プロローグ 男前と才媛
試合時間残り5分、楕円形のボールをガタイの良い仲間から井領秀章は受け取った、残り5ヤードまで来たが攻撃権利はあと一回、負けている状況で点差は4点、サッカーだったらここから勝てる可能性はほぼないが、アメフトなら端のエンドゾーンまで運べば6点獲得できる、乾坤一擲のラストチャンス。パスか、それともランか、秀章が選択した作戦は──。
「捕れよ、アキ!」
今日パス成功5-0の氷見聡成に秀章は大胆にも投げた。相手チームもこの状況で成功率0%の氷見に投げると思っておらず聡成はフリー、聡成はしっかりとボールを掴みエンドゾーンへ駆けた。
ワァァァー!
「秀章、ありがとう!」
聡成は秀章に思いっきり抱き付いた、この作戦を監督に反対されながらも説得したのは秀章だったのだ。
「お前がチームを救ったんだ、俺はただお前に投げただけだよ」
それを聞いた仲間全員が秀章に駆け寄った。
「兄貴!」
「お前マジでカッコいいな!」
「後輩だけど、お前について行くからな!」
もみくちゃにされながらも、少しだけ笑顔を見せた秀章は、この試合の勝利で1年ながら注目を集める事になった。
☆☆☆☆☆
「テストを返すぞ、真田」
県内でも有数の進学校、その学校に入る事は国公立、あるいは有名私立大学を射程範囲にしているという事だ。真田美伶はその中でも異彩を放っていた。
「また2位と1点差か、ここまで続くとなると、ワザと調節しているんじゃないだろうな」
「そんな事はないです、私も本気出してやってますよ」
全員のここまで出来るだろうというところまで予測しているが、その誤差が大体5点~1点というだけで実際は毎回1点差に出来ている訳ではないとはのちに本人は語っているが、ただの勉強だけではない観察力も美伶にはあった。
「次、川口」
次点で美伶の親友の川口さくらもまた注目されている1人だ、彼女は芸能プロダクションに入っていて尚且つこの成績の才女だ、美伶を除く、全員がなぜ時間もないのに勉強が出来るのか不思議に思っていたが、ただ単に美伶が勉強を教えていたというだけの事だった、それほどまでに美伶の学力と指導力は次元が違う。
「美伶ちゃん、今回もありがとう」
「芸能活動で困っているさくらを手助けできる事と言えば、私の場合勉強くらいだから、今日は息抜きに遊ぼうか、さくらのおごりで」
「今月、2人分遊ぶ余裕あるかな……」
さくらをからかいながらも、全員の順位を見て予測と実際の点数を確認している美伶だった。