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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
51/71

征臣の父からの宣告と、ほのかの迷い。

よ、四か月も更新できずに本当に申し訳ありませんでした!!orz

時が経つのは早いと申しますか、自分でも酷く青ざめております;

というわけで、皆様に連打で土下座をしつつ、更新を再開させていただきます。


獅雪征臣・父からの要求と、秋葉家次男とのツーショットの写真、

接触してこないパパラッチなどなど、色々と問題が積み重なっていますが、

とりあえず、今回は征臣のマンションでの生活が始まった一日目。

ほのかが幼稚園に出勤し、仕事を終えた後から始まります。


「私に、お客様……、ですか?」


「うん……。なんか、誰かに似てるような気がするんだけど、とりあえず、お金持ちっぽいおじさんが、表で待ってるんだ。心当たり、ある?」


 幼稚園での仕事を終えた夕方の事、征臣さんのマンションに戻る支度を終えた私を、透先生が不安顔で呼びに来てくれた。

 秋葉家の昴さんではなく、ましてや、征臣さんでもない……、中年の高級スーツを着こなした、少し怖い感じのする人らしい。

 私にそんな知り合いがいたかな……。記憶を探ってみるけれど、該当者がいない。

 ううん、一応思い浮かんだ人が、いるにはいる。

 だけど、まさか……、そんなわけが。


「わかりました。幼稚園の外ですね。すぐに行きます。呼びに来てくれて有難うございました、透先生」


「俺、一緒に行こうか? なんか、威圧感をビシバシ感じるっていうか、知らない人なら危険があるかもしれないし」


 確かに、いつも明るくて元気な透先生がこんな風に子犬のような顔をするなんて、余程迫力のある人だったに違いない。

 まさか……、私と秋葉家の次男、悠希さんの写真を送り付けてきた人だろうか?

 でも、高級スーツを着こなした中年の男性という情報から考えて……、パパラッチらしくはない。

 

(だからといって、油断し過ぎるのも駄目、よね……)


 透先生が一緒なら心強いけれど、最初から会わない方が何も起きないんじゃ……。

 一度、征臣さんに連絡して相談を、と、携帯を取り出しかけたその時。


「いつまで待たせる気だ?」


「「え?」」


 職員室の入り口に……、まさかの、征臣さんのお父さんが!!

 私と一緒にいる透先生をひと睨みした後、征臣さんのお父さんは外へと私を促した。

 も、もしかして……、私に会いに来たのは、パパラッチの人じゃなくて、この人だったの!?

 

「ちょっ、勝手に部外者が入って来られたら困るんですけど!!」


「ち、違うんです!! 透先生!! その方はっ」


「大丈夫!! 俺がほのか先生を守るから!!」


 いやいやそうじゃなくて!! その方は征臣さんのお父さんなんです~!!

 私の制止も聞かず、征臣さんのお父さんへと睨みを利かせにいった透先生が、面倒そうに溜息を吐かれ逆に鋭い威嚇を受けてしまう。


「何を勘違いしているのかは知らないが……、私は彼女の付き合っている獅雪征臣の父親だ」


 ……、……、……。

 ガルルっと、私の番犬を担うかのように頑張ってくれていた透先生が、その言葉にぴたりと動きを止めた。あぁ……、本当にごめんなさい。私のせいで、そんな恐ろしい視線を受け止めさせてしまって。


「ま、征臣さんの……、お、お、おおおおおおおお、お父さん!?」


「騒々しい男だな……。ほのかさん、こちらへ」


「は、はいっ。透先生、ごめんなさい。私、行きますね。お疲れ様でした!」


 とにかく、一刻も早くこの場を去るのが透先生の為だ。

 征臣さんとよく似た面差しのお父さんが放つ威圧感は凄まじい。

 さながら、檻の中からゆっくりと表に出る獅子のように、視線だけで他者に恐怖を与えている。

 鈴城家と獅雪家での顔合わせでは穏やかな風を装っていたけれど、こっちがきっと征臣さんのお父さんが抱く本質なのだろう。

 初めて征臣さんと会った時と同じ、猛獣の気配……。

 その脅威から透先生を救う為、私は大人しく幼稚園を後にしたのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「征臣との事に関してだが、何度説得されても、私は君が仕事を辞めない限り、正式な婚約はさせたくないと考えている」


