くそって事だね、海君は」
「美伶ちゃんには話してないから、だから海君は練習すれば大丈夫ですよ」
「さくらちゃん……いい加減仲良うしたらどうや」
まだ美伶の事を許していないさくらに飛鳥が心配していると、秀章が海を道ずれに体を沈め、しばらくして水面から顔を出した。
「ふう、何とか海を振り切った……。──さくら、美伶と無茶をしたら何でもいう事を聞くって約束すれば良いじゃないか。海にもアキにも飛鳥さんにも斐文にも、玲央さんにだっていう事を聞く約束をさせよう」
秀章のとんでもない発言に、美伶が抗議する。
「そんなの、むちゃくちゃじゃない!? さくらや秀章は良いし、海君や聡成君もまだ分かるけど、初対面の皆さんにまでそんな約束しないといけないの?」
「嘘こかんきゃ良いだらー何を言っとるの?」
「やれやれ、親友の仲直りを手伝おうとしてるのに文句言うってわがままな人だよね」
「ここは素直に、彼氏さんの意見に従った方が良いんとちゃいます?」
「今回は美伶さんの味方はいませんよ」
なぜだか異様な程アウェー状態の美伶は、さくらと仲直りしたいと思いつつも、何とか譲歩出来ないか必死に頭を回転させていた。
プールで季節は夏ですが、さくら達はトレーニングなのでおそらくこれから年間を通して虎太郎にしごかれます、ガンバレ高校生。
方言で不審な点がありましたらご一報ください、すぐに直します。