 征臣さんのお父さんに連れて来られた高級ホテルのレストランで、私は食べられる寸前の子兎の心境で縮こまっていた。

 何度も足を運んでお願いしていた件だけど、とうとう征臣さんのお父さんを苛立たせてしまったらしい。自分の息子の婚約者になる予定の人間だと、もう片鱗も認識していないのか、完全に拒まれてしまっている気しかしない。


「まだ征臣には話していないが、私はあれを海外に出したいと思っている」


「え……」


「最低でも三年はあちらで学ばせようと考えている。だから、自分の仕事を捨てでも息子に寄り添わない女はいらない」


 ワイングラスの中身をひと口含んだ征臣さんのお父さんが、邪魔な存在を排除しようとする目で私を射抜いた。怖い……、何か、何か言わなきゃいけないのに、その鋭い視線を正面から受け止めているだけでも、身体が震えてどうしようもない。


「わ、私、は……」


「征臣には、その身ひとつで一生あれの傍で添い遂げてくれる女性を探す。すでに何人か候補を秘書に探させている。君はもう……、必要ない」


 征臣さんが、別の女性と……、結婚する?

 突き付けられた現実に、私の心は冷たく色を失くしていくように凍りついていく。

 言葉が……、出ない。どうか考え直してほしいと懇願したいのに、胸の奥が苦しくて、辛くて。


「それに、君の相手なら幾らでもいるだろう?」


「え……」


「あの幼稚園の騒々しい同僚と」


 すっと、テーブルの上に差し出されたのは……、一枚の写真。

 それを見た私は、胸の奥で鼓動を刻む心臓を刃で切り裂かれたかのように青ざめた。

 秋葉家の次男、悠希さんとの写真。どうしてこんな物を征臣さんのお父さん、が……。


「仕事が大事だと言いながら、男を惑わす事にも熱心とはな」


「ち、違います!! 私は、悠希さんとは何もっ」


「他にも、秋葉家の長男、三男、……君の周りは男ばかりだ。この時点で、私の息子の嫁には相応しくない。適当に相手を選んで添い遂げるといい」


 話は終わりだと、涙に濡れる私を切り捨てるように……、征臣さんのお父さんは席を立った。

 あまりに一方的な宣告に、――私の中で何かがぷつりと冷たい音を立てて切れる。


「待ってください」


「もう話はない」


「こんな事……っ、大事な人のお父さんに言う事じゃないかもしれませんけどっ」


 ゆらりと席を立ち上がった私は、頬に伝う涙と共に眦をきつく吊り上げた。

 どうして……、どうして、この人が何もかも私達の事を決めるの?

 結婚するのは私と征臣の二人。お互いの気持ちや今後の事だって、ちゃんと二人で話して納得しあっているのに。征臣さんのお父さんは、まるで自分の結婚相手を見定めるかのように勝手な事ばかりを押し進めようとする。


「私が、我儘な事はわかっています……っ。でも、結婚は、当人同士の問題で……、お義父さんが全部決めていい事じゃないと思うんです!!」


「征臣は、獅雪の家と会社を継ぐ大事な存在だ。後々の憂いを払う為にも、親として私は征臣に不要な存在を排除したいだけ。それの何が悪い?」


「――っ!」


 何を言っても無駄なんだろう……。

 征臣さんの為に仕事を捨てられない私を、酷く疎んでいる気配が伝わってくる。

 だけどそれは……、私に、というよりも、多分、家庭よりも仕事を選んだ自分のお母さんの事を憎む感情なのだろう。

 私に、自分のお母さんを重ねて見ている……。

 もしも私が、今ここで仕事を辞めると、そう伝えれば……、婚約を認めてくれるかもしれない。

 だけど、頭の中に幼稚園の子供達の笑顔が浮かんで、どうしてもその選択肢を選べないでいる。

 せめて……、あと一年、時間を貰えれば……、担当しているクラスの子供達の卒業を見送らせてもらえれば、自分の心に折り合いをつける事が出来るのに。


「征臣を海外にやるのは、今から三か月後だ。たとえ君が今征臣を優先すると言ったとしても……、もう君を認める気はない。ではな」


「そんなのっ、横暴過ぎます!! 私は、真剣に征臣さんの事がっ」


「真剣だと言いながら、全てを捨てる覚悟も持たず、男を侍らせている女の話は吐き気がするな」


 駆け寄った私の手を払い、完全に切り捨てる事に決めた征臣さんのお父さんが、レストランの入り口へと消えていく。

 その場に崩れ落ちた私は、スカートに染みを作る涙の滴が落ちていく様を見つめながら……、奥歯を噛み締めた。この結末を招いたのは、私自身。

 征臣さんよりも、幼稚園の子供達を優先した私の我儘のせい。

 あの人には私じゃなくて、何もかも捨てて傍に寄り添える女性でないと、認められないのだ。

 獅雪家は、征臣さんのお父さんの意思が何より優先される……。

 二人でお願いし続ければ、わかってくれると思っていたのに……、駄目だった。

 征臣さんのお父さんの目には、私は複数の男性と関係のある優柔不断でどうしようもない女だと映ったのだろう。力なく立ち上がり、テーブルの上にある悠希さんとの写真を手に取る。

 印象は最悪、あの冷たい目には、私は完全に邪魔な存在として切り捨てられた。

 私は写真を手にレストランを出ると、どうにかホテルの入り口まで辿り着いた時に歩く力が保てなくなり、外に続く自動ドアの前で崩れ落ちてしまった。


「ほのか!!」


「……征臣、さん?」


 どうしてここに征臣さんが?

 自動ドアを越えて駆け寄って来てくれた征臣さんが、顔面蒼白になっているだろう私を支えて立ち上がらせてくれる。

 優しい征臣さんの温もり……。お義父さんから与えられた凍りつくような恐怖が、徐々に癒されていく。


「透から話は聞いた。親父が何か言ったんだな?」


「……それ、は」


 私の状態を見れば、すぐに察する事も出来る。

 征臣さんは悔しそうに眉根を寄せ、私の肩を擦りながら自分の温もりの中に私を閉じ込める。

 

「すまない……。俺が、もっと早くにお前を迎えに行ってやれば、親父に勝手な事を言わせずに済んだってのに」


「征臣さんのせいじゃありません……。私が、お義父さんの望む嫁になれないのが、悪いんです」


「ふざけるな!! お前を自分の嫁にするのは俺で、親父じゃない!! お前の仕事の事は、俺が納得づくなんだ。口を挟まれて堪るかよ!!」


 その怒鳴り声に、ホテルのロビーにいた従業員の人達や訪れているお客様達が驚いたように振り返ってくる。彼がそんなに憤ってしまう程に……、私の有様は酷いのだろう。

 征臣さんに他の女性が用意されると知ったその時点で、目の前が暗くなるような心地を覚えたあの時。そんな状態になっても、私は征臣さんの為に今すぐ幼稚園を辞めるとは言えなかったのだ。

 私なんかには勿体ない程に素敵な人との奇跡のような出会いを、結ばれた縁を、自分から手放したも同然。お義父さんから突き付けられた言葉の全ては、私の身勝手さを指摘していたように思う。

 全部に納得出来るわけじゃなかったけれど、それでも……。


「ほのか、とりあえず車に戻るぞ。親父の事は気にしなくていい。俺が全部何とかするから」


「……」


 ホテルの前に停めた車へと促された私は、心の奥で強い罪悪感を覚える。

 いや、何度もそれを感じた事はあったけれど、結局……。


(私は征臣さんの優しさに甘えすぎているんだ……)


「マンションに戻ったら、美味いもんでも食ってゆっくり休め。ずっと傍についてるから」


 助手席に乗せられ、運転席に乗り込んできた征臣さんが私の手を取って励ますように温もりをわけてくれる。……そんな優しさを受ける資格が、私にあるのだろうか。

 幼稚園の先生になる夢は、親友の幸希ちゃんの夢でもあった。

 夢を叶えて、頑張って立派な先生になろうね、と……、ずっと、頑張ってきた道。

 結局私は、その大切な夢さえも……、中途半端なものにしてしまおうとしているのではないだろうか。

 

「征臣さん……」


「ほのか?」


「私……、やっぱり……、征臣さんのお嫁さんになる資格なんて、ないのかも、しれません」


「……は?」


 征臣さんが将来継ぐ会社は、その社長の席にいずれ座る彼は、重責と多忙な日々を背負う事になる。心も身体も、大勢の社員達の生活と会社の命運を守る為に疲れ果て、自宅はそれを癒す唯ひとつの場所となるだろう。征臣さんは、子供が出来るまでは幼稚園の仕事を続けていいと言ってくれた。子供が生まれて手を離れれば、また好きな仕事をすればいいと。

 けれど、お義父さんからの要求でそれは出来なくなり、私が妥協出来るのは、来年の春……、子供達の卒業を見届けて、仕事を辞めるという事だけ。すぐに捨てる事が出来なかった。

 来年まで待って貰えれば、どうにか自分の心に折り合いをつけて、自分自身を誤魔化す事ができると……、そう、思い込んで。

 だけど、結果は全て意味のないものとなってしまった。

 征臣さんとの結婚も、夢見て頑張ってきた憧れの職も、全てが中途半端。

 そんな私が、征臣さんの優しさに甘えていていいわけがない。

 ぽつりぽつりとそう話す私に、征臣さんの機嫌が目に見えて悪くなっていく。


「俺から離れるって……、そう言いたいのか? お前はっ」


「私は……、征臣さんの優しさに甘え続けていました。貴方の事を一番に優先する事が……、出来なかったんです。お義父さんが、征臣さんを三か月後に海外へと送り出すと聞いても、その場で全てを捨てて付いて行くって……、い、言えなかったんですっ」


「それは、お前が幼稚園の子供達を大切に想ってるからこそだろう!! それに負い目を感じる必要なんかっ」


「けど!! 獅雪家のお嫁さんに必要なのは、夫の為に自分の全てを捨てられる女性なんです」


 そうでなければ、獅雪家の次期社長の妻は務まらない。

 来年の春まで待って貰えたとしても、きっと幼稚園の職に未練を残す事になるだろう。

 私の為に一生懸命になってくれる征臣さんの為にだけ生きる事は、今の私にはとても難しい。

 大丈夫だと、そう言い含めてくれてきた征臣さんだけど……、それは、彼が私の為に無理をし続けるという事だ。気付いていたはずなのに、見ないフリをしていたのかもしれない。

 支えられ、守られるだけの私じゃ……。


「征臣さん、ごめんなさい……。私、凄く、我儘だったんです」


「あのな……っ、親父が勝手に条件つけてるだけで、お前には何の罪もないんだぞ!! 自分が悪いとか、俺の傍にいる資格がないとか、そんな後ろ向きな事なんか考えるな!!」


「私……、今日は自宅の方に戻ります。色々……、一人になって考えたいので」


「おい、人の話を聞け!! お前を今一人にしたら、どう考えても面倒な事になるだろうが!!」


 征臣さんの温もりから身を引き、車の外に出ようとする私に、妨害の音が響いた。

 助手席の窓に、征臣さんの右手が乱暴に叩き付けられ、腕を掴まれ引き戻される。


「い、痛っ、ま、征臣さんっ、離してくださいっ」


「誰が離すか、この大馬鹿野郎!! お前はもう俺のもんなんだよ!! 勝手に自己完結しようとすんな!!」


 静かに、冷酷に敵意を向けるお義父さんとは違い、息子の征臣さんはいつもストレートだ。

 獅子の咆哮のように声を荒げ、私の腕を掴んだまま強引に車を発進させてしまう。

 走り出せばどこにも逃げられない、そう考えての行動だろう。

 苛烈なまでに怒りを滾らせたその眼差しを車道に注ぎ、スピード違反としか言えない速度で日の暮れた道を過ぎ去っていく。

 

「ま、征臣……っ、私、家に」


「お前が帰るのは、俺のマンションだ。ウダウダ面倒な事考えてネガティブになる暇なんか、もう与えてやらねーからなっ」


「えっ……、そ、それって」


 まるで、透先生の許から私を強引に連れ去った時のように、征臣さんの目は怖すぎる程に怖い。

 暴走の前触れ……、というべきなのだろうか。

 私は恐る恐る彼の事を窺いながら、自宅に戻してくれるように懇願する。

 今は彼の傍にいられる自信がない。一人になって、少し色々と自分の中の迷いを整理したい。

 この時、無性に会いたくなったのは、親友の幸希ちゃん。

 幼い頃からずっと一緒で、悩みがあれば必ずお互いに相談し合っていた大切な人。

 共に同じ夢を見たからこそ、今、彼女に会いたくて堪らないのだ。

 それなのに、征臣さんは横目で私を睨み付けると、また前を向いてさらにスピードを速めたのだった。

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